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シャドーマン


試合が始まると頭上に浮かぶ大きな水球に

各人の映像が流れた。

闘技場のどこの位置からでも同じように見える優れものだ。

 

「テレビみたいだね」

 

マールはリリーに向かってつぶやいた。

いよいよ彼らの試験が始まる。

 

「・・・4・・・5・・・」

 

観客席から彼らを数えると

そこにいた志望者は5人だけだった。

ニコスのほかにいたのは

細身の人に、ニコスの体の3倍はあろうかと言う全身髭もじゃの大男、

そして甲冑に身を包んでいる人2名。

 

アリーナの真ん中にある石段の舞台を挟んで反対側には王と、

それぞれの隊の兵士長たちがいるようで、じっと試験の様子を見つめている。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

  

画面からは大男が斧を振りわす姿が見れた。

特訓かかしを相手にしている。

 

マールが画面に見入っていると横から声が。

 

「あっ!さっきの・・・。」
 

「げっ!」

 

王の間の前で会ったクロガネルファンの衛兵さんだ。

 

「友達の試合はまだ?」

 

「え、まぁ。」

 

衛兵はマールの隣に座った。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

画面はまだ、大男が斧を振りわす姿を映し出している。

 

「・・・楽しみだね。試合。」

 

「えっと。そうですね。」

 

そう言ってマールは彼と目を合わせないようにした。

 

キン。キィィィン。

 

金属と金属の重なり合う音がする。

マールはごくっと息をのんだ。

 

その頃、ニコスは目をつぶり静かに冥想していた。

 

「あのでっけぇの、すげえ力だぞ!」

 

「ウチの隊に欲しいな。」

 

「おい、あいつ火、吹いたぞ?」

 

「ワァァァ~」

 

いろんな声が入り混じる。

とくん・・・。とくん・・・。

鼓動が高鳴る。

 

「次!ボビン!」

 

ターバンと顔隠しをした係りの者は

白色の布地で全身を覆っていて、

声がこもっていた。

 

「は、はい!」

 

次期、彼にも順番が回ってくる。

あと1人。あと、ひとり。

 

「ワァァァ~」

 

高鳴る歓声。

飛びかう評価。

 

「ふ~~~。」

 

ニコスは深く大きく息をはき目を開けた。。

 

「最後!」

 

「・・・はい。」

 

腰にした鞘を取り

闘技場の真ん中の石段の前へと彼は移動した。

 

「えい、やーーー!」 

 

彼の前にいたボビンと言われていた彼が

甲冑を着た試験官との試合をはじめた。

 

「そこで待つように!」

 

白装束の係の兵士がニコスに言った。

頭上に浮かぶ水辺には太陽が差し込み、美しく輝く一方で

現在行われている試合が鮮明に映し出されている。

 

ニコスが立つ目の前では

その試合が行われ、さらに舞台の奥には

王と、10人の立派な甲冑を着た各隊の兵士長がいた。

手が汗ばむ。

 

「くらえっ!」

 

気合のこもった声でボビンが

周囲がはっと目覚めるかのように大きな声を張り上げた。

するとボビンがそう言ったとたん剣から鞭のような

炎を発し、試験官に襲い掛かった。

 

「・・・・・。」

 

その様子を会場の者誰もが眺めていた。

 

「ちっ・・・くしょう・・・。」

 

試験官は一瞬にして炎をさらりとかわし、

ボビンとの間合いを詰め

今は、喉元へと剣を突き立てている。

 

「よい、腕であった。まだまだ伸びるぞ。」

 

試験官が語る。

この声は、クロガネル。

そうニコスが思った時、彼は剣を鞘に納め仮面を外し、ボビンの方を見ていた。

 

剣をしまうとニコスとクロガネルは目があった。

 

何も語らない。

なにも流れない。

そんな沈黙が通過する。

クロガネルは目線を外すと、

王たちの方を向き、大きな声で言った。

 

「さぁ、この者を隊に入れたい者はおるか?」

 

すると奥にいた兵士蝶たちがざわめき立ち

何人か手を挙げた。

 

「第5騎士団にぜひとも」

 

「いやいや、第3騎士団に。」

 

すると、クロガネルは白いひげを触りながら、

第3騎士団兵士長を名乗る男に向かって答えた。

 

「ふむ・・・、では、シュガールよ。彼はお前の隊に任せよう。」

 

「は!」

 

そしてクロガネルはボビンの元へと近づきこう言った。

 

「では、ボビン。このまま、控室に向かい後に王の前で騎士の誓いを立てよ!」

 

マールは「ここにいる人はみんな魔法を使えるんだ。」

そう思いながら空に浮かぶ水球の映像を眺めていた。

 

「リリー。頭から、火の玉が出たり、鎧が光ったりすごいね!」

 

すると隣にいるあの兵士が話しかけてきた。

 

「あれ?もしかして魔法見るのはじめて?」

 

マールは少し固まった後、ええ、と頷いた。

 

「この国ではね、魔法を使える剣士ってのは常識だよ。

大体、訓練学校や魔法書がそれぞれの家にあるしね。」

 

「そうなのですか?」

 

「そうだよ。こういうやつさ!」

 

そう言って衛兵は一冊の本を取り出した。

 

「これはね。すべての基礎魔法の書かれている本さ。理論を理解して『スペル』を叫べば使えるんだ。慣れちゃえば叫ばなくれてもいいんだけどね。まぁ、幼い子どもなんかやつかない種族の人もいるみたいだけど大体は、誰でも使えるのさ。さっきの志願者も使ってたろ?」

 

「はぁ。スペル?」

 

「よかったらあげるよ。」

 

「え?いいんですか?」

 

「実を言うとね、さっき王様に頼まれてたんだ。これを渡すようにって。でも、君らすぐに行っちゃうんだもん。」

 

少し、申し訳なさそうにマールはお礼を言った。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

本を受け取るとぱらぱらとめくってみた。まるで絵でも描かれているような不思議な文字体。

まるで理解できる気がしない。

 

「あの、ところで、あれ。」

 

そうマールが指差したのは試験後の叙任式の様子だった。

試験が終わった者からそのまま、騎士の誓いを立てる。

その姿がものすごく効率の悪いものに見えて仕方がなかった。

 

「あぁ、あれね。まず最初に、特訓かかしで基礎的な打ち込みができるのを見せた後、

それぞれ何か魔法を使った剣技を披露して、各隊に配属されるのさ!」

 

「はぁ。」

 

「それにしても彼らすごく運が良かったな。クロガネルさんが試合を見てくれるなんて。だってあれは最高の稽古だよ。彼はらね。多分、近くの訓練学校の卒業生だと思うね。だって・・・。」

 

「あ、あの・・・」

 

マールは、もう話が半分聞こえない。

 

「何せクロガネルさんって最高の剣士だから・・・」

 

話はまだまだ続く。

はぁ、と心の中で溜息をしマースは視線を兵隊さんの後ろの背景を見つめた。

 

「あ、ほら、君の友達の試験が始まるよ!いや、楽しみだな~。」

 

はぁ。やっと終わった。

 

「・・・ん?」

 

彼が目に付いたのはちょうどマールの反対側にいる
どう見ても、雰囲気の違う黒いフードをかぶった男だ。

会場のあちこちに建っている大きな石柱の影にいた。

手には黒い本を持っているように見えるが、よく見えない。

 

「この競技場っていろんな人が自由には入れるんですか?」

 

「いや、そんなことはないと思うよ。今日は一般開放してないはずだから

ここにいるのは城の兵士と王だけのはずさ。」

 

「あの城の影にいる人も、兵士ですか?とてもそんな感じには・・・?」

 

マールの指差す方向をみた

衛兵の顔が曇り、ぼそりと小さな声が聞こえた。

 

「・・・賢者アグマ?」

 

「え?」

 

マールは一瞬ドキッとした。

その瞬間、黒いフードの男は本を見開き呪文を唱え始めた。

 

「恨みし時よ。姿を現せ、シャドーマン。」

 

すると、彼の隣には平たく渦巻く黒い球体が現れた。

その中からは真っ黒なゴムのようなものが飛び出す。

 

「ごめんね、仕事が入ったみたい。あいつ捕まえてくるからさ!」

 

そう言って衛兵はマールのそばを離れた。

 

「あ、待って。」

 

「グォォォオォォォ」

 

低く、2重に重なるような声が響く。まるで何人もの人が一緒に嘆いているように聞こえる。

その響きは会場にいた全員の視線を集中させた。

黒い球体は大きなうごめき声をあげると姿を真っ黒な朽ち果てたドラゴンへと変え始めた。

 

「アグマめ、スカルドラゴンを。」

 

その様子を見ていた、クロガネルがドラゴンをにらみつけながら言った。

 

ドラゴンは真っ黒な骨だけの姿となりまがまがしさを出している。

体長は10mを超すだろうか、曲がった背からはとげが出ていて背にはなにも受け付けない。

 

「皆の者、王を守れ!」

 

大きな声で近くにいた兵士長達に指示を出すクロガネル。

あれが、アグマ?あれがアグマの魔法?クロガネルのそばにいた

ニコスは骨の姿で動くドラゴンを眺めそう思った。

 

「行け。」

 

黒フードの男は王の方を指差しドラゴンを向かわせる。

近くにいた兵士がドラゴンに立ち向かおうとすると、

長い尾でなぎ払われた。

 

「お前たちは下がれ!」

 

クロガネルの大きな声が響きわたった。

 

その瞬間、スカルドラゴンが空を向き

 

「グォォォオォォォ・・・スカルレインフォース」

 

と、叫ぶと、無数の何かを口から飛ばした。

 

会場全体に無数の牙の雨が降り注ぐ。

その先端は鋭く、兵士の鎧を簡単に貫く。

 

うわっ。ぐわっ。

 

あちこちで兵士たちがやられだした。

骨が刺さった兵士たちはその場で倒れ動けそうにもない。

 

しかし、観客席にいた兵士やマールにまでは届かなかった。

 

「危な・・・。」

 

周囲に飛び交う牙を見てマールの足は止まった。

 

「・・・そうだ!あいつを捕まえなくちゃ!」

 

翼を開きアリーナの方へと飛び立つドラゴン。

ズーーーン。と会場に降り立ったドラゴンの振動が響きわたり

あたりを揺らした。

近くには何人も今の一撃で倒れた者たちがいる。

 

「おのれぇ。」

 

王のそばへと向かうドラゴンにたったひとりクロガネルが挑む。

 

「よすのじゃ!セバス!」

 

王がクロガネルを止めようと叫んだがクロガネルの怒りは頂点に達し届かなかったようだ。

 

「だれか、誰か、援護を!」

 

剣を抜き助走をつけた跳躍でクロガネルは間合いを詰めると

キィィィンと、何かを切った音が聞こえた。

 

一瞬のことに何が何だか分からず、無我夢中に動いていたマールは

気がつくと魔法の絵本を手にし、黒フードの男のそばにいた。

会場を半周したために息が切れていて呼吸が整わない。

 

男の周りには何人もの兵士が倒れている。

 

「うぅうぅぅぅ。」 

 

さっきの衛兵さんもいた。まだ息がある。

 

「アグマ!お前、なんでこんなことするんだ。」

 

そんな言葉が彼の口から飛び出す。

恐怖とかそんなものはない。むしろこんなことをしていた自分の行動に驚いた。

すると、黒フードの男は暗く低い声で笑い、話し始めた。

 

「はっはっは。アグマ?お前がマールか?なるほど。よく似ている。」

 

「・・・え?」

 

その言葉がいったい何を意味するのか全くマールには心当たりがない。

 

「ははははははは」

 

頭を抱え、アグマは笑いを止める気配がない。

だんだんと笑うことをやめないこの男に腹が立ってきたマールは手にした本を

両手で前に出し言った。

 

「ほら、これ!魔法の絵本だぞ!すごい魔法が使えるんだぞ?みんな元に戻せよ!」

 

すると、その本を見たアグマはこう返す。

 

「脅しのつもりか?そんな力の残りカスで何をしようと言うのだ?」
 

それから手にしていた、黒い本を見せた。

 

「お前の言う力はここにある。絶望と嘆きのすべてが描かれた悪魔の本。それがその本の正体よ。」 

 

「絶望と嘆き?」

 

「本の力の正体も知らずに持っているとは。まぁ、よい。あれを見てみろ。新たな駒の誕生だ。これでこの世界を落とせるわ。」

 

彼が指差したのは、たった今クロガネルに切られたドラゴンの亡骸。

切りはなされた首からはあたり一面黒い雨が降り注いでいた。

 

「・・・クロガネルさん・・・?」

 

その姿はどんどん、漆黒に染められてゆく。

 

はっとしたマールは叫んでいた。

 

「二コーーーース!クロガネルさんから離れろ~~~~!」

 

だけど、聞こえる距離ではない。

 

倒れゆくスカルドラゴン。

黒い雨を降らし大きな地響きと共に黒いドラゴンは砕け散ちり、倒れている兵士たちにまで及ぶ。

雨は渦を巻き止めを刺したものの剣へと流れゆく。

 

「・・・あの爺。なんであんなに動けるんだ?」

 

剣を持ったままクロガネルを見つめ

ニコスはそう呟いた。

 

クロガネルはその場から動かず、雨に打たれ何やら呟いている。

 

「・・・コーーース!」

 

「・・・?」

 

何かが聞こえた気がしてニコスは声の方を見た。

黒フードの男のそばにはマールがいる。

その瞬間、近くで声が聞こえた。

 

「憎い。」

 

「え?」

 

振り返った瞬間目の前にいたのは

全身黒色に染められ目が金色に光るクロガネルだった。

クロガネルは思いっきり振りかぶりニコスに襲い掛かる。

 

「おわっ!」

 

ニコスは雨の当たらないアリーナの端の方にまで飛ばされた。

その様子は空の映像に鮮明に表れていた。マールは言葉も出ない。

 

「お友達は、運がいいな。」

 

アグマがマールに言う。

 

「え?」

 

黒い雨は大量に倒れていた兵士たちにもかかり、

彼らも黒く、黒く染められていく。

 

「奴らはポーンってところだな。」

 

兵士たちは忠実なアグマのしもべへと姿を変える。

 

「なんだって?」

 

マールは手にした本を握り締めながら言った。

 

「駒だと言ったのだよ。最弱のな。まぁ、聞け。私には駒が必要なのだよ。」

 

「駒?」

 

「そう、駒だ。私の望みをかなえるためにね。」

 

「望み・・・?」

 

黒フードの男は笑った。

冷たく、冷淡に。

 

「後は、王と君だけか。」

 

マールは、構えた。

 

「ふん。」

 

黒フードの男が気合いを入れて手をかざすと

黒く変色した兵士たちの目の前には黒い渦を巻く球体が現れた。

 

「弟子との約束があるのでね。今回は失礼するよ。」

 

ジュワっと言う音をたて、消えた。

その瞬間、他の黒く染められていた兵士たちも球体の中に入り姿を消す。

 

会場に残されていたのは

王と、マール、ニコスにけがをして動けない兵士数名だけだった。

 

「ふ~~~。助かった。」

 

しばらく茫然のあたりを見ているだけのマールだったが

ニコスは無事だろうか?そう思ったマールはすぐにアリーナへと降りて行った。

その途中、空に浮かぶ水辺がいつの間にか黒くよどんでいるのが少しだけ気になった。

 

 

続く