下町・秋津探偵社

作:おきくら 周(あまね)

 

No,36

 花巻駅から釜石線を利用して新花巻駅へと向かい、そこから東北新幹線に乗り継ぎ、まもなく秋津は、JR八戸駅に到着しようとしていた。今日のところは、駅付近のビジネスホテルを予約してあるので、ここで一泊し、明朝からは在来線を乗り継いで陸奥下北駅まで行く予定だ。そこは、あの竹島竜二の地元でもある。彼の事故死とされるまでの、それにかかわる諸事が、秋津には、何かすっきりとしない。今回、佐野洋平から得られた情報と、先に貴司を介して得られた当時の警察側の調査記録、それ以外は、今のところ、まだまだ、情報のピースが不足していた。それを埋めるがための今回の東北行脚でもあるのだった。

 

そのような思いにしたりながら秋津は、エスカレーターを昇り、やがて改札口を出ると、在来線と新幹線を跨ぐ連絡ロードへと通じて、出口を示す掲示板の道なりに東口の階段を下りていった。駅内部から外部へと出て駅舎の全体を改めて眺めると、この設備に多少の過剰を感じたのは、かつての新幹線最北駅時代の名残というべき姿のためなのであろうか。その時代、新幹線の終着駅として乗車客たちは、この駅舎に吐き出されて、この地を終点とする人々や、あるいは、ここから更に他所へと移動するために、それぞれの在来線へと乗り換えていった。そういう客たちのお陰で駅内部は列車到着ごとに人いきれの喧騒を感じることができたことだろう。

 

しかし、現在のように新青森駅まで新幹線が延伸したことにより、八戸から先へのお客には、ただの通過駅となってしまったため、かつての活気にも多少の陰りが感じられた。(生々流転、栄枯盛衰・・・というところか)と、この駅の様子を見ながら秋津は思った。すべて生ある限りは変化を続けていくものだが、ある時は栄え、あるときは衰退するという繰り返しが人の思考と相俟って、それぞれが影響を受けていく。つまりは、状況の変化や確信的な人の思考とで、また、好転することもあるということだ。

 

それは、日本の経済全般としての長い低迷の中、それでも何とかしようという思いが、経済政策として実施されてきたのだが、例えば、この、円安を利用した外国人旅行者の獲得も概ね成功してきているといってもよい。更に、その他の政策に関しても、その施行時期と周りの状況との兼ね合いによって、不適応に感ぜられることもあるだろうが、それらの齟齬をいち早く明確にし誤りがあるのなら改めて政策の最適化を図って行くという作業の先に、望むべき姿があると信ずることも大事なことなのだろう。

 

日本のそれぞれの地域によっては、各首長らが、国の経済政策を待っていられないと、自らビジョンを掲げて地方経済の独自性を最大限に生かしながら地方の創生に取り組み、現に経済が再び動き始めた地域もあるようだ。そのように自らが動いて事態を好転させていくか、あるいは、だだ、政府の政策実施を待って、無為に佇むだけか、どちらに未来の光があるのかは、既に明らかであろう。そして、個々の自治体のありかたとしては、普段、居眠りの巣窟として市民から批判される地方議会においても、首長の本気度が議員にも伝わり、おのが地域の復活を望んで行動する姿にこそ真っ当な精神とその先に希望の成就はあるはずだ。

 

そのようなことも思い巡らしながら、秋津はビジネスホテルへと徒歩で移動していた。すると前方から甲高いエンジン音が聞こえたと思ったら、二台の黒いセダンが、路上に砂煙でも巻き上げるかのように秋津の脇を慌ただしく通過して、先ほどの東口階段の前にある一般駐車場へと車を停車させた。中から、濃紺の背広を着た、如何にも公務員然とした男たちが、各車の助手席から降りてきて、一言二言の言葉を取り交わし、そのまま、そこに立ち尽くしては、時折、腕時計をチラチラと確認していた。やがて、階段の奥がなにやら俄かに騒がしくなったと思ったら、数人の人物がこぞって、階下に下りてきて、駐車場のセダンへと近づいてきた。

 

その様子を一見すると、恰も列車で到着する客人を出迎えるために、地元の役場の人間が連れ立ってやって来ているという感じだ。客側の人員は、四名で、このうち中央に立った人物がどうやら主客のようで、他の三名は、その取り巻き(秘書)といった風体だった。秋津は、それらを観察しながら、ふと、その出迎えの連中に下賜づかれている男の顔を注視した。(山添・・・恭一郎か)と、その見覚えた姿を確認すると、こんな場所で目にするとはと、少々驚いていた。

 

山添恭一郎とは、秋津にとっては、かつての上司でもあり、本庁捜査一課長として、切れ者の誉れ高い人物であった。しかし、部下には常に手厳しく、結果を出せない者は容赦なく切り捨てられ、他部門へと移動させられた。彼が現役の頃は捜査一課の人員の出入りは本庁一激しかった。しかし、その山添が、政治家への転身を考えているとの噂が流れ程なくして(秋津が本庁を退職する前に)国政を志し現与党である“国民自由党”より青森一区から衆議院議員へと立候補して当選した。その後、彼の政治家になってからのことについては、時折耳にすることもあったが、現在与党の中でも主流派である矢部派に属し次回の選挙結果によっては、内閣の何らかのポストに就くのではないかとも言われている。他の競争相手とは頭一つ既に飛び出した存在であるらしい。

 

客人を迎え入れた車は、さっき来た方向へと動き始めたが、今度は、二台ともいたって粛々とその場所を後にしようとしていた。秋津とすれ違いざまに山添が、こちらに気付いたか否かは、窓のスモーク越しで分からなかったが、仮に気が付いていたとしても、わざわざ、車を止めて、昔の部下に挨拶するというような、気安い人物でもない。逆に、晴れて代議士になったからといって、眉根を開いて話しかけられても、こちらとしても、歯の浮いた社交辞令など今更、言いたくもなかったので、却ってほっとしていた。しかし、その反面、政治家とは、ある種人気商売でもあるので、その辺の本人の割り切り具合などをも、秋津は、ちょっと意地悪く見てみたい気もしていた。あの、本庁時代に笑顔など皆目見たこともなかったあの面が、選挙期間中に一体どんな顔で有権者と接していたのだろうかと。やがて、山添ら一行を乗せた二台の黒いセダンは、夕映えに染まりかけた道路の遠近の先へとエンジン音と共に消えていった。

                                (No,37へつづく)

 

注)物語は、一部の場所・人物をのぞいては、全てフィクションです。

 

 

ぱぱ日記

また、記載しましたが、話は通じていると思いますが・・・どうでしょうか。また、精進いたします。

 

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ワンオクのライブが、今後のロックシーンの在り方を変えるのかもしれませんね。

日本でのライブ特有のオーディエンスとの合唱のようなライブスタイル、この、youtubeを発信してる外人さんも仰る通り海外のロックライブは個々バラバラのノリ表現で、ライブが聞き取れないなどの不都合(もっとも、それこそがライブの醍醐味なのでしょうが)もあるとか。これからも、ワンオクの活躍を見てみたいですね。