誰に対しても、その場しのぎの嘘をついて

おとなしそうな雰囲気で

イイ人ぶっているバカ夫は嘘をつきすぎて

自分がついた嘘を忘れている


Episode3


「何で ここの歯抜けていてナイの?」

最初に聞いた時は

「ヤブ医者にかかって、ただの虫歯なのに

治療に失敗して抜かれた」

「それって、どこの歯医者?」

バカ夫はアゴがしゃくれていて

上の歯より下の歯の方が少し前に出ていた

それぐらいに骨や歯が丈夫そうなのに

左の上の奥歯から2本目が1本抜けていた


次に抜けていた奥歯の話を聞いた時は

「駅で見知らぬ酔っぱらい同士が

喧嘩をしていたところに

偶然通りかかって止めに入った時に、

片方のオヤジのパンチが頬に入って、歯が抜けた」

「えっ!どうして仲裁に入ったの!?」

「全く知らない人達だったんでしょう?」

「片方のオヤジがヤラレっ放しで、そのオヤジ側の女性が誰か助けて下さい。って言ってたからだよ」

「それでどうなったの」

「中に入って止めていたら、からんでた奴が

殴ってきたから、イッテ〜と思って

(中学は柔道部だったから) ,本気出して背負投げ」

「どうやって?」

「道路にこうやって、柔道の技かけた」

「でもパンチで永久歯が抜けちゃったんでしょう?」

「その女性もさぁ、交番にお巡りさん呼びに行ったりしないの?」

「仲裁している人にも怪我させて

お詫びとかもないの?」

「無いよ。深夜だったし。」

「どこの駅、どこの交番?」

「知らない人の喧嘩を止めに入るなんて凄いね。

助けた側の人にお礼言われたでしょう?」

「で?どうだったの?」


バカ夫が止めに入っている間に

一緒に飲んでいた友達が

交番に駆け込んで助けを呼んだことになって

(私が聞き役がてらバカ夫がのらりくらり

適当な嘘を言いながら答えていくうちに)


友達が交番に行ってお巡りさんを呼んだ後、

交番に寄って事情聴取とか連絡先交換したんだ!?

「後日会ってお詫びに10万円

歯の治療費としてもらった」

「他人の喧嘩の仲裁で、歯が抜けるなんて

お人好しだよ〜痛かったでしょう。」

「大事な歯が無くなって10万円だけなんて

災難だったね。」などと、

タダの虫歯から、喧嘩の仲裁で

歯が抜けたことになって、

自己犠牲の精神があって、ほんとに強くて

いい人だと アラッ勘違い

夜遅く 飲んだ帰りに 自分だって

酔っているだろうに

終電近くに

駅の改札周辺で、交番に行くとか

現実的にムリがある話なのに


バカ夫が否定もしないで次から次へと

テキトーに答えるから、壮大な武勇伝が

私の中で完成してしまった


さらには、バカ夫のイイ人ぶりを象徴する

この武勇伝を知人に伝えたくなって

喧嘩の仲裁の美談というか武勇伝をしてよ。と

知人がいる時に、バカ夫にリクエストしたら

バカ夫はスッカリ忘れていて

ヒントを出しても

ちっとも思い出さず

何それ?という感じなので

シラケてしまった

その武勇伝を私がするより、

せっかくバカ夫が目の前にいるから

本人から語らせて

もう一度ちゃんとその話を聞きたいなぁ。

と思っていたから

ヒントをいっぱいだして

バカ夫に話をふったのに

余りにも思い出せないでいる様子から

「あっ、嘘なんだ!」と気付いてしまった


イントロダクションはバカ夫本人が

創作し、インタビューしている間に

それらしい話が完成


ついた嘘を思い出せないでいるバカ夫

「なんだぁ。忘れちゃったの?」

「そんな歯が抜けて痛い思いしたのに」

「歯が抜けた時の話、バカ夫らしい

話だからすればいいのに」

盛り上がるどころかシラケてしまった


忘れているのではなくて

ついた嘘を忘れていると判ってから

何年もそのことが気になっていましたが


どうやらバカ夫は

勤めていたショップの売上金を盗んで、

オーナーから怒りの一撃

左頬にパンチを食らって

歯が欠けたか何かして

(歯医者に行ったか

行かなかったかは不明)

バカ夫にとって

忘れてしまいたいような

悪事の末の出来事だったようです


嘘つきは泥棒の始まり

嘘つきで泥棒なバカ夫

ダマされている側は

嘘だなんて思わないから

疑うこともできずに

またダマされてしまいます