下町・秋津探偵社

作:おきくら 周(あまね)

 

No,22

 さて、そのような感慨に耽る秋津とは関係なく、庄吉は、いつもここへ来るとするルーティンのように事務所の柱に掛けた神棚に目を移しながら、それまでとは、ガラリと変わった口調で言った。「ところで・・・それにしても、みどりちゃんは、しっかりと祭祀を理解しているようだな」と、行き届いた神棚の掃除と新鮮に保たれている供物やご祭神の神札を確認しながらそういうと、突然、脈絡のない話題に移った成り行きに多少の違和感を覚えながらも「ああ、彼女は有能な秘書だよ」と、秋津は答えた。

 

「まあ、そうだろうが」と、そのあっさりとした反応に若干、拍子抜けしながら「お前、彼女を秘書という以外にはどう思っているんだい」と、率直な質問を投げかけたが、秋津は、「勿論、彼女は優秀且つこの事務所に欠くことができない人材さ」と、酷く当たり前のように言って自若としているその顔を見て、「いやいや、そういうことじゃなく」と庄吉は言いかけた。それは実のところ昨夜、庄吉もまた行きつけの“いわい鮨”に立ち寄った際に大将と女将さんから、お節介ながらという前置きで聞かされた秋津に対してのみどりの淡い気持ちの道行に、周りで見ていて何とも歯痒くてしょうがないから、秋津の親友としてアドバイスしてやってくれというものだった。

 

「ああ、そうなんだ」と庄吉も初耳ではあったのだが、確かにそう言われればその様に見えないこともなく、「分かりました」とあっさり了承したのだった。そして、そこから生じた今の問い掛けに庄吉の期待値から見事に外れた答えを聞いて、心の中で「こりゃ、いわい鮨の大将の言った通り男女の恋愛事には、まったく相当な鈍感人だな」と呆れながら「まあ、こいつらしいと言えばその通りなのだが」と、そこまで思って、チラリとみどりに目をやると台所のパーティションの陰でせっせと洗い物をしていて、恰もこちらの話が聞こえていないといった素振りで作業していたようだが、しかし、時折、同じ器を何度も洗い直しているという、なんだか、みどりにしては集中力に欠ける姿に、そのまま動揺が見て取れた。

 

庄吉は、そんな女心に無頓着な秋津に「お前って、まるで気の利かない霊能者みたいだな」と言った。それは対外的なことはよく分かるが、手前のことはまるで見えないという性格に対しての皮肉だったのだが、(もっとも、これは、さっきまで佐野の研究眼を褒めそやし秋津を同列に引き上げたその舌の根も乾かぬ内の矛盾した酷評ともいえた)どういうわけか俺の友人には、これに似た奴がもう一人いたなと、当のみどりの兄の渋い無精髭ズラを思い出した。「類は友を呼ぶか・・・」と、嘆息して「みどりちゃんには悪いけど、兄貴も色恋沙汰には、ほとほと縁遠いときてるし、妹の気持ちを慮って、それとなく気の利いた言葉で秋津をみどりちゃんに振り向かせるなんて芸当は・・・できんだろうな」と改めて悟らざるを得なかった。

 

みどりちゃんがいる前で、これ以上は無理だなと、致し方ない面持ちで秋津への心情確認は早々に止めにした。「それじゃ、帰るわ」と、あっけなく言うと、不意に神棚に向かい二礼し、パンッパンッと二拍手の上、手を合わせて一礼した。まるで、それまでの一連の色恋の始末を神前に託すかのように「まあ、なるようになるだろう」と、あっさり事務所を後にした庄吉だった。結局のところ、いわい鮨の大将らに言われて気軽に引き受けたキューピット役だったのだが、それについては、予め何らかの勝算があったわけでもなく、それどころか、そもそも男と女の理については、庄吉自身も秋津や貴司とほぼ同類の朴念仁であるということに、本人は全く気が付いていなかった。

 

後に残されたみどりは、「ちょっと気まずい」と思いながらも結局、何も聞こえていないという体をそのまま装い、わざと窓の外を気に掛けるように空をしげしげと仰ぎながら「あら、いつのまにか雨ですね・・・」と秋津を見ずに独り言のようにいうと「みどりちゃん、今日は朝からずっと雨だよ・・・?」と秋津のいつも通りの一片の乱れもない口調で返されると、俄かにみどりは上気した頬を見られないように顔の角度を微妙にずらした。

                                                                                                    (No,23へつづく)

 

注)物語は、一部の場所・人物をのぞいては、全てフィクションです。

 

ぱぱ日記

四月ですね~❤ 今日、地震がありましたね。台湾から沖縄にかけてですか・・その前には、岩手・青森でもありましたね。何だか、ネットで騒がれている2025年度、7月5日の隕石襲来によるフィリピン沖からの大津波で日本のかなりの部分に大きな影響がでるとか・・・そして、数年後南海トラフ地震が来られたんじゃあ、さすがの地震大国日本でも、復興できるか、いや、できたとしても何年掛かるのやらと、思わず危惧しています。そんなことにならないように祈るのみです。

 

財務省日記

さあさあ、緊縮至上主義の財務省が、なんと、政府の眼を盗んで、ちゃっかり財政支出に縛りを掛けていた問題を改めて以下に伝えます。