今日ご紹介するのは、Noel Rosa(ノエル・ホーザ)が1935年に書いたPalpite Infelizです。
Palpiteには、予測やお節介な意見、Infelizには、不幸な、残念な、的外れなと言う意味があります。余計なお世話と言ったニュアンスでしょうか。

Noel Rosaは1910年の12月にリオデジャネイロの北部にあるVila Isabel(ヴィラ・イザベル)で生まれました。
Palpite Infelizもそうですが、Noelの歌詞によく登場するヴィラとは、彼が愛してやまなかったその故郷の街のことを指します。

下顎に特徴のある容貌は、出産時に鉗子で傷つけられたか、先天的な形成不全かと言われていますが、多感な少年であったNoelにコンプレックスを抱かせる原因となりました。

彼は大学の医学部に進学したものの、ほとんど授業には出ず、夜な夜なリオの中心街Lapaにあるバーでサンバを演奏してまわっていました。
1931年に代表作の一つ、Com Que Ropaの成功により、その名が知られるようになりました。

そのNoelが内心穏やかではなく感じていたのが、3歳年下のWilson Batista(ウィルソン・バチスタ)の存在でした。
WilsonもNoelと同様、ボヘミアンのような生活を送っていたのです。
Wilson Batistaが1933年に発表したLenço no Pescoçoに対し、Noelはその曲に登場する歌詞を散りばめたRapaz Folgadoを書いて、あからさまにWilsonを批判しました。

賢明なWilsonは、この若く才能に溢れたサンバ作家の挑発を受けて立つことにより、自分の知名度をあげることが出来ることにすぐに気付きました。
この2人の間では、サンバの創作を通して相手を罵倒する熾烈な戦いが繰り広げられたのです。

Palpite Infelizは、Wilson BatistaのConversa Fiadaに対する返答として書かれました。
Conversa Fiadaは、Noelの生まれたVila Isabelを、物騒で厚かましい人々の生まれ故郷で、サンバを台無しにしていると批判していました。

あんたは誰?
自分が何を言っているのかわかってるの?
おお神様、なんて余計なお世話!
エスタシオ、サルゲイロ、マンゲイラ、
オズワルド・クルーズとマトリスを讃えるのは
だれもが当然知っている
ヴィラ(イザベル)は誰も押さえつけたりしない
ただサンバも作れるって示したいだけ

ヴィラで詩を書くなんて朝飯前
サンバの音に合わせ、木立も踊る

あんたに見てもらいたくて呼んだけど
あんたは見たくないから見なかった
あんたは誰?
自分が何を言っているのかわかってるの?

ヴィラは独立した街で
サンバを演奏するけど
特許を取得したくはない
なぜ自分の鼻のありかもわからない人物に
関わるのか
あんたは誰?
自分が何を言っているのかわかってるの?

Wilson Batistaがこの曲に対抗して書いたFrankenstein da Vilaは、Noel Rosaの容姿をフランケンシュタインのように醜いとあげつらった低レベルのものでした。Noelは心中憤慨したに違いありませんが、あえて無視することで、このサンバ合戦は収束へと向かいました。

まずは1936年にAracy de Almeidaが初めてPalpite Infelizを歌った音源をご紹介します。


 O Principe do Samba(サンバの王子)の異名を取ったRoberto Silvaの歌。


私が最初に耳にしたのはJoão Gilbertoでした。


Joyce Morenoがクールに歌ってます。


Teresa Cristinaの歌。


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※毎週日曜日に掲載します。
次回は3/17です。