「聡子、ただいま。はぁ、、、疲れたわ。」

 

信三はいつものように玄関口で

妻に愚痴を言いながら靴を脱いでいた。

 

ふと、気がつけば玄関に見慣れない置物がある。

大きさは60cmほどの小人の人形のようだ。

 

「あれ?これずいぶん母さんと父さんに似ているなぁ?」

 

焼いた粘土に雑なペイント。

倒したら割れてしまいそうなデザインだ。

 

靴を脱ぎ、妻のいる台所へと向かっていった。

 

「只今。」

 

妻、聡子は夕食の準備に料理に忙しそうだ。

 

「お帰りなさい。」

 

返事はするが信三の方を見ない。

 

「子どもたちは?」

「2階の部屋でまた、ゲームか友達と携帯電話でメールでもしているんじゃない?」

 

信三の子どもは3人。16の娘を筆頭に

最近めっきり会話のなくなった14の娘

そして、やんちゃ盛りの11歳のサッカー小僧、健。

 

「何か変わったことは?」

 

「ないわよ。あなた、子どもたちが気になるのなら気になるなら良い加減自分で聞けばどう?」

 

「いや、う、でも。」

 

話しかけてもここ数年、子どもたちに

存在をうとわれてる父は、

残念な事に、心が打たれ弱い。

 

「なぁ、頼むよ聡子。」

 

「私は通訳さんじゃないのよ?」

 

最近の信三は母を通してでしか

子どもたちと会話ができない困った人だ。

 

「ねぇ、そう言えば、玄関のあれ何?」

 

「知らないの?最近人気の家族の人数分そろえると幸せになれるって言う小人よ。人形屋さんからいただいたの。名前も書いてあったでしょ?」

 

「え?じゃあ、5つもあるのかい?」

 

「いいえ、7つよ。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、子どもたち。見てきたら?」

 

「ステキよ?」

 

信三はスーツを脱ぎに2階の部屋に行こうとすると

確かに人形がいくつも置いてあった。

 

「1・・2・・・3・・・。」

 

確かに全部で7つだ。

玄関の両親に似たデザインのものとは異なり

他の5つには特にこれといった特徴もなくあえて言うなら

目が上を向いていて視点ががそろっていない。

それぞれには名前が書いてあり、『健』、『パパ』、などと文字が雑に刻んである。

 

「はぁ、アイツやりやがったな。」

 

信三はため息が出た。

なにせ他の5つってのは狭い階段の3分の1の広さを占領して

それぞれの段で立っているわけだから邪魔で仕方がない。

ピロピロリ~ん♪

 

「あ、梓からだな。全く、こっちから連絡するっているも言ってるのに。」

 

信三は周囲を警戒しながらメールを見始めた。

 

「ハイハイ。じゅん・・・に・・・・し・・・て・・・るよ。変換っと。」

 

ネクタイをはずそうと手をかけた時

 

パリン!

 

廊下から何かが割れる音がして信三は飛び出した。

サッカー小僧の健だ。

7人の小人の内ひとつを割ってしまったらしい。

足元には子どもの小人の破片が散らばっていた。

ひときわ大きな破片には『健』の文字が

 

「あ~ぁ、お母さん怒るぞ?」

 

「なんでこんなところにこんなものが置いてあるのさ!」

 

かなりのご立腹。

そこへ聡子がやってきた。

 

「あんた!せっかくの人形を何で割ったの!」

 

「こんなとこに置いたほうが悪いんだよ!狭いのに!」

 

健と聡子はああでもないこうでもないと騒いでいる。

7人の小人人形の一体が割れた。

 

「もう、ボクもう夕飯いらない!」

 

結局、頭にきた健が顔も見たくないと母に怒鳴り事が終わった。

 

夕食。

 

「なぁ?今日は妙に静かじゃないか?健は呼ばなくてもいいのか?沙織に千春は?」

 

「あなたが、呼びに行けば?もう、あの子のことなんて知らないわ。」

 

聡子の顔が鬼のように赤い。

こんな時は話しかけない様がよさそうだ。

 

信三は健を呼びに2階にある剣の部屋へと向かっていった。

階段には4つの人形が並んでいる。

 

「健みたいに、割らないようにしなきゃな。あれ?」

 

見慣れたせいだろうか。

人形はさっきに比べ区別ができるようになっている。

 

「よく見たらこれ、千春みたいだな。こっちは沙織か。

あぁ、それで聡子のヤツ、7つのそろえてきたのか?ってことはこれは俺?」

 

だけど、その人形は『パパ』と書かれてはいるものの

やはり最初見たままの姿で何の特徴もなかった。

 

「健、け~ん。」

 

信三は健の部屋のドアをノックした。

 

コンコン。

 

健がいるはずなのに戸からは光がさしていない。

 

「健?寝てるのか?入るぞ?」

 

ガチャ。

 

「健。」

 

信三が健の部屋に入り明かりをつけるもののとやっぱり健の姿がない。

 

信三が後ろを振り返ると

足元にサッカーボールを手に持った人形が転がっていて

その目は信三の方をじっと見つめている。

 

「もう一体あったのか・・・?」

 

カラカラカラカラ。

カラカラカラカラ。

 

気のせいか人形からはかすれた音が聞こえてきている。

 

「あなた。」

 

信三の真横から声が聞こえた。聡子だ。

足元には千春と沙織似の人形。

手に特徴のない人形を持っている。

 

「おまぇ、それ・・・。」

 

「あなた。これどういうことか分かる?」

 

「その『俺の名前入り』の人形を割ったら、俺も人形になる・・・のか?」

 

「そうよ。意外と賢いじゃない。私ね。疲れたの。育児にあなたの両親の世話。それにあなたの愚痴まで毎日毎日聞かされて。それに浮気だって知ってるの。私はね、もっと幸せになれるはずだったんだわ。」

 

「分かった。分かったから。それを置きなさい。」

 

「お願い。私を自由にさせて。」

 

聡子は力一杯人形を叩き割った。

 

「あぁ・・・・。」

 

「ごめんなさい。あなた。ごめんなさい。」

 

すると信三はにやりと笑った。

 

「聡子。この人形はな、最後に触った人が割った場合人形になるんだぞ?」

 

「え?」

 

きやぁぁぁぁぁ。

 

 

・・・・・。

 

ピンポーン。

 

ガチャ。

 

「梓か。」

 

「どう?うまく行きまして?」

 

「えぇ。人形屋さん。これで俺も新しい人生を歩めるよ。」

 

 

 


 

 

「そう言えば、残りの後一体は誰用?」

「えぇ、それはね。この話の目撃者用よ。」

 

ほら、目撃者の肩のすぐ後ろに人形が置いてあるでしょ?ヽ((◎д◎ ))ゝ

 

 

 

 

*くれぐれも割れるお人形にはお気をつけください。*