まだ暗いうちに目が覚める。早起きをしたわけではない。毎日決まった時間に起きている。冬は日の出の時間が遅い。だからいつも通りに起きてもまだ辺りは暗い。

 朝食を作る間、窓の外に目をやると前とは少し違ってしまった風景が目に入る。私は時々、ベランダからの眺めを空の記録として写真に撮っている。その風景の中に煙突のような建物があり、構図の目印として空と一緒に写真におさめている。そのポイントとなる煙突の前に、以前の風景を壊す余計な物が出来てしまった。

 風景の手前にあるマンションの屋上にアンテナが設置された。それ自体はさほど大きな物ではない。しかし、写真を撮ろうとカメラを向けると画面に入るそのアンテナが気になって仕方ない。見慣れた風景に突如現れたその小さな歪みに、私は自分でも驚くような苛立ちと落胆を覚えた。


 去年の年末、上記の出来事を書こう書こうと思っていて結局年が明けてしまった。その時の気持ちをどう文章にしたらいいかと迷っていたし、単純にパソコンの調子が悪かったというのもある。上の文章はスマホにメモしておいたものだ。これ以上、何も書き足す事が思いつかなかった。

 昔、有名な刑事ドラマで大学の助手が観覧車に爆弾を仕掛けるというエピソードがあった。謎解きが終わり、最後に刑事がその助手に「どうしてこんな事を?」と尋ねた。彼は研究室の窓の外を眺めながら独り言のように言った。「邪魔なんだよ。あれのせいで時計塔が見えなくなっちゃった」。

 助手は窓から見る時計塔が好きで、その眺めを遮るように建てられた観覧車が気に入らなかった。それが本当の犯行動機かはわからない。私にとっては後付けの理由のようにも思えた。でももし、彼の言葉が真実だとするなら、今の私にはその気持ちがわかる。少しだけ。

 いずれにせよ、ここで書いた事は他人にとっては些細な出来事だ。明日には忘れて、きっと思い出す事もない。私もいつかはこの変化を受け入れて、窓の外を見ても何も思わなくなるのかもしれない。その一方で、やはり今までと違ってしまったものに言いようのない感情を抱くのかもしれない。あぁ、もう元には戻らないのだと。

 スマホに入ったままの文章の切れ端が無駄にならずに済んだ。どう書こうか迷っていたけれど、急に思い立って記事にまとめる事が出来た。今日の空があまりに綺麗だったから。


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