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「言い訳ばかり。もう聞き飽きた」

 そう言って月はそっぽを向いてしまった。まだ完全に日は沈んでいない。空は群青を水で溶かしたようなような色をしている。薄っすらと雲が流れていくのが見える。そんな空に月が姿を現すのは珍しいことだ。その偶然に僕はついつい、いつもよりお喋りになってしまったようだ。

「他人の所為にするのはもう止めなさい」

 その日の月は僕に厳しかった。今まで婉曲な表現しかしなかった月が随分ストレートな言葉を使ってくる。僕は少し気後れして、反論することができなかった。僕の辛さなんて結局、君にはわからないんだ・・・云々。いつもなら簡単に言える言葉に詰まる。結果、僕は黙っているしかない。

「君を何とかできるのは君だけなんだから」

 月はもっともらしい言葉をもっともらしい口調で言った。たぶん月の言う通りなのだろう。僕は誰かに助け出されることばかりを望んでいた。自分でドアを開ければそこから出られるのに、僕はそれをじっと見つめているだけだった。外側から誰かがドアを開けてくれることを期待していた。ドアに鍵などかかっていないというのに。

「誰が悪いかを考えるより、自分を解放することに専念しなさい」

 黙ったままの僕を見て月はため息をついた。そんなにあからさまにうんざりしなくてもいいじゃないか、と僕は思う。月の言うことは理解できる。僕だってバカじゃないから、薄々はわかっていた。誰も僕の人生を変えてはくれない。足長おじさんは僕に援助なんてしてくれない。それなのに僕は、インドに雪が降るぐらいの奇跡を、ただ膝を抱えて待っていたのだ。そんな奇跡を待つくらいなら、自分を鍛えた方がずっと手っ取り早い。

「君の話を聞いてあげることはできる。でも、私にできるのはそれだけです」

 少しだけ優しい口調で月は言った。僕は頷く。一応「わかってる」という意思表示だ。僕に世界を変えることはできないけれど、自分一人くらいなら何とかなるんじゃないかと思えた。それでいいではないかと。多くを求めず、何にも捕らわれず、誰かを傷つけるようなことをしなければ、僕にとっては上出来じゃないか。

 僕の憂鬱はきっと、この先もなくなることはないだろう。誰だってそうだ。浮き沈みのサイクルは無限に続いていく。それにうんざりする時もある。でも、そんなことをすっかり忘れてしまう時もある。それは確かだ。都合の悪いことは忘れてしまおう。僕はもう少しいい加減になろう。「考える」なんて行為は、ろくなもんじゃない。

 あぁ、僕はどこまでも僕なのだ。月が僕を見つめている。黙ったまま、遥か遠くで。