Enporte-moi
言い忘れていました。
私は卑怯なほど、ただ、本当のたった一つのものが好き。
それ以外は、いらない。
意味なんてわからなくても、
その声は、音は、私に、私の耳に聞こえてしまうんだもの。
私はアコーディオンを弾くのが得意だった。
先生に誉められた。
アルトのパートが弾きたかったけど、
ソプラノのパートが弾きたかったけど、
私にはテノールかバス
先生がそう決めた。
すこし不満だったけど、でも弾いた。
先生は私の鞴の具合をとても誉めてくれた。
意味なんてわからなくたっていい。
その音が聞こえさえすれば。
どこへも連れて行ってもらえなくてもいい。
その音が聴けさえすれば。
ここから遠いどこかへ行けなくても、
店の女主人にため息つかれても
私は幼い頃、
その鞴の扱いが上手いと先生に誉められた。
だから、アルトのパートは弾けなかったけど、
意味なんてわからないけど、
連れて行ってもらいたいって、
わざとじゃなくて、ただ口走っていただけ。
私はただ、たったひとつ、本当のものがすきなだけ。
卑怯なほど、どんな手をつかっても、
それを、
見せ付けてやりたいだけ。
私にアルトをソプラノを弾かせてくれなかった先生に、
私を名指して、級友の吐瀉物を始末させた先生に、
私を打ち据えて、泣き虫の誰かの代わりに眩暈がするほど、頬を腫れさせた先生に、
見せ付けてやりたいだけ
そんなこと、なんでもない。
どこへもつれていってもらえなくても、なんでもない。
私は、卑怯なほど、そんなもの無視する。
たった一つ本当のものしか見たくないから。
それ以外に見る意味がわからないから。
それ以外、意味なんてわからなくたってかまわないから。
だから、
私以外の世の中の全ての人は、
その本当のことを既に知っているのだろうから。
ここからどこへもいかないでいい。
女主人に、箒で押されてもいい。
ここにいるんだ。
意味なんてわからなくていい。
なにもわからなくていい。
ただ、くりかえしていうだけ。
忘れたから、忘れてしまったから、言い忘れていたから、
私は本当にたった一つのものだけが好き。
それだけ。
ついに女主人に放り出されても
舗道に倒れたそのままの姿で、眠ってしまえばそれでいい。
n゜66