引き分けで十分だよ!


30数年前に会社を起こし、今まで本業を離れることなくベーカリーを営んできました。20年ほど前、天然酵母でのパン造りに方向転換し、大阪北新地に小さな店を構えたのが15年ほど前。当時は天然酵母の専門店は珍しく、また土地柄から夕方オープンそして閉店は深夜の時間帯でした。


口コミでお客様も増え、梅田地区の百貨店からも出店の引き合いがありました。前向きというか上昇志向の性格ゆえ、魚のダボハゼのように出された餌には食いついていました。


大阪梅田地区のとある百貨店からのおいしい「餌」には驚いて、飛びつきました。餌はやはりおいしかったので、3年の間に人員を増やし、機械類も増設し工場も拡張しました。


「勝つこと」だけを目指していたその頃、地下鉄で移動し、そのまま百貨店の地下食品売り場に到着、季節感は百貨店の装飾で感じるという日々でしたが、突然、餌がなくなりました。当時の当社売上の70%近くを占有していた部分がスポッと無くなり、同時に経費だけは膨らむという典型的な危機パターンです。足が震えたことを今でも覚えています。


覚悟はしましたが、どんな手を打てば良いか分からない八方ふさがりの状態です。

そんな時、友人が表題の言葉をかけてくれました。「勝つことより負けないこと。引き分けを目指そうと」


張り詰めていた緊張状態がほぐれたように感じました。勝つことより、負けない状態に持っていくにはどうすれば良いのかと思考を転換することができました。スタッフも離れるなど、つらい思いもしましたが、いつかそのスタッフを再度受け入れることのできる状態になれば、「引き分け」に持ち込めるのだと言い聞かせ、彼も10年ほど前に戻ってくれました。