前の話に戻る


人形


「・・・敵。」

 

敵、その言葉を聞いてマールは帽子を置いた。

 

「アグマはマスターと仲のいい13賢者の一人だったんだ。

でもある日、マスターに呪いをかけた。マスターだけじゃない。このアルバータのみんなにもだ。」

 

マールはぞくぞくっとして背筋がのびた。

 

「なんでそんなことしたのさ?みんなが認める人だったんでしょ?」

 

「その時は俺、生まれてないからよく知らないけどある日突然変わってしまったんだって。アグマはマールがこの世界にやって来たとき通った『π通り』に収めてあった魔法の絵本から魔法を吸い出しどこかに持ち去ろうとしたんだ。それをみんなが止めて。でも、誰もアグマの魔法の力には敵わなくて・・・。」

  

「それで呪われたの?じゃあ、この地に住んでる人みんな呪われてるってこと?」

 

「俺は呪われてないよ。その場にいた人たち全員かな。」

 

「じゃあ、この旅はその人を倒すこと?」

 

「半分正解かな。アグマは今はもういないんだ。」

 

「もういない?」

 

「アグマはあの爺さんが倒したらしいんだ。でも、アグマの呪いは残ってる。あの爺さんもあれだけど呪われているはずさ。その呪いを解くのが俺の試練だね。」

 

「ねぇ。呪いの効果ってなんなの?見た感じじゃみんな普通そうだけど。」

 

「ウブズナの魔法」

 

「ウブズナ?」

 

「生まれた土地以外の空気を吸うと別の生き物に変化する魔法らしいんだ。マール、π通りで会わなかったかい?声のするレンガやごみ箱なんか。」

 

そう言えば。とマールは魔法の世界へやってくる通りのことを思い出した。

 

「π通りのみんなは死ぬわけじゃないからなんて言うけど

レンガになったら困るだろ?魔法も使えないしさ。どうにかして元に戻してやりたいんだ。

それにこの国の人だって。交易をしなくちゃ暮らしていけないのにこの土地から出れないんだぞ。

国外で困ったことがあっても解決できないんだ。」

 

「呪いを解く方法なんて見つかるの?」

 

「・・・わからない。でも、その絵本が完成すればみんな救えるかもしれない。」

 

と、ニコスは言い、いつもの顔に戻っていた。

 

「・・・。」

 

二人の沈黙は続く。

 

「どうすれば完成するの?」

 

先に口を開いたのはマールだ。

 

「それが、わからないんだ。扱えるのは人間だけってだけで。アグマはどうにかしていたみたいだけど。」

 

「そっか。それで・・・僕が呼ばれたんだね。」

 

「うん。黙っててごめん。」

 

「でも、なんで僕だったの?」

 

すると、ニコスが胸に付けていたリボンを指差した。

 

「このリボンな。

俺のお守りなんだけど、相性のいい人間を見つけ出してくれるリボンなのさ。

一緒に旅してくれる友達を見つけてくれると思ってね。」

 

「それだけ?」

 

「・・・かも知れないね。」

 

ニコスは少し残念そうな顔を見せた。

 

「じゃ、いろんなところで聞いて回るしかないんだね。」

 

「ついて来てくれるの?」

 

「だって・・・」

 

「だって?」

 

君は友達だから。ね。

 

「ところでこの帽子どうする?なんだか持っていたくないね。」

 

はげるのが嫌だったのもあるけど

アグマの話を聞いた後のマールはこの帽子をかぶりたくない。

 

「アグマの上発明品も変なものが多いけど、

今でも魔法道具屋ではリスペクトされて重宝されているものが多いんだ。

だからとりあえずもらっておこう。」

 

そう言うとニコスはポケットからダイヤのトランプカードを取り出した。

ニコスが呪文を言うと帽子はみるみる間にカードの中に吸い込まれていく。

 

「もしも使うことがあれば使おう。」

 

ニコスが帽子を片づけている間、

マールは丘から城の方を見ていた。

小さな裏町の様子は見えるがにぎわう商店街の方は城に隠れ見えにくい。

 

「うん。わかったよ。ふ~~~休憩!」

 

マールはニコスに返事をすると

ニコスがいた場所から奥にある

一本だけ生えた枯れかけの木に目が止まった。

 

その細い木とその隣には

石でできた小さな塚があって

砂が詰まり黄色くなっている。

 

「妻ミケルへ。ク・・・ガ?」

 

誰が彫ったものかまでは砂に隠れていてよく読めない。

その下の方には音符のようなものが描かれてはいるがマールにはわからない。

 

「・・・そろそろだな」

 

空を見上げてニコスはマールに言った。

 

「そろそろ?ニコスの試験は夕方でしょ?王様がそう言ってたよ。」

 

後ろを振り返りマールは答える。

 

「そうなんだけど、マールはこの国の騎士の試合が見たくないか?この国の騎士は魔法が使える人が多いから剣だけじゃなくて見ごたえあるぞ。」
 

「え?見れるの?」

 

「会場に行こうか。」

 

他の騎士候補者達の試合がマールも見れるとわかると

マールはうれしそうに訓練場へと向かった。

 

訓練場はニコスの控室の隣にあって309号室と名前が付いている。

扉を開くと、訓練場には人形が何台も置かれていた。

藁でできた変なかかしの人形だ。

部屋の中央には大きく魔法陣が描いてあり、一体だけ真剣を持った人形が置いてあった。

 

「あれ?ほかの受験者がいないな。ここで試験あるはずなんだ。」

 

ニコスは近くにあった変なかかしに触れながらマールに言った。

 

「これ、特訓かかしって言うんだって。」

 

「え?」

  

「額のボタンを押すとその人の力に見合った課題を与えるんだってよ。」

 

「それ、試験科目?」

 

「らしいね。さっきまでいた他の兵士希望の人がそんなこと言ってたんだ。」 

 

「ふ~ん?」

 

「騎士になるにはLv2以上をクリアして隊長との実践演技を見せればいいんだって。ちなみにこの藁人形タイプは最高レベルは10らしいけどね」

 

「見てLvがわかるの?」

 

「ボタンを押すと額に文字が出るんだLv~ってさ。」

 

「ニコスもしたの?」

 

「5。」

 

「5?ってことは余裕?」

 

「そうとも限らないよ。マスターの紹介状もあってか相手はあの爺さんだから。」


「・・・。」

 

「マール、君も試してみない?この特訓かかし。」

 

「ほらっ!」

 

そう言いニコスはマールに近くにあった木の剣を渡した。

 

「これで叩くの?」

 

木の剣は両刃の形をしていて丁寧に彫られているものだった。

 

「マール自分の剣ないだろ?それ使いなよ。

ボタン押したあと、隙あれば叩くか地面の円陣から外出せばいいんだ。」

 

「この人形、真剣持ってるけど反撃されない?」

 

人形の持つ剣がギラリと光る。

 

「大丈夫だと思うけど?マール、剣を扱えるの?」

 

「全然。」

 

「じゃあ大丈夫だよ。最初は反撃しないはずだから。」


マールが人形のボタンを押そうとすると、

訓練室の扉が開き甲冑姿の衛兵が入ってきた。

 

「あれ?まだいたのかきみら兵士志願者だろ?

他の受験者は闘技場の方へ行ったよ。君たちは行かなくてもいいの?」


「・・・闘技場?」

 

マールは衛兵に聞いた。

 

「一階の奥にある大規模な訓練施設だよ。行けば分かるさ。」

 

「おい、マール行くぞ!」


2人は一目散に部屋を飛び出した。

一階につき、奥野回路を走る。

 

「わぁ・・・」

 

回廊を抜けた先は

闘技場とつながっていた。

 

城の一階を抜け奥にあるという

円形闘技場は美しいつくりで

一階の中心に位置する大きな舞台を

誰もが見渡せるよう壁を挟んで観客用の席が用意されている。

客席と舞台を区切る壁には大理石でつくられた円柱が埋め込んであり

青い鳥を模した装飾が施してあった。

 

何よりも驚かせたのは

 

「水辺が浮いている・・・。」

 

と言うことだった。

 

それは王が守る砂漠の泉。

闘技場なんてすっぽりと収まってしまう。

泉からは一本の長い長い川が延びていて

空に流れる川の終着駅こそがこの闘技場だ。

 

入り口には

衛兵の姿が見え

「間もなく試験開始です。候補者の方は会場へどうぞ。応援の方は応援席へと移動おねがいします。」

と来る人に繰り返している。

 

「ね、なんだか気分がわくわくしてくるね。」

 

「マール。お前、出ないだろ?」

 

「うん。でもね?」

 

ニコスの肩がぶるっと震えた。

 

「緊張、してきた?」

 

「そこそこ・・・ね。じゃ、俺こっちだからまた後で。」
 

「ニコス、応援してるよ!幸運を!」

 

フッとニコスが笑ったのを確認すると

マールは観客席に進み、ニコスは参加者用の道を進んだ。


「席、席っと」

 

席は自由に座ることができた。

関係者らしき人があちこちで志願者の試合の見学をしている。

 

「少し、ざらざらする?」

 

自分の左手を見ると

さらさらと砂がこぼれおちた。 

 

客席のすべてが黄色い砂で出来上がっていて

それぞれの客が座りやすいように形を変えるようだ。

 

「すごいつくりだねぇ・・・。リリー?」

 

広い舞台が必要な場合

この砂の客席までが舞台に変形できるのだと

リリーが言っていた。

次の話に進む

いつから俺はここに降りたのだろう。

気がついた俺は

深い深い穴の底にいた。

うっすらと光が見える。

 

「一人じゃ登れないな。」

 

周囲を見渡すと岸壁で登れそうもない。

 

「おーい。おーい。」

 

声を出すが俺の言葉は誰にも聞こえていないようだ。

 

「お~~~い。誰か~。助けてくれ」

 

すると、誰かの顔が見えた。

 

「誰?」

 

母さんだ。母さんの声だ。

 

「母さん。助けて。俺、穴にはまってさ!」

 

すると母さんはこう言った。

 

「ごめんね。今から仕事なの~」

 

「は?」

 

そのまま彼女は行ってしまった。

 

「おい!ちょっと、待てって!ちょっ!待ってください。お母様~~~?お母様~~~~?」


しかし、彼女は戻ってこなかった。

 

「マジかよ・・・。」

 

俺の頭の中には怒りであふれていた。

しかし、その怒りはどこにぶつけることもできず

また、助けを求めた。

 

「お~~~い。誰か~。助けてくれ」

 

帰ったらとっちめてやる。

そう心に誓って。

 

「おい、ここに誰かいるぞ。」

 

誰かの声が聞こえた。

 

「おーい、助けてくれ~。」

 

「お?お前、高柳?」
  

「加藤か?」

 

親友の加藤だ。他にも、2,3人男がいるようだ。助かった。

 

「助けてくれ。」

 

「なんでこんなところにいるんだ?」 

 

「分からねぇ、気が付いたらここにいたんだ。とにかく!助けてくれ。ロープかなにかでさ。」

 

「う~ん?悪いんだけどさぁ、今から合コンなんだよねぇ。」

 

「・・・は?」

 

「ほら、前から言ってたラックスがさ、来てくれるっつーんだ。」

 

「は?ラックス?合コン?」

 

「ま、2、3時間くらいいしたら戻ってくるしよ、少し待っててくれや。」

 

「うぉい!待てって!おい、コラ!」

 

「お~~~い。」

 

・・・マジかよ。行きやがった。

 

「ラックス彼氏いるわ!ボケ!」

 

俺はせめてもの抵抗をしてやった。

  

 

「おーい。おーい。」

 

俺は、相変わらず叫び続けていた。

 

「誰?」

 

このお声は!?

 

これは、

俺のムキムキの恋人だ。

 

「ゴンザレス!ゴンザレスだろ!?助けてくれ~」

 

「あら!やだ。孝光じゃない!何してるの?」

 

「見て分かるだろ?穴にはまってるんだ。助けてくれないか?」

 

「う~~~ん。」

 

頼む。頼むから。

 

「手が汚れるからやだわ。」

 

「・・・は?」

 

「ごめんね。他の人に頼んで!」

 

「待てって。ゴンザレス。ゴンザレスさーん。待って。愛してるから~。」

 

すると、ゴンザレスは帰って来た。

 

「孝光、私、知ってるのよ?」

 

「え?何?」

 

「あなた、本当はぴっちぴちの女の子が好きなんでしょ?」

 

「・・・ぴっちぴち?」

 

「私、見たんだから先週、ミソノと楽しそうに話しているのを。」

 

心当たりは・・・ある。ものすごく。


「あ、あいつは俺のストーカーなんだよ。迷惑してるんだ。」

 

「ごめん。私、今、あなたのこと信用できないわ。」

 

「ゴンザレス~~~~~!」

 

俺のバカ。

馬鹿。

大馬鹿。

 

俺は、心の底から反省した。

あの日の晩のことを。

 

「はぁ・・・。ん?」

 

すると、俺の右手の方に

 

『御用の方は押してください』

 

と、ブザーがある。

 

「・・・?」

 

俺はボタンを押した。

 

「いらっしゃいませご注文はお決まりでしたか?」

 

穴の上から若い女の声でそう聞こえた。

 

「ご注文?」

 

「ハイ、そちらの方にメニューがございます。」

 

左手の方には確かにメニューが。

 

「いつの間に・・・。」

 

「いや、あの、助けてほしいんですけど」

 

「それでしたら、メニューのロープをご注文ください。」

 

ロープ・・・・・10000万!?

 

「無理だろ?ちょっと、アンタこれ、割増し、しすぎだろ?」 

 

「そうですか。では。」

 

「おい、帰るな。帰るなよ。」

 

ボタンも消えてるし。

 

「なんだよ。何なんだ?これ。」

 

「お~~~い。助けてくれ~~~」


もういい加減にしてくれ。


声をがかすれ、俺は耳を研ぎ澄ました。

そして人気を感じ始めたころ声を出すようになった。

 

「助けてくれ~~~」


「・・・だれ~?」

 

女の声だ。

 

「孝光?」

 

こいつは俺が不幸になるのを楽しんでいるむ嫌な奴。

純子だ。俺のリアルストーカー。

俺には素敵な彼がいるっているのに彼女にしてくれってしつこく

ミソノの浮気現場を見つけた上、

あいつと付き合うくらいなら私でもいいじゃんなんていう奴だ。

きっと、ゴンザレスにばらしたのこいつだ。

恨みは山のようにあるが、今はそんなこと言ってられない。

 

「あ、あのさ助けてくれませんか?」

 

付き合ってくれるならとか言うにきまってるじゃん。

でも、他に頼る人間はいない。

 

「ほら。」

 

「え?」

 

ロープだ。ロープが来た。

 

「ありがとう。ありがとう。純子さん。」

 

ロープを引いた瞬間、ロープが落ちてきた。

 

「え?」

 

純子の姿がない。

 

「純子さん?」

 

野郎、奴め。奴め。帰ったら絶対に訴えてやる。 

 

「おーい。おーい。」

 

「あ、穴から声が聞こえる。」

 

・・・子どもの声だ。


「ねぇ、ボク、お兄さんを助けてくんない?」

 

「・・・・・。」

 

しばらく穴を見つめる少年。

俺は祈った。

誰か大人を読んでくるのを。

 

「ママ~!ママ~!」

 

・・・ヤッタ!

 

「ママー、ここに井戸魔人がおるよ~」

 

井戸魔人ってなんじゃ、このガキ!

 

「あのさ~、ママ呼んで助けてくんない?」

 

「・・・。」

 

「・・・ダメ?」

 

「石投げちゃえ!えい!!」

 

痛!わっ、痛!

 

「ちょっ・・・ちょっと・・・。」

 

「進むく~ん」

 

母親らしき女の声が聞こえる。

 

「は~い。」

 

「だめよ~、知らない人とかかわっちゃ~」

 

「わかった~」

 

・・・世の中って厳しいなぁ・・・。

 

もう駄目・・かな。

 

「誰じゃ?」

 

知らない爺だ。もう駄目・・・だな。

 

「あの、助けてください。はまったんです。」

 

すると老人はどこかに消えた。

 

「また・・・か」

 

「お~~~い。」

 

爺の声。

 

「そこ危ないからどきや~~~」

 

「え?」

 

カッシャン。

 

「は、はしご、梯子だ。」

 

「もう落ちるんじゃないぞ!」

 

 

「ありがとうございます。ありがとうございます。」

  

 

 

こうして俺は、世間の優しさを知った。

 

 

----------------

 

あなたの知り合いは本当に助けてくれますか?


 ランキング  ブログランキング・にほんブログ村へ 面白かったら応援よろしくです♪

いつか見た赤い風船が

空を飛んで行った。

 

それも気のせいでありますように。

 

祭りの終わりに

感じる寂しさと切なさ。

人々はそれぞれの岐路につく。


その日も、赤い風船が飛んでいた。