第三章 モーリス

 世界中から叫び声が俺にとどく

 俺はいたたまれなくなり自分を傷つける

 救世主気取りだ ベイビー

 誰もお前を助けてくれない

 朗々とした声がスタジオに響きわたる。世界で活躍しているバンドの音を初めてスタジオで聴いたが、やっぱり凄い。音が鋭角的だ。体中につきささる。天草はつまらなそうな顔をして音を聴きながらシーケンサーをいじっている。一曲終わったあとボーカルのモーリスがやってきて、天草になにか英語で話しかけた。

天草は聞いているのかいないのかやはりつまらなそうな表情でうなずき、シーケンサーをいじり続けていた。天草がこの表情のときは何を話しかけても無駄だ。歌野さんはそれがわかっているようで話しかけようとしない。歌野さんのドラムはタイプ的にいうとシオノギ準に近いだろうか。スピード感があって切れる感じだ。天草のつくる曲は、金属的な感じがする。この雰囲気は昔からかわっていない。ただ彼は非常に器用なので売れ線の曲を作ろうと思えば作る事ができるのだ。これが彼の自己嫌悪のもとになっていることに俺は最近気がついた。

「大島、ギター弾いてみる?」

「とんでもない。とてもじゃないけど、恥ずかしくて弾けないよ。」

「結構いけると思うけど。」

「頼むからやめてくれ。」

 天草は俺をからかうのをやめてモーリスに話しかけた。英語で話しているので俺には内容はわからない。天草はこちらに向き直りそして日本語でこう言った。

「スコットランドに行かないかい。」

 やれやれ、こいつはいつもこうだ。