日照りが続き、
喉の水分も蒸発しそうな岩石砂漠が永遠と続いている。
そんな中、旅をする2人はただモクモクと歩いていた。
「暑い。」
ニコスは黙って何も言わない。
マールの頭上には何かきらきらしたものが浮いている。
「暑いって~。ニコス暑くないのか?スーツって・・・。」
マールは暑いを連呼し続けた。
ニコスの反応のなさにマールは少し飽きてきた。
ニコスは汗ひとつかいていない。
「なぁ、魔法の世界って意外とローカルなんだな。」
屋敷を出て数十分。
まだ背中の方には屋敷が見える。
歩いて旅をするだなんて今の時代考えられない。
「何で丘が砂漠になってるのさ?おかしいって。」
ニコスがマールの方を向き真剣なまなざしで話し出した。
「マール、少し休憩にしようか。」
ポケットからダイヤのカードを取り出し
何かぶつぶつと言いはじめた。この光景は今朝と同じ。
一瞬の突風と共に目の前には旅の荷物が現れた。
わざとなのかニコスはマールの方を見ようとはしない。
ニコスは荷物の準備をしながら質問に答えだした。
「昨日の世界とは別世界だからな。それに、変な奴らが来ないようにここに立てたのさ。」
「変なヤツって?」
「あそこは、最新の研究所だったんだ。だから、その情報を盗みに来るヤツが後を絶たないのさ。マスターの魔法の眠りのツタだってその内のひとつだよ。今じゃ、番人の役目になっているけどね。」
「ふ~ん?」
マールは納得したような、納得してないようなそんな顔をしている。
「そういえば、マスターに何の魔法道具もらった?」
ニコスは少し大人びた様子マールに聞いた。
「この何でも入るって道具袋一式と飴、それとさっきから僕の頭の上をウロウロしている蝶だよ。この本開いたら出てきたんだけどね、ドク曰く『旅の役に立てなさい』だってさ。ついでに、この本を完成させてくれなんて頼まれてるんだけど。これ、青い表紙しかないんだよ。でも、悪いね。服から何まで用意してもらってさ。」
「良いんだよ。旅についてきてもらっているのだから。そんなことよりも道具の説明はしてもらった?」
「ううん。授業がどうこうとかは言ってたけど、旅は長いんだし詳しい事は常時ニコスが話してくれるってさ。」
「はぁ・・・。マスター・・・。」
すると、ニコスは蝶に向かって話し出した。
「この蝶はね情報蝶ユビキスって言うんだ。」
「情報蝶?」
「うん。元は古代の人間が使っていたものらしいんだけど、文字や写真、絵などを食べて生きているんだって。好物は文字らしいんだ。その代わり持ち主が求める知りたい事を瞬時、映像として頭に焼き付けて教えてくれるんだってさ。それを応用した技術で遠くの人と情報の交換をしたり会話したりしていたらしいよ。」
「便利なものがあるんだね?流石、魔法世界!コレがあれば勉強しなくてすむってことでしょ?」
マールはかなりうれしそうだ。
「君らの世界で言うところの携帯とパソコンってところかな。でも、数が減ってしまって通信できる人があんまりいないのさ。こいつ、結構食うんだよ。分量で言うとマールの学校の授業6時間分くらいだね。」
「じゃあ、どうやって生きていくのさ?」
するとニコスがマールを指差す。
「マール、君がいるじゃないか?旅の間、勉強もかねて彼女に餌を与えて欲しい。ちょうど彼女はマールの授業ノートが好物みたいだからね!」
ユビキスの羽から光が現れ、マールの頭の上をウロウロしている。
「・・・6時間?しかも、僕のノートってどう言うこと?」
「ほら、これ!」
ニコスは自分の道具袋からマールの授業のノートを取り出した。
ユビキスは少しづつ、ノートから文字を吸いだしている。
「うわっ!真っ白じゃないか!何してるのさ!」
「大丈夫だよ、これは昨日、君のノートを借りて俺が書いたものだから。」
ほっとしたようなそれでいて一発ブン殴ってやりたいような顔をしてマールはニコスを見ている。
「町じゃユビキス専用の餌も売っているらしいんだけど、目立たない店でなかなかお店が見つかんないんだよ。しばらくはマールが勉強したノートで我慢してもらうよ。」
「え?勉強?」
ニコスはさらにマールの学校用のかばんまで取り出した。
「そ!マールはこの世界の事を勉強しないといけないし、それをまとめたものをユビキスに与えてあげなよ。ユビキスに食われないよう昨日教科書は防虫剤かけといたからさ!」
灼熱の砂漠が続いている。
彼らの旅は始まったばかりだ。
しばらくしてニコスは荷物を片付け始めた。
する事もなくなったマールはドクにもらった飴の缶をいじっている。
「ねぇ?ユビキス?この飴、何かわかる?コレ熱で溶けない?」
マールは早速、情報蝶にドクからもらった飴の事を聞いた。
『検索中・・・検索中・・・』
ユビキスがきらりと輝きマールに語る。
『検索結果情報なし』
「・・・あのさ、ニコスさん・・・?」
「あれ?大体のユビキスは親の情報を引き継ぐはずなんだけどなぁ・・・?マスターなんで生まれたての何も情報の持たない蝶をよこしたんだろ?マールが旅したものを記録しろってことかな?」
不思議そうな顔するニコスに対しマールの顔は渋い顔のままだ。
「日記・・・ってこと?」
「そうだね、彼女らは見聞きした事を蓄えておく習性があるんだ。それと街でも文字の書かれた本、売ってるはずだから少しずつ食べさせようよ。食べた事は彼女忘れないからさ。」
わかったような。わからないような、マールはそんな顔をしている。
多分、この蝶は都合のいい外部記憶装置のようなものなのだろう。
「マール、この子に名前をつけてあげないか?いつまでもユビキスって種族名で呼ぶのもかわいそうだしな。」
下に敷いていたシートを丁寧にはたきながらニコスはマールに語る。
「ん?そうだねぇ・・・。」
「マールが決めなよ。」
「ん・・・じゃあ、リリーにしよう!」
「リリーか。いい名前だね。宜しくなリリー」
ピンクに輝く蝶は2人の頭上を円を描くように回っている。
「ところで、この飴・・・。」
「マール、赤いの一粒くれるかい?」
マールは缶から赤い飴を取り出しニコスに渡した。
「コレねスカイロップって飴さ!中には7色の飴が入っていてそれぞれが常に快適な状態に保ってくれるのさ!白は眠気覚ましただよ。それがないとマスターの屋敷に出入り出来なくてね、さっき舐めてから出てきただろ?」
「そういえば・・・。」
「使っても飴は一日経てば、補充されるから好きなだけ食べればいいと思うよ。でも、食べすぎには注意だね。」
「へ~?ってことはこの熱さもしのげる飴があるってこと?」
「今、もらった赤いのがそうだよ。どの色でもいいから舐めてごらんよ。今より快適にいられるからさ。」
マールも赤い飴を取り出し舐めてみると急に適度な気温になった。
「おぉ~ホントだ!熱くなくなったよ!便利なものだあるねぇ~」
服についた砂埃を払いながらニコスは立ち上がりマールに言う。
「さぁ、マールそろそろ行こうか。」
ニコスは荷物をしまうとスタスタと行ってしまった。
日差しは相変わらず、ギラリギラリと照っている。
だけど、ドロップのおかげで快適な気候で歩く事ができた。
しばらく歩いているとゴミ箱が置いてあるところにつく。
砂漠の真ん中にゴミ箱とはなんとも言いがたい。
ニコスが立ち止まった。
「着いたぞ。」
「ニコス・・・『着いた』って、ただのゴミ箱があるだけで何もないじゃないか。街は?」
あたりは相変わらず岩石砂漠が続いている。
ただ、違うのは目の前にただのゴミ箱が置かれているだけだった。
「まぁ、ちょっと待ちなよ」
ニコスはダイヤのカードを取り出すと
魔法で荷物を出した。
出てきたものはゴミ束だ。
「・・・生ゴミ???」
ニコスはゴミ箱の中にゴミ束を入れた。
「赤く光ってるね。ん?」
地平線の向こうから何か土煙を上げてこっちへ向かってきている。
目の前にバスが止まった。
バスの側面に書かれた文字は見覚えがある。
「ガルディアのバス、ライフ・コット・ジーニー君だよ。ちなみに燃料は生ゴミなんだ。」
マールが運転席の方を覗き込むとそこには誰もいない。
「ニコス様、毎度ありがとうございます。」
その声は40代を思わせる渋い男性の声がする。
「え?バスがしゃべった・・・。」
バスの正面には口がある。
「何をおっしゃいますか。昨日もお会いしたではありませんか。」
バスは、残念そうな声を出す。
「昨日はさ、ジーニーにマールの迎え頼んでたんだ!」
「ニコス様は照れ屋さんですから『ウチ来る?』が言えなかったのでございます。」
「ジーニー!!」
「失礼しました。では、出発いたしましょう。」
「ははははは・・・。」
マールは笑うしかない。
2人はバスへと乗り込んだ。
バスの中で2人は目的地の街のことを話していた。
マールは窓際に座り、その隣にニコスが座った。
「今から行くって言う食文化の中心城下町アルバーダってどんなとこ?食の街ってくらいだからおいしいものがたくさんあるんでしょ?」
「う~ん。あんまり期待しないほうがいいぞ。」
「どして?」
「ママの料理が最高ってことさ!」
「・・・・・。」
「冗談だよ。いろんな食べ物をお試しできるって意味では最高の場所だけどね、いろんな国から食品を集めているせいか、どうしても新鮮さに欠けるんだよ。アルバーダ自身の特産品って呼べるものもないしね。」
「ふ~ん?おいしいものは地元に行かないとダメってことか~」
「まぁね。。」
マールが外を眺めると青い色をした鳥が空を飛んでいた。
「そういえば、気になっていたんだけどドクが言っていたニコスの試練って何?」
「・・・まずな、王に騎士の叙任をしてもらおうと思ってるんだ。」
「え?騎士?」
「この国を旅するのにはさ。必要な資格なんだ。旅をするにはお金がいるからね。騎士になれば、仕事の依頼が来てそれをこなせば報酬がもらえるのさ!ちょうど、今の時期は騎士を募集しているからそれを受けに行くんだ。マスターの紹介もあるしね。」
「騎士って国のために兵士としてずっとそこにいるわけじゃないんだ?」
「うん。そういう人もいるんだけどね。騎士ってのは『何か』を誓う人のことなんだよ。」
誰かのために誓いを立てそれを遵守する。
それが騎士なのだとマールはニコスに教わった。
「今まで何で行かなかったのさ?」
「うん。まぁ、決まりでもさ、行きたくないってのはあるだろ?」
そういう気持ちはマールはよく分かる。
「試験って何するのさ?」
「『実力を示せ。』としか聞いてないよ。」
ニコスは窓の外に飛んでいる鳥を見つけたようで目が鳥に釘付けとなっている。
「え?僕はそれ受けなくても平気なの?」
「・・・あ、うん。大丈夫。マスターがくれた絵本があるだろ?」
「あの何も書いていない本の事?」
マールは自分の道具袋を取り出し絵本を見せた。
「うん。それ、それ。それを完成させるのがマールの仕事みたいもんだから大丈夫なんだ。その本便利なんだよ。持っているだけでいろんなところへ行けるしね。」
「へ~?通行書みたいなもん?」
「うん。まぁ・・・。」
ニコスの顔色が悪い。緊張しているのだろうか。
「大丈夫?額に汗かいているみたいだけど?酔った?」
しばらくニコスはうつむき、マールの問いに答えた。
「・・・あぁ、大丈夫だよ。」
バスは順調に進む。
『食の城下町アルバーダ、アルバータお忘れ物にはご注意ください』
「ありがとうジーニー。」
ニコスの顔色は元の顔色に戻っていた。
「ありがと。」
ジーニーは2人を下ろすと、すぐさま砂漠の向こうへと消えていった。
「彼、忙しいね。それにしても大きな街だなぁ・・・」
まず目の前に飛び込んできたのは中心にある大きな宮殿だ。
街は大きな宮殿を中心に賑わい、さまざまな露店が並んでいる。
人々の姿は、白く全身を覆う布を巻いていて、ターバンを巻くものも多い。
そのほかの特徴といえば首に鳥の姿を模した宝石つけている。
宝石は青い色をしていて何かの信仰心の表れのようだ。
「マール、お金を渡すよ。はい!」
「コレは?」
「この国は、銅貨、銀貨、金貨で流通してるんだ。銅貨10枚で銀貨1枚分、銀貨10枚で金貨1枚分さ。無駄遣いするなよ?」
「わかった。ありがとう!」
マールはニコスに金貨をもらうと
2人で街の中心街へと向かっていった。
道を歩いていてもそこたら中から商品を売る声がする。
「いらっしゃいウチの食品は海の海獣だよ!美味いよ美味いよ!」
「ウチの葉果物さ!新鮮だよ!」
あちらこちらから甘い香りや
香ばしい香りがしている匂いが充満し街全体が厨房のようだ。
人間らしい人は見当たらない。
みんな、鳥や獣などをかたどった顔立ちをしている。
「カラカラ干し肉食わないか?」
「ん?食べてみるよ。」
近くにいたかばの様な顔のおじさんにニコスは干し肉を2つ注文した。
「銅貨2枚だよ。」
「銀貨しかないからお釣り頂戴!」
「はい。毎度あり~。」
宮殿へと向かいながら2人は干し肉をかじる。
「イイ匂いするけど、本場よりもまずいんでしょ?」
「かもね。そうそう、マール、この街じゃ、まずいだの、いらなだのは禁句なんだぜ?」
「どうして?商売の妨げ?」
「それもあるだろうけど、この国は元々いろんな異文化を認め合い共存する事で成立した国なんだ。
食べ物には好みってのはあるから、全否定しちゃうのはあんまりよくいないことなんだ。意外とデリケートだろ?」
干し肉はあっという間になくなった。
「欲しくない時はなんて言えばいいのさ?」
「『私の体には合いません』って言えばいいんだよ。流石に、体のことまでは誰も文句言わないからね。」
「なるべく努力するよ。」
「おう。」
ふと、ニコスの足が止まった。
「なぁ、マール。俺さ、マスターにもらうはずだったものを貰いに行って来るから宮殿前で待ち合わせしよう。ひとりで、いろんなところ見て見たいだろ?」
「そうだね。」
ニコスは、マールの返事と聞くと道を戻るようにどこかへ去っていってしまった。
「どうしたんだろ?ニコス。」
ニコスの様子が変だ。
本当は、一緒に回りたかったのだけど、試験を後に控えているニコスは
ひとりになりたかったのだろうと納得し、マールひとりで出歩くことにした。
「リリー、じゃ回ろうか?」
前方の方から鶏のような顔をしたおばさんが叫んでいる。
『いらっしゃいいらっしゃい、ウチの黒焼きタマゴは最高だよ~』
「黒焼きタマゴ・・・。」
その姿はどう見ても失敗した玉子焼きだ。
唯一の救いは一口サイズに切ってある事だろう。
しばらく見ていると
黒い物体が出来上がっていくたび
手のひらサイズの紙袋の中に惜しみなく詰め込まれている。
「おや?アンタ・・・」
鶏おばさんがこっちを向いて声をかけてくる。
「アンタ旅人さんだね!わかるよ。あたしゃここに暮らして長いもの!どうだいこの黒焼きひとつ味見してみないかい?」
その威圧感は商売をする人の圧力だ。
「え?でも、あまり体に・・・」
『見た目OUTは味もOUT』マールの法則だ。
「いいからいいから、一口!」
ほぼ無理やりにマールは口の中に黒焼きタマゴを放り込まれた。
はっきり言って予想通りの味だ。2口食べればもはや限界がやってくるだろう。
「どうだい?おいしいだろ?私の飼っている鶏のもんだよ。」
「まず・・・。」
ニコスが言っていた。この国は『まずい』禁止。
はっとしてマールは感想を言うのをやめた。
「まず・・・?ナンだって?」
おばさんの顔はものすごく怖い。
怒涛天を突くそんな勢いで鶏冠を逆立てている。
「えぇ、、、微妙においしいです。」
もうこう言うしかない。涙で目の前が見えない。
「そうだろう!そうだろう!」
鶏おばさんは高らかに笑っている。
「はい、銅貨4枚だよ。」
「え?」
「え?じゃないよ。この袋詰めは、銅貨4枚だよ。」
鶏おばさんの前には3種類の袋が置いてある。
大は銅貨10枚、
中は銅貨6枚、
小は銅貨4枚らしい。
「あの・・・じゃ、この小さいのください。これしかお金ないから・・・」
そう言ってマールはニコスにもらった金貨を差し出した。
「まいどあり~」
鶏おばさんは高らかに笑うと、周辺にある袋までかき集めだした。
「あの・・・お釣りは・・・?」
「あぁ、お特用にちゃんと用意してあげますよ!坊ちゃん!」
鶏おばさんは、店中のものをまとめていやがる。
「坊ちゃん!サービスしておくね!この袋に大きなタマゴ入れてあげるから。これ最後のひとつなんだよ!今朝、隣町の黒フードをかぶった男から譲り受けたタマゴなんだねどね、坊ちゃんには特別にあげるよ。ありがと~」
本当に大きなタマゴだ。マールの頭位の大きさがある。
「・・・・・はぁ。」
マールは腐るほど、荷物を抱えている。
右手にはあの大きなタマゴ。左手にはめいいっぱいの黒焼きタマゴ。
それだけじゃ足りず、背中にも大量の黒焼きタマゴを背負っていて彼からはこげた異臭がしている。
「・・・お金もなくなったし、待ち合わせ場所に行こうっと・・・。」
荷物が重いせいか生気がドンドン奪われていった。
