俺はいつの間にか事務所にいた。

生田と会ってどうやってここまで

来たのか分からない。


「っ!?にの?!どうした」


ノックもせずに

いきなり入って来た俺に

組長は驚いてはいるが、怒らない。


「俺が、・・・俺の、せいなんです・・・っ

智さんを、組も・・・俺の、せい・・・っ」


言葉が詰まる。

息をしているのが辛いと、初めて思った。

土下座をする俺の前に、

組長が跪く。


「・・・思い出したのか、全て」


組長の言葉に頷いた。


しばらくの沈黙の後

組長は溜め息を吐いた。

そのまま何も言わず

俺に背を向ける。


「・・・どんな処分でも受けます」


「雅紀、傷の手当てしてやれ。」


「はい」


「組長・・・っ!!」


「もう智が払った。もう終わった事なんだよ。

・・・だから、もうあいつには

会わないでやってくれ」


「ッ・・・」


「すまない、俺が会わせたのにな」


「いいえ。

・・・でも、一つだけお願いがあります」


「なんだ」


「生田がまた、智さんを狙ってます。

'' カタギ ''に干渉出来ないのは承知です。

でも、・・・っ!」


「分かった。雅紀、頼む。」


「はいっ」


傷の手当てを終わらせていた雅紀が

スマホを片手に部屋を出ていった。


「・・・にの、お前は今どちらの人間だ。」


「俺は、五十嵐の人間です。だから、

ここに戻って来ました。」


「・・・そうか。なら、指示するまで待機だ。

単独行動はするな、いいな?」


「はい」


俺の返事の後、

組長も誰かに電話し始めた。


相手が出ないのか「ッ・・・出ろよ」と

珍しく苛立っているようだった。





待機、と言われても落ち着かず

煙草を吸うペースが早くなる。

だから、補充したばかりの箱は

直ぐに空になった。


組員はバタバタとしていて

誰に頼むことも出来ない状況で、

事務所の2軒隣の煙草屋へ走った。


「ッなんで・・・」


「カズ」


もう会うなと言われた人物が

今、目の前にいる。

智さんの自宅も店も

この近くじゃない筈だ。

それに今、この辺りにいるのは危険だ。

そんな事を考えてる俺に構わず

「カズもか?」なんて呑気に言ってくる。

ふわっと香る智さんの煙草の匂いに

思い出す。


「rain・・・そっか、

その銘柄ここでしか買えないから」


「カズ・・・お前・・・」


「智さん、何も言わないで俺が言うこと聴いて。

生田が狙ってる。

もう既に不味いのかも・・・お願い、逃げて。

智さん・・・お願いだから・・・」


それだけ伝えて

俺は何も買わずに店を出た。

はずだった・・・



「ん、ンんっ・・・///」


誰も使わない路地で

俺は智さんに唇を塞がれている。

なんとか身を捩り

その唇を手で遮る。


「まって・・・っバカ、じゃないの

今も狙われてるかもしれない・・・っのに・・・!」


「惚れた相手を泣かせたままにできる訳ねぇだろ」


「ッ・・・!!・・・・・・ばかぁ・・・」


もう一度

今度は深く口付け合う。

時間はきっと長くはなかったけど

愛し愛されてると思うには充分だった。