第四章 スコットランド紀行

 俺は外国に行くのも初めてなら、飛行機に乗るのも初めてだった。航空チケットをとったりとか、パスポートなどの手続きはすべて歌野さんがやってくれた。何故か、天草、歌野さん、モーリス、俺(大島)の4人は、スコットランドに行くことになった。東京からロンドンまで12時間。上空から見るイギリスは想像していた絵柄通りだった。本当に絵葉書のように美しい。ヒースロー空港でブリティッシュ・ミッドランドという国内線の飛行機に乗り換える。エジンバラまで約1時間、イギリス式の食事も楽しむことができた。しかしそれにしてもだ。機上から見る風景の美しいこと。

 飛行機の中で天草は話し始めた。

「ええっと、不思議なことが二つある。まず中上涼子の事件。中上涼子はどうやって家に帰ったのか。あるいは運ばれたのか。二つ目は久慈尚子の事件で、召使はこう証言している。

『昨日も蔵の中を一通り掃除してから鍵を掛けました。』

久慈尚子は、あるいは彼女の死体はどうやって蔵の中に入ったのか。そしてこの二つの事件の重要参考人はやはり中上均、柊子になる。」

「モーリスが彼の故郷インヴァネスで中上均を見たというんだ。」

「インヴァネスという街は、ネス湖から流れ出ているネス川が街を貫いている。ネス川に沿ってB&Bという、まあ日本でいうとペンションのような建物が立ち並んでいるのだけれど、その一つに人形のような日本人が住んでいると評判になっているらしい。」

 エジンバラからインヴァネスまでは列車の旅になる。列車の窓から見える風景はまさしく詩の世界で、いくら眺めてもあきない。美しい芝生の上を羊がのそのそ動いている。アルプスの少女ハイジにでてくるような家が緑のなかぽつんぽつんと建っている。歌野さんもスコットランドは初めてのようであまりに美しい風景に呆然としている。

「きれいですね。」

「うん、ものすごくきれいだし、何か懐かしい感じがするよね。」

 モーリスはイギリスの新聞を読んでいて、天草は小さなシーケンサーをいじっている。モーリスは眼鏡をかけ髪を後ろに束ねると、弁護士か何かそういった職業に見える。

 インヴァネス駅に着いたのは、午後7時を過ぎていた。日本と違いまだ明るい。インヴァネスの駅を出てまっすぐに進むとネス川に突き当たった。この美しい川のほとりに涼子の兄、中上均が潜んでいるのか。ネス川に沿ってしばらく歩いたあと、モーリスは一軒のB&Bを指し示した。

「ここに住んでいたんだ。」

 そのB&Bから現れた中上均は静かな微笑みを浮かべながら我々を迎えた。

「待っていましたよ。大島健太君。」