【TVドキュメンタリー時評】2025年12月後半・NHK編
※作品評価は◎=おもしろい ○=ふつう △=う~む ×=よくない 珍=珍作12月後半のNHKは14本。年間では329本となり、キリよくあと1本ほしいところで新年を迎えました。今年はドキュメンタリー回が少なく、もしや番組が冷遇されているのか…と危惧していたハートネットTVですが、そんな懸念も吹っ飛ぶほどの底力を見せてくれたのが『イタコ 中村タケ 93歳の日々』。イタコ 中村タケ93歳の日々 | ハートネットTV【NHK】日本で最後の、“全盲のイタコ”といわれる女性がいる。中村タケさん93歳。死者のことばを呼び寄せる“口寄せ”を行う巫女(みこ)であるイタコ。もとは視覚に障害のある女性の生業として始まり、200年以上の歴史がある。かつては青森県内で120人以上いたとされるが、時代の流れとともに多くのイタコが姿を消した。15歳からイタコとなり、文化を引き継ぎ、守り続けて…www.web.nhk八戸市に住み、現在は実質的に“最後のイタコ”となった中村タケさん(1932年生)の仕事と日常を“視覚障害者の生活史”という視点を交えながら映し出していく。中村さんの存在そのものがしっかりと見え、人生を感じられるよう緻密に編み込まれた全てが素晴らしく、イタコとしての姿、ひ孫と接する“おばあちゃん”としての姿、どちらも紛れもなく“中村タケ”であると感じられる一方…イタコは“目が見えない”からこそ物事をフラットに「見る」ことができる存在として、地域のカウンセラー/メンターとして重要な役割を果たしていたことに初めて気付き、イタコという職業を完全に誤解して「仏降ろし(口寄せ)はリアルかフェイクか」というオカルティックな視点でしか考えていなかったことを深く反省し…これこそ作品のためにテクニックを使った良いお手本で、これが放送賞に選ばれないのはありえない…と思うほど、2025年に観た映像作品の中でも最高の一本でした。もう1本の年間ベスト級作品は、“こころの時代”『宗教は戦争にどう関わってきたのか』の後編。徹底討論vol.12 宗教は戦争にどう関わってきたのか(後編) | こころの時代〜宗教・人生〜【NHK】宗教は戦争に積極的に関わった自らの責任を、戦後、どのように認識してきたのか、また、戦前戦中の国家と宗教の関係についての反省は、本当に現代に活かされているのか、検証を深めていく。参加者は、宗教学者の島薗進氏、牧師で同志社大学学長の小原克博氏、カトリック修道者で南山大学教授の三好千春氏、僧侶で佛教大学名誉教授の廣瀬卓爾氏、本願寺史料研究所研究員の近藤俊…www.web.nhk“戦後80年”企画が目白押しだった2025年。ただ、1945年8月の敗戦に至るまでを、19世紀中葉からの連続性を前提にして考えた作品はほとんどなく…ところがこちらは植民地・占領地政策と密接な関係にあった各教団・宗派の視点から“大日本帝国”を点と線で見ることで、その実像が浮かび上がってくるのが大きな違い。三好千春教授のimplication(連累)=過去の植民地主義と現在の排外主義が結びついている…というのは正に自分が考えていたことで、これを公の場でしゃべってくれたことが非常に嬉しい。そして同志社の小原学長による、日本人の優越思想への批判。前編も合わせて、ファクトを基に議論することがいかに難しいか、そしてそれができる学者がいかに凄いかをこれまでになく痛感させてくれる大作でした。他、放送前にかなりワクワクしていた福岡局“The Life”の『ウンコはめぐる 循環のエコロジー』。「ウンコはめぐる 循環のエコロジー」 | ザ・ライフ【NHK】汚いものの象徴だったウンコが今、多くの養分やエネルギーを蓄えた資源として注目!福岡市の下水処理施設では、輸入への依存が続くリンを年間100トン以上回収して肥料に。いまや人気コンテンツとなったウンコ、沖縄では累計200万人超が訪れるエンタメ施設がオープン。「ウンコは人が作り出す最も価値のあるもの」といい、野糞(ぐそ)を半世紀続ける「糞(ふん)土師」の…www.web.nhk九州沖縄のうんこを巡るオリジナル部分もあったものの、やはりベースは映画『うんこと死体の復権』と同じで、冒頭から糞土師の伊沢正名氏の野糞シーンから始まるのもそっくり(笑)正直、映画にもちゃんとメンションしてよ…とも思うものの、NHK地上波で食事時にこれだけうんこを前面に出した作品を流しただけでも十分かな、と思います😅他、東南アジア野菜を栽培・商品化する福山の農業夫婦を通じて、別角度から共生の可能性を考える“Dearにっぽん”の『“農”で垣根を越える』、“農”で垣根を越える〜広島・福山の国際カップル〜 | Dear にっぽん【NHK】日本では珍しいアジア野菜を栽培する農園が、広島県福山市の郊外にある。経営するのは先家茉子さん(32)とインドネシア出身のカーエル・ファーミさん(36)。ふたりの目指す農業は、様々な“垣根”を越えること。畑には、福祉施設の利用者や日本で暮らす外国人が集う。一方、地域では、高齢化や担い手不足でこれまでの農業が苦境に。“マイノリティ”をつなぐ異色のカップ…www.web.nhk今回は新宿をめぐる様々な人々(新宿タイガー、旧屍派、水族館劇場、ゴールデン街の人々…)が回想も含めて混然一体となって迫ってきた(あと、ゴールデン街を貫くように都電が走っていたとは知り驚いた)『ラストトーキョー2025 変わりゆく新宿の100年』変わりゆく新宿の100年 | ラストトーキョー【NHK】再開発が進む新宿。母親が新宿でマージャン店を営むディレクターが、母が愛した街の歴史をたどる。繁華街・新宿の誕生~現在までの変わりゆく“ラストトーキョー”の記録。www.web.nhkがけっこうおもしろい作品でした。特に後者は2019年の前作より格段に良くなっていて。ETV特集の『『生きる』教育を君たちへ』は確かに興味深い内容で、つくりも悪くなかったものの…『生きる』教育を君たちへ | ETV特集【NHK】子どもたちのために学校ができることは何か。悩み抜いた末に、独自の授業を考案した大阪の田島南小中一貫校。小1で「プライベートゾーン」、小3で「子どもの権利」、小4で「自分を見つめ、悩みを相談する」授業など自分の心と体を守るための学びを重ねていく。背景には貧困や虐待、性被害など子どもを取り巻く環境が厳しさを増していることがある。中3は「親の視点から虐待…www.web.nhk様々な試みで子どもの“健全な”発達や思考力の育成を試みているのはわかるけれど、実社会にあふれる情報の洪水、成長するにつれ変化する子どもの“性欲”への対応などはフォローできていない気がして、あの教育方針・内容をただ肯定的に描くだけでよいのか…という疑問・違和感が強く残り…良くなかったのは、NHKスペシャルの“新ジャポニズム”シリーズの最終回『時代劇 世界を魅了するタイムトラベル』。新ジャポニズム 第7集 時代劇 世界を魅了するタイムトラベル | NHKスペシャル【NHK】今、時代劇が世界中を席けんしている。アメリカではエミー賞を史上最多18部門で受賞した『SHOGUN 将軍』の続編が始動、ヨーロッパでは未知の時代劇が続々と発掘され、老若男女が映画館に列をなす。だが一方、日本では時代劇は風前のともし火に…この30年制作本数は激減、百年以上継承されてきた技も途絶えつつある。復活をかけ、新たな作品を生み出そうともがく京都…www.web.nhkこのシリーズは初回からずっと、ナレーションで“○○が世界を魅了”“海外で人気”とさえ言っていれば視聴者はそのまま信じる…という安易な思考で作られているようにしか思えず、最後までそれを貫き通したのは逆にすごいのかもしれません。そして『山口一郎 “うつ”と生きる 紅白完結編』。山口一郎 “うつ”と生きる【NHK】12年ぶりに紅白に帰ってくるサカナクション NHKスペシャルで2024年に放送したサカナクション・山口一郎のドキュメンタリーに追加取材を加え、99分サイズの続編として放送決定 www.web.nhk2024年に放送された前2作をナレーションで急かすようにまとめ、少しシーンを追加して(ラスト10分ほど)紅白プロモーション作品にしたという作りの雑さ…しかし見れば見るほど、山口一郎がうつと分かっているのにNHKが大きな案件を発注し、それで苦しむ姿をまたNHKが撮ってドキュメンタリー番組に…というマッチポンプ的な構造が気になってしようがなくなる。で、山口一郎が「申し訳ない」「迷惑かけました」と謝罪する姿を見せるのがまた。正直、サカナクションならタイアップやテレビの仕事をしばらく受けずとも困ることはなさそうなのに、今の音楽業界の構造上(もしくは所属先のシステムや契約上)、そうはいかない事情があるのか…「うつだけど、がんばってツアーもやりきって、曲もヒットさせて、紅白にも出る」という展開が世間の“理解”に役立つとはとても思えないのだけど、それを作り手はどう考えているのだろう。(ご意見・ご感想はtwitterからもどうぞ)https://x.com/amaguribouzu