俺は、記憶を失った。

それでも覚えていたのは

『大野智』

という名前だった。


ヤクザ(元)×ヤクザのお話。


✧*。*・゚࿐*⋆*🫧*・゚࿐*⋆*🫧✧*。













目が覚めたら病室だった。────






「にのちゃん?!よかったぁー・・・

今、組長呼んで来る!」



目の前にいる柴犬みたいな男が

俺を

'' にのちゃん ''と呼んでいる。


それ程親しいのだろうか・・・?

組長・・・?

俺はヤクザなのか・・・?

というか、


「・・・だれ・・・ですか?」


「え・・・?」






「昏睡状態による記憶障害だね。

まぁ・・・いずれ何かをきっかけに思い出すさ」


「心配しなさんな」と、

きれいな白髪で髭も白い

物腰の柔らかい

おじいちゃん先生が励ますように言う。


「・・・はい」


自分の事なのに

他人事のような気がする。


そんな俺より

いつの間にか増えていた

黒服の人達は

深刻な顔をしている。


「にの、どこまで覚えてる?」


と、この黒服の中で

一番上位だろう眼鏡をした

頭の良さそうな人が尋ねてくる。


確かあの柴犬みたいな人が

'' 組長 ''と

言っていた。


「えっと・・・すみません。

正直、自分の名前しか」


分からない。そう続けようとしたら

脳裏に浮かんだ名前。


「・・・大野 智」


口をついて出たその名前。

俺の周りに居た全員が

息を呑んだのを感じた。


(え、俺なんか地雷踏んだ・・・?)


組長の眉間にも皺がよる。

ひとつ溜息をして、

俺をじっと見てこう言った。


「そいつが誰なのか、どんなやつかも覚えてるか?」


(どんなやつか・・・?)


考えてみるが

頭の中は靄がかかってるみたいで

分かるようで、分からない。


俺は首を横に振った。