9月某日、名古屋市美術館で開催されていた「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」の展覧会に行って来ました。 ビュールレ・コレクションとは武器商人で美術収集家・パトロンであったドイツ人、エミール・ゲオルク・ビュールレが、スイスのチューリッヒの邸宅を飾るために収集した美術品群のことです。

今回の展覧会では世界有数のプライベートコレクションであるビュールレ・コレクションの中から、印象派を中心に精選された64点(約半数が日本初公開)が展示されていました。このコレクションは2020年にチューリヒ美術館の新館に移管されるため、日本でまとめて見られるのは最後の機会ということでした。

すでに展覧会は終了していますが、個人的にいいなと思った作品の覚書として前・中・後編に記事を分け、それらをご紹介していこうと思います。

『ピアノの前のカミュ夫人』 1869年
エドガー・ドガ(Edgar Degas)作
フランス、印象派の画家・彫刻家であるドガ。一般的にはバレエを主題とした作品で有名ですね。この作品はドガが治療を受けた眼科医の妻で、友人でもあったカミュ夫人の肖像画です。ドガは普仏戦争に州兵として従軍した時、寒さで目をやられ、網膜の病気を患っていたそうです。彼が室内風景を描くことが多かったのは、この病気のために外に出るのがままならなかったことが関係しているとも言われています。
アップライトピアノの上に手を置き(譜面はベートーベンの楽曲らしいです)こちらを見つめるカミュ夫人。ピアノの演奏を中断して振り向いた瞬間を描いたものであると推測されます。他にもたくさん肖像画はあったのですが、くだけた雰囲気で「私を描く気なの?」とでも言うような、どこか意外そうな彼女の表情がとても印象に残りました。

『カナル・グランデ、ヴェネツィア』 1738-42年
アントーニオ・カナール(Antonio Canal)作

『サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂、ヴェネツィア』 1738-42年
アントーニオ・カナール(Antonio Canal)作
次は同じ作者の作品を二つまとめて。カナールはヴェネツィア共和国の景観画家・版画家で、同じく画家であった父、ベルナルド・カナールと区別するために「カナレット(小カナル)」とも呼ばれています。ヴェドゥータ(都市景観画)を得意とし、1719年頃はローマで父親と共に劇場舞台背景絵画制作をしていました。1720年までにはヴェネチアに戻り、その後、ヴェネチアにおける英国商人の代表ジョゼフ・スミスをパトロンとしていました。
カナレットは写真のような絵を数多く残し、カメラ・オブスクラ(写真の原理によって投影像を得る装置。実用的な用途としては素描などのために使われた)を使って下書きをしていたという説があるそうです。上の二枚の絵からもわかるように、非常に緻密で写実的な彼の作品に思わず感嘆のため息が出てしまいました。

『ジュデッカ運河、ヴェネツィア、朝(サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂)』1905年
ポール・シニャック(Paul Signac)作
フランス生まれのシニャックは、ジョルジュ・スーラと並ぶ新印象派の代表的な画家。最初は建築を学んでいたそうですが、18歳の時に絵画に転向しました。この絵からもわかるように、シニャックは点描で有名なスーラの影響を受けています。スーラが存命中は彼のクールな色彩から脱することできませんでしたが、スーラの死後、元々好んでいたモネの暖かい色彩が絵に表れるようになったと言われています。
実物は上の画像よりももう少し白っぽいというか、明るい感じだったと記憶しています。パッと見た時、淡いパステルカラーの感じが何だか「ゆめかわ」っぽいなと思いました(笑)一つ前にご紹介したカナレットも同じ聖堂を描いていますが、同じ主題でも表現方法が違うと全く別の世界に見えて面白いですね。個人的に点描画はそれほど好きではなかったのですが、この一枚はとても素敵だと感じました。
中編につづく