第八章 ダブルスタンダード

 ギターをこわごわ弾いてみる。懐かしい感覚が蘇る。このバンドのコード進行は至ってシンプルだ。弾けないことはない。しかし俺よりギターのうまい奴なんてそれこそはいてすてるほどいる。天草はなぜ俺を選んだのか。ひょっとして俺の物凄い才能を見抜いたのか。

「知らない奴をバンドにいれるのがいやだったからだよ。」

 そうだった。昔から物怖じはしないが、人見知りの激しい奴だった。しかし現在俺のまわりにいる人間はみんな人生の目的が標準的でない。天草なんかいまだに何を考えているのかわからないし、中上均に至っては、天草に言わせれば、彼の人生の目的は見えてしまう未来から開放されることだという。もっと普通の目的にしようぜ、金とか女とか地位とかさ。俺の人生の目的は何かな。やっぱり安定した生活かな。十代の頃はやっぱロックスターに憧れたよな。女にはきゃーきゃー言われるし、もてもてだし、わがままのし放題だし。でも確かに才能有るっていうのは羨ましいけど、本当に才能のある人って人生つらいんじゃないかな。天草や中上はあきらかにある部分突出した人種だけど、なにか別の負荷を背負っているような気がする。