「ご自由にどうぞ😊」と言われた瞬間、何を弾けばいいか分からなくなる問題
楽器店に行って、いざ試弾。店員さんから、「ご自由にどうぞ😊」と言われる。
「……(何弾けばいいの?)」
この沈黙、経験したことがある人、結構いるんじゃないでしょうか。で、とりあえず知っている曲を弾いてみる。なんとなく最後まで弾いて、「うーん……よく分からないけど、良さそう」
はい。これ、一番もったいないパターンです。試弾って、実は「何を弾くか」よりも、どうやって違いを感じるかのほうが大事なんです。
試弾で大事なのは「上手く弾くこと」じゃない
楽器店での試弾というと、なぜかみんな、ちょっと構えてしまいます。
「ちゃんと弾かなきゃ」
「せっかくなら得意な曲を弾こう」
「店員さんに下手だと思われたくない」
……となりがちです。
でも、よく考えてみてください。ここ、発表会でもレッスンでもありません。楽器を選びに来ているだけです。だから、上手く弾く必要なんてないんです。もちろん、普段から弾き慣れている曲を試すのは悪くありません。しろ、弾き慣れた曲だからこそ、
「この楽器だと、いつもより弾きやすい」
「こっちは音が出しやすい」
「なんだか思ったように弾けない」
といった違いを感じやすい。その意味では、自分の定番曲を弾くのは正解です。ただし、それだけで終わってしまうと、
「曲を上手く弾けたか」
の確認になってしまうことがあります。試弾で本当に知りたいのは、その曲を弾いたとき、自分と楽器の相性がどうなのか。ここです。
そして、もうひとつ。
「店員さんに下手だと思われたくない」
これも、あまり気にしなくて大丈夫です。そもそも、試弾のライバルを誰だと思っていますか? プロです。音大生です。現役の演奏家が普通に楽器店へ来ています。そんな人たちと張り合っても仕方ありません。最初からあきらめましょう。……というか、張り合う必要がありません。
こちらは楽器を買いに来ている客であって、「この人、上手いな」と思われるために弾いているわけではありません。むしろ、下手でもいいから、自分が弾いたときにどう感じるか。そこを見るのが試弾です。だから、ミスしてもいい。途中で止まってもいい。同じフレーズを何度も弾いてもいい。
「今の音、もう一回」
「今度はもっと弱く」
「こっちは強く弾いてみよう」
そんな弾き方のほうが、楽器の違いはよく分かります。試弾で必要なのは、演奏の上手さではありません。自分の耳と手で、その楽器を確かめること。そのために弾くんです。
私なら見るのは、この3つ
あれもこれも確認しようとすると、だんだん分からなくなります。なので、最初は3つくらいに絞ってしまっていいと思います。
① タッチ――弾き心地はどう?
まずは、鍵盤を触った瞬間の感覚。
・重い? 軽い?
・鍵盤の戻り方は?
・思った通りに音が出る?
・反応がいい? それとも少し鈍い?
これは、比較すると面白いくらい違います。同じような楽器でも、
「こっちは弾きやすい」
「こっちはちょっと疲れる」
という違いが出てきます。この「なんか弾きやすい」は、かなり大事です。理屈では説明できなくても、自分の手が「こっちが好き」と言っていることがあります。
② 音の出方――弾き方で表情が変わる?
次に見るのが、音の出方です。同じフレーズを、弱く弾いてみる。普通に弾いてみる。少し強く弾いてみる。これだけでも、その楽器の性格が見えてきます。
弱く弾いたときはどうか。強く弾いたときはどうか。その間にどれくらいの幅があるか。ちゃんと弾き方に応じて音が変わるか。ここで見えてくるのが、表現の幅です。「強く弾けば大きな音が出る」というだけではありません。
弱く弾いたときにどんな音がするのか。強く弾いたときに、音がどう変化するのか。自分の弾き方、つまりタッチや角度の変化に、楽器がどう反応してくれるのか。ここは、長く付き合う楽器ほど重要になってきますし、レッスンで習ったことを自宅で練習する際に再現できる/できない問題にまで発展します。
③ 音の好み――結局、好きかどうか
そして最後は、これです。その音、好きですか? もう、完全に主観でOKです。
例えば、「こっちの音のほうが好き」でもいい。「キラキラしている」「濃厚な音がする」「太く響く感じがする」そんな感覚でも十分です。「和音を弾いたとき、それぞれの音が独立して聴こえる」というのも、立派な感想です。「こっちは派手な音」「こっちはいぶし銀っぽい」これもOK。
さらに、「ずっと聴いていたくなる」というのも大事なポイントです。「ちょっとキンキンして疲れる」「丁寧に弾いたときの音がすごくいい」「長く弾いていても耳が疲れない」という感覚も、ぜひ大切にしたいところです。
そして、ピアノを弾いている人なら、「音が抜ける」という感覚もあると思います。同じ音量でも、「こっちは音がスッと前に抜けてくる」「こっちは音がこもって、あまり抜けてこない」という違いです。もちろん、「音が抜ける・抜けない」も、その人の好みや使う環境によって評価が変わります。
楽器の音は、必ずしも、「明るい」「暗い」「柔らかい」「硬い」といった言葉だけでは表現できません。「キラキラしている」「濃厚」「太い」「いぶし銀」「派手」「音が抜ける」「音が抜けない」「耳が疲れない」むしろ、そういう自分だけの感覚のほうが、楽器選びでは重要だったりします。
もちろん、「このメーカーはこういう音」「この楽器はこういう評価」という客観的な情報も参考になります。でも、最終的にその楽器を弾くのは自分です。毎日聴くのも自分です。だから、「世間で評価されている音」より、「自分が好きな音」。ここは遠慮しなくていいと思います。
「理由はうまく説明できないけど、私はこっちが好き」それで十分です。楽器選びでは、案外この「なんとなく」が、最後まで残る大事な感覚だったりします。
試弾で「いいところを見せよう」としない
これ、結構ありがちです。試弾を始めると、「せっかくだから、ちゃんと弾こう」「ミスしないようにしよう」「それっぽい曲を弾こう」となる。
そして、いつもより妙に力が入る。結果、自分が楽器を弾いているのか、楽器に自分が弾かされているのか分からなくなる。これでは本末転倒です。試弾は演奏会ではありません。ミスしてもいいんです。途中で止まってもいいんです。同じ音を何度も弾いてもいいんです。
むしろ、「この音、もう一回」「今度は弱く」「もう少し強く」と、同じことを繰り返したほうが、楽器の違いは分かりやすかったりします。
長く弾けば分かる、とは限りません
「試弾はじっくり時間をかけたほうがいい」もちろん、それも間違いではありません。でも、長く弾けば弾くほど分かるかというと、そうでもありません。何台も弾いていると、だんだん耳も手も疲れてきます。(免税店の香水売り場の感覚)
最初は、「こっち、すごくいい!」と思っていたのに、5台目くらいになると、「……全部同じに聞こえる」なんてこともあります。だからこそ、最初の印象は意外と大事です。弾いた瞬間の、「あ、これ好きかも」「なんか違和感がある」「こっちは弾きやすい」という感覚。
もちろん、それだけで決める必要はありません。でも、最初に感じたことは、ちゃんと覚えておいたほうがいいと思います。
試弾で緊張する
分かります。近くには店員さんがいる。周りにもお客さんがいる。なんとなく「ちゃんと弾かなきゃ」という空気を感じる。
でも、安心してください。たぶん、みんなそこまであなたの演奏を聴いていません。周りの人も、自分の楽器選びで精一杯です。店員さんだって、あなたの演奏の上手い下手を採点しに来ているわけではありません。それより、「この人は、この楽器をどう感じているのかな」というほうを見られています。
だから、堂々と間違えていいんです。試弾なんですから。
よくある失敗は、この3つ
・いきなり難しい曲を弾く
・上手く弾こうとする
・全部を一度に比較しようとする
この3つです。これをやると、だいたい疲れます。そして最後には、「……結局、どれが良かったんだっけ?」となります。
だから、もっとシンプルでいい。
まず触る。
弾いてみる。
同じフレーズを弾く。
強弱をつけてみる。
そして、「また弾きたい」と思えるか。これ、かなり重要だと思います。「この楽器、もう少し弾いていたいな」そう思えたなら、それはかなり良いサインです。
だから楽器店へ行っても、気楽でいいんです。
「この楽器、好きかも」に出会えますように!










