第六章  対決

 俺は初めて美少年というものを目の前で見た。日本人形など見たことはないが、もしこれから作るのなら彼をモデルにすればよい。あくまで儚げでそれでいて凛としている。その美少年が天草にではなく、俺に話しかけた。人懐っこい笑顔を浮かべながら。

「大島君、涼子の恋人だったんでしょう。でもまさかあんなことになるなんて。中上家はね、実際のところあの家で暮らしていると、ブルドーザーかなにかで全部壊してしまいたいような気分になってきてね、親父やお袋は好きだったけど家は嫌いだった。」

 涼子も同じようなことを言っていた。涼子と仲良くなったのは、社内運動会がきっかけであった。俺は混合リレーに出場して転倒、そのとき傷の手当てをしてくれたのが涼子で、その夜、俺達は名古屋港にダイビングした。夜の名古屋港の埠頭は陸と海の境界線がわかりにくく、俺達は酔っ払っていたこともあって、本当に車ごと海に飛び込んでしまったのだ。

命が助かったのは涼子のおかげで車が飛び込んだ瞬間、彼女はロックをはずし、ドアを開け、俺を車からひっぱりあげた。埠頭までたどり着いたときの彼女の笑顔が忘れられない。そしてその夜、俺達は結ばれた、ということは全くなく、俺達は徹夜で話をした。彼女の家族のこと、彼女の生い立ち、彼女の夢などをだ。そのとき、彼女はやはり均と同じようなことを言っていた。

「大島君、涼子は本当に君のことが好きだったようだ。なぜあんな事件を起こしたのか、僕にもわからないけど、君に対する強すぎる愛情からきているような気がする。あいつは変わっていてね、愛情を素直に表現するのが、苦手どころか、死んでもできないタイプでね。それがわかると、あいつは決して男慣れしている女ではなく、まるっきり子どもだということがよくわかる。」

 中上均が俺に笑いかけた。その笑顔は涼子に似て非常に魅力的であった。

 今度は天草が中上に話しかけた