【TVドキュメンタリー時評】2026年1月前半・NHK編
※作品評価は◎=おもしろい ○=ふつう △=う~む ×=よくない 珍=珍作1月前半のNHKは16本。毎年のことですが、ご祝儀とばかりに様々なドキュメンタリーが出てきて、あまりのんびりもしていられない期間です。その新年休み4日間に放送された作品、能登半島地震関連がイマイチだった一方、驚きの連続で最初の年間ベスト級作品になったのが、京都局制作の『西本願寺 伝統と葛藤』。西本願寺 伝統と葛藤 | 西本願寺 伝統と葛藤【NHK】世界遺産・西本願寺。歴史的な文化財が数多く残る大寺院の足下が揺らぎ始めている。急激な門徒の減少や寺離れなど、変わりゆく状況の中で模索を続ける僧侶たちを見つめる。www.web.nhkマンガ『ヤンキーと住職』の作者でもある香川真二氏(執筆は「近藤丸」名義)も登場し、人口減少と仏教離れが進む中、真宗はこれからどうするのかを探っていく極めて真面目な作品…と思いきや、僧侶たちが集まり、パワポ資料まで作ってSNSへの投稿内容を検討する「伝道コンテンツ検討会議」にまず衝撃を受け…更には災害と関係したプチ炎上案件が生じて緊急会議…という斜め上の展開に「これが今の真宗の総本山の内幕とは…」と、俄然面白くなってくる。袈裟姿の僧侶たち(しかも高僧クラス)が、インスタへの投稿を巡ってピリピリした雰囲気で会議をする画だけでハイレベルな喜劇が成立するとは。もし親鸞がこの様子を見たら何と言うのだろう。美麗な映像と共に、どこかユーモラスで、でも非常に現代的な問いと葛藤を映し出した、不思議な深みのある作品でした。伝道コンテンツ検討会をそのままYouTubeで流したら、相当な視聴数が稼げるのでは…興味ある方は、西本願寺公式インスタをご覧あれ↓。「ハッシュタグ南無阿弥陀仏」…Login • InstagramWelcome back to Instagram. Sign in to check out what your friends, family & interests have been capturing & sharing around the world.www.instagram.comそして一昨年の安全地帯に続き、北海道発の音楽人ドキュメンタリーで良かったのが『冨田恵一 旭川出身・稀代のポップマエストロ』。冨田恵一〜旭川出身・稀代のポップマエストロ〜 | Music Tree【NHK】MISIA「Everything」キリンジ「エイリアンズ」を“同年に”手がけた旭川出身のプロデューサー冨田恵一。故郷の原点「ムーン・リバー」等創作の秘密に迫る。www.web.nhk作編曲家として80年代から活躍する冨田恵一の足跡を、様々なミュージシャンの証言と作品で振り返りながら、80~00年代の音楽シーン、そして「Jポップ」とは何なのかを考えられるぜいたくな作品。冨田氏のアレンジ術に関しても、細かい技術的な描写があることで作品全体の厚みも増し、人にもテクニックにもしっかりスポットを当てた良作です。年初からアメリカのベネズエラ侵攻とグリーンランド問題による緊張、イランの反政府運動・弾圧がエスカレートする中、時流とピタリ合っていたのが3作品。“こころの時代”『宗教の可能性を求めて バチカン「教皇選挙」後の世界』は、若松英輔氏と菊地功枢機卿の対話を軸に、上智大学の原敬子氏、蓑輪顕量氏、ハディ・ハーニ氏からの問いも交えつつ、今とこれからのカトリック教会・バチカンについて考えていく。2026 宗教の可能性を求めて バチカン「教皇選挙」後の世界 | こころの時代〜宗教・人生〜【NHK】戦争と貧困、難民や移民問題に揺れ、自国優先主義が覆う世界を、宗教はどのように乗り越えることができるのか。前教皇フランシスコが推進した「すべての人に開かれた教会」や他宗教との対話を、新教皇レオ14世はどう継承するのか。教皇選挙に参加し投票した菊地功枢機卿とカトリック信徒の若松英輔さんが徹底対話。仏教の僧侶、イスラム教徒など他宗教からのインタビューによ…www.web.nhk冒頭で思わず笑ったのが、菊池枢機卿が映画『教皇選挙』もしっかり観ていて、その話題から始まったこと。話は多岐に渡れども、“命あるものは平等”という太い軸が不変であることに安心もする、年初にもっともふさわしい一作でした。そしてドラッグ絡みの作品で、窪塚洋介にナレーションを頼むとは…!と構成も内容も攻めていたのがETV特集『グッドモーニング オハイオ』。グッドモーニング オハイオ | ETV特集【NHK】新しいアメリカが、生まれつつあるのか―。ラストベルトの一角、オハイオ州。製鉄業が衰退した町に、合成麻薬フェンタニルが入り込んだ。「あいつが死んだ、この娘も死んだ」元ディーラーらが語る“絶望死”の実態。トランプ大統領の『偉大なアメリカの復活』は、なぜ白人労働者たちに熱狂的に支持されるのか。アフガニスタンで戦った元軍人。働き者の父を亡くしたホームレスの…www.web.nhkバンス副大統領の出身地でもある米オハイオ州を舞台に、今の白人労働者階級、特にトランプ支持者の思考法を、産業の没落や麻薬汚染、移民の増加などさまざまな背景をベースに探っていく。それを単に客観的に映すのではなく、「まだこんな人いるのか!」と驚くほど典型的な片田舎の保安官・リチャード。ディープステート、バイデン影武者論をピュアに信じる退役軍人のアダム。そしてホームレスのパトリックという強烈なインパクトがある3人を軸に組み込むことで、ドラマがしっかりと立ち上がってくるのが面白い。そして「もしも神様に余裕があるなら僕のことも守ってほしい」と最後に言い残し、行方知れずとなったパトリックが一番まともに見えるというのが…3本目は、1937年生まれで立川基地の米兵を見ながら育ち、東大で60年安保闘争に参加し、現在も月イチの基地反対・撤去デモを行い続けている加藤克子さんが主人公の“こころの時代” 『“基地の街”に生きる』。“基地の街”に生きる | こころの時代〜宗教・人生〜【NHK】戦後一貫して“基地の街”だった立川。1937年に立川で生まれた加藤克子さんは、街にあふれる米兵の姿を見て育ち、米軍の基地拡張に反対する砂川闘争も身近で見てきた。大学時代は60年安保闘争に参加。その後、米軍の代わりに自衛隊が移駐すると、基地に反対する市民活動を始め、現在まで継続している。今も月に1度、基地反対を訴えるデモを行う。その人生をたどり、基地…www.web.nhk立川の町の人たちも「この人は非現実的だ」「時代錯誤だ」と思っているのかもしれないけれど、実際に世界で起こっていることを見れば、こうして愚直に叫び続けるほうがよっぽど“正常”なのではないか…と。期待を裏切らず面白かった“気になる家”『下町のコンクリート長屋 東京 清澄白河』。アニメーションも効果的に使われ、作品の厚みがまた高まっていました。下町のコンクリート長屋(東京・清澄白河) | 気になる家【NHK】ずらっと連なる凝った装飾のコンクリート造りの店舗。通称「清澄長屋」と呼ばれるこの建物は実は100年近い歴史がある。関東大震災後の1928年、当時の東京市が建てた耐震・鉄筋コンクリート造りの最先端の建物だったのだ。東京大空襲で周辺は焼け野原となったがコンクリートの長屋は残り住人を守った。築100年の壁や天井には深い味わいがあり家の裏には意外な絶景が広…www.web.nhk今までこの地名「せいちょうしらかわ」と読んでいたのですが、実は「きよすみしらかわ」だったと初めて知り…広島の爆心地近くで原爆に耐えた建物や軍艦島の高層住宅もそうですが、1920~30年代に建てられた鉄筋コンクリート建築の凄味をここでもひしひしと感じました。もしや設計は増田清?と思って調べたら、どうもここは誰が手掛けたか不明なようで。つくり自体はあまりドキュメンタリーっぽくないのですが、深く感銘を受けたのが年初恒例の“ハートネットTV”『認知症バリアフリーのまち大集合!』の2026年版。認知症バリアフリーのまち大集合!2026 | ハートネットTV【NHK】第9回「認知症とともに生きるまち大賞」の受賞団体が決定!あきらめていたサッカー観戦をサポーターたちと楽しむ(東京)、若年性認知症の人たちの“居場所”(神奈川)、当事者がいきいきと働くまちの定食屋さん(愛知)、家族の“悩み”が名物メニューになった喫茶店(福岡)、そして高校生が運営する秋田と広島の認知症カフェ。6つの団体のユニークな活動を通じて、認知症…www.web.nhkどの地域の取り組みも興味深いものばかりで、中でもドラマチックだったのは、福岡で「ばあちゃんビジネス」を展開する“うきはの宝株式会社”による「ばあちゃん喫茶」編。福岡の高齢女性・谷口さん。毎日トンカツを揚げるようになり、息子さんが「おかしい」と思い相談したら認知症とわかり…施設に通うようになったところ、職員さんが「けっこう面倒なトンカツを常においしくパッと揚げられるって、実はすごい強みじゃないか…」と気付き、まず子ども食堂で腕を振るってもらったら評判になり、遂には「うきはの宝」にスカウトされてお店で調理するようになる…という、そのまんま映画になりそうなストーリー。トンカツやぬか漬け、なれ寿司などを常に安定したクオリティで作るにはかなり熟練の技が必要で、かつ換金能力の高い仕事にもなる=ハイスキルな高齢女性が相当数いることを世間はもっと認識すべし…と常々思っていたので、文字通りの胸のすく展開に涙しそうになりました。ちなみにその「トンカツ名人」の谷口さんのお料理、福岡市の城南区梅林にある“ばあちゃん喫茶”で週1回(木曜、要予約)いただけるそうです。しかも息子さんによると「実はトンカツよりからあげが上手」らしく、「伝説のからあげ」として提供されることもあるそうな。これは絶対に行かなければ…と思ったのでした😅(ご意見・ご感想はtwitterからもどうぞ)https://x.com/amaguribouzu