遺言で決められた財産をもらいたくない | 司法書士事務所尼崎リーガルオフィスのブログ

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父親の遺言によって、長男である一郎さんが、遺産の一つである自宅不動産を相続することになりました。


ところが、一郎さんは実家から離れたところに自宅を建てて住んでいるため、自宅ではなく銀行の預金を代わりにほしいと言い出しました。
自宅不動産は長男一郎に相続させる」と書いてある遺言の利益を放棄して、他の財産を取得することはできるのでしょうか



遺言によって相続させると指定された一郎さんは、遺言の利益を放棄することはできません。
つまり、不動産ではなく預金をもらうことはできないのです。


最高裁判所では平成3年の判決において、以下のように示しています。


「特定の遺産を特定の相続人に相続させるという趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈でない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである」


「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言があった場合には、特段の事情がない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される



したがって、相続開始時に一郎さんは不動産の所有権を確定的に取得し、当該不動産は遺産分割の対象となるものではないため、不動産を取得する利益の放棄は認められません。


ただ、どうしてもその不動産を取得したくない場合、一郎さんは相続放棄手続きを行えば自宅不動産を取得することを拒否することができます
しかし、この場合一郎さんは相続人ではなくなってしまうので、銀行預金をもらうこともできなくなります。


例外として、一郎さん以外の相続人全員が合意する場合には、遺言の利益を放棄することができます
他の相続人全員が合意してくれるのならば、一郎さんは自宅不動産以外の財産を取得することも可能です。