第五章  中上均

中上均は、1965年3月29日、福井県山下村に生まれた。中上家は、代々女子しか生まれず、婿をとって血筋を繋げてきたため、この男子の誕生は当惑と畏怖によって迎えられた。幼少時より異様ともいえる美しい容貌でさらに周囲の困惑は深まった。中上家の血筋のものが持つ特殊な能力を、彼が発揮したという伝聞はない。しかし小学生になり、初めて公の場で、彼の存在はずば抜けたものであった。高志高校を経て東京大学合格。しかし東京には行かず家に残った。このころから中上家の跡取り争いが表面化する。中上均、涼子、柊子の三人の後ろにそれぞれのグループがまとわりつき、跡取り争いは文字通り泥沼化する。中上均にとって跡取り争いなどは全く興味の外にあった。彼は同時に全てがわかってしまうのだ。そんなものに興味がわくはずがない。彼にとって大切な人物は、久慈尚子、大島健太の二人しかいなかった。