「はぁ〜。」


『…?』


「はぁ〜〜……」


『"どうかした?"

 って、聞いた方が良い?』


「えっ? 今、聞いてくれた?」


『聞いたけど、別に、聞きたくはない。』


「もー、しょうがないなぁ。

 じゃあ、話すしかないか。」


『…えー






「iPhoneをさ、新しいのに替えたくて。」


『へぇー。じゃあ、替えたら?』


「今のやつ、だいぶ昔のやつでさ、

 もう、3年くらい使いよって。」


『うん。替えたら?』


「バッテリーも、もう、すぐ減るし。

 ゲームしても、何か、すぐ落ちるし。」


『だから、替えたら?』


「ただ、ねぇ…」


『何? 何かあんの?』


「あ、聞きたい?」


『いや、別に。』


「もー、しょうがないなぁ。」


『…えー





「近々、新しいiPhoneが、

 発表されるみたいでさぁ。」


『へぇーー、そうなん。

 知らんかった。』


「もー、それくらい、知っとかな。

 時代に取り残されても、知らんよ。」


『…ムカムカ


「でさ、その新しいやつ、待ってから、

 買い替えたが良いんかなぁ、

 とか、思って。」


『へぇー。じゃあ、待ったら?』


「いや、でもさぁ…」


『ふ〜ん。

 まぁ、どっちでも良いけど。』


「……」


『……』


「もー、分かった分かった。

 そんな、聞きたそうな顔してるなら、

 話すけど。」


『してねぇ!ムキー






「いやぁ、もういっそ、この際ね。

 iPhoneじゃない、スマホに替える手も、

 あるかなぁ、って。」


『うん。

 じゃあ、そうしたら?』


「いやいやいや、そんな簡単に言うけど。

 今まで、iPhoneしか使った事ないんよ?」


『うん。』


「別の使って、

 "やっぱiPhoneが良かったぁえーん

 ってもしなったら、嫌やん。」


『うん。

 じゃあ、iPhoneのままにしたら?』


「はぁ〜…分かってないなぁ。

 人間、新しい事にチャレンジしてかな、

 成長せんよ?」


『…えー


「頭を柔らかくして、

 古い事を、踏襲するだけじゃなくて。」


『………えー


「だから、結局さぁ、どっちに」


『もう知らんっ。


「えっ?」


『もう、好きに替えなってムカムカ


「えっ、ちょっと、

 まだ、話終わってないっておいで


『もう聞かん!』


「え、ちょ、待ってって!」


『もう聞かんムキー



雨蛙


 

 

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「仕事は、何やってるの?」


「僕は〜…コレです。」


そう言うと、彼は、

左腕を、こちらに向ける。


「…?」


「これ。

 腕時計、可愛くないですか?」


「えっ?

 …あぁ、あ〜…似合ってる、ね。」


「…いいですよ、

 そんな、無理矢理言わなくても。」


「ははは(笑)

 本当に思ってるよ。」


彼の左腕には、

細身の、メタルベルトの腕時計。


女性物のようにも見えるが、

華奢な、彼の腕には、

ピッタリとフィットしている。


ただ、

歯切れの悪い、俺の言い方に、

彼は、半分据わったような目で、

こちらを見ている。






「仕事、って…腕時計?」


「そうですそうです。

 と言っても、修理する側、ですけど。」


「へぇー! 修理かぁ、凄いなぁ。

 じゃあ、分解したりするんだ?」


「しますよぉ。

 もう、可愛いんですよ、時計って。」


「可愛い、かぁ。

 分解したりとかって、面白そうだね。」


「はい、楽しいです♪」


無垢に笑いながら、彼は言う。


自分の仕事を、

こんなにも、嬉しそうに話せるのは、

羨ましく思うし、素敵な事だと思う。


それに、

機械の分解を、面白いと感じる、

自分自身の、こういう部分には、

男くささを感じ、何だか安心する。






「まだ、僕は見習い中ですけど…あっ!

 お兄さんの腕時計、見して下さいよぉ。」


そう言って、

彼は手を伸ばし、俺の左手を取る。


ドキリと、心臓が脈打つ。






「へぇー、お兄さん、

 時計、してないんですね。」


「えぇっと…ごめんね。

 時計は、してないんだ。」


何故か、反射的に謝ってしまう。






「そうなんですねぇ。

 でも…お兄さん、腕時計したら…結構…」


何やら、呟きながらも、

彼はまだ、手を離さない。


どころか、

手のひら、手の甲、と、

入念に観察し。


同時に、

大きさを、測るように、

親指と人差し指を、手首に巻く。


明らかに、彼の目が、

仕事の目に、変わっている。


「マスター、おかわり。」


真剣な表情の、彼の邪魔をしないよう、

左手は預けたまま、

マスターに、おかわりを頼む。


相変わらず、鼓動は、

いつもより速く、動き続けているが、

面白い子だなぁ、とも、

どこか冷静に思う。






「はぁ〜〜…お兄さん、

 絶対、時計似合いますよ。

 良いなぁ〜。」


「えっ?

 …ん〜、そう、かなぁ?」


解放された左手を、

自分でも、見てみる。


自分が、お洒落、という言葉と、

縁遠い事は、分かっているが。


それでも、

腕時計に、似合うも、似合わないも、

そんなに、大差ないんじゃないのか、

と、思ってしまう。


「お兄さん、案外、腕とか手首とか、

 男っぽくて、ガッシリ太いから、

 腕時計、何でも似合いますよ。」


「そう…いうもんなの?」


「そういうものです!

 僕は、腕も手首も細いから、

 似合わないんですよねぇ。」


「ふ〜ん。

 でも、その腕時計、

 可愛いし、似合ってると思うけどなぁ。」


「えっ?

 …あ、ありがとうございます。」


小声で呟くと、

彼は、グラスをグイと空ける。






「でも、仕事でも、腕時計無いと、

 不便じゃないですか?」


「あ〜…そう、だよねぇ。」


最近、上司から、

同じような事を、言われたのを思い出す。


客前で、付けてないのは良くない、とか。

社会人として、とか。


ただ、なぁ。


「腕に、何かが付いてる、って、

 あんまり…なんて言うか、

 好きじゃなくて、さ。」


「似合うのに、勿体ないなぁ。」


「どうせ腕時計するんなら、

 一生、付けとけるような、

 何か、そういうのが良いんだよねぇ。」


「へぇ〜〜。

 …ふふふっ(笑)」


「えっ?」


「あ、ごめんなさい。

 お兄さん、面白くて。」


さっきまでの、

真剣な顔つきとは、違い、

彼は、あどけなく笑って言う。






「ん〜、変…?

 やっぱり腕時計、した方が良かなぁ。」


「いえいえ、変じゃないですよ。

 むしろ、今の聞いたら、お兄さんは、

 腕時計なんて、しなくて良いです。」


「えっ?

 さっきと、言ってる事、違くない?」


「…いや、違くないです。」


「そう?

 ん〜…やっぱり、

 テキトーに、何か買おうかなぁ。」


「そんな、テキトーはダメですよ!」


「えっ?

 でも、さっき、何でも似合いそう、

 って言ってくれたでしょ?」


「…言ってないです。」


「いや、言ってくれた。」


「…言ってないです。」


「言っ」


「てないです!」


「……(ジー)」


「……(ジー)」


遮るように、こちらを向いて言う彼と、

しばらく、睨めっこ。








「…ふっ、ははは。」


「ふふふっ。」


最初の、

ぎこちなかった空気は、どこへやら。


今は、もう、

肩が触れそうな、そんな距離感で。


2人、一緒に笑い合っていた。



雨蛙


 

 

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"金曜日"とは、


なんとも…


なんとも、まぁ、嬉しい響きだろう。






お盆休み明けの、今週。


なんとも、スイッチの入りきらない、


接触不良の充電口、のような1週間だった。






明日は、休み。


つまり…いつまででも、寝ていられる。


"好きな時間まで、寝てて良い"とは。


なんとも、幸せな、響きだろう。






朝の弱い、自分としては、


とても、甘美な、心地良い響きだ。





そして、


ここで、忘れてはならない事がある。


幸せなのは、良いことだが。


まずは、やらねばならぬだろう。






いつもの時間に、セットされた、


目覚まし時計を、ちゃんと、 OFF にする。


休みの日に、


目覚ましに起こされる、なんて…


そんな、野暮な事は、しちゃあいけない。


テーブルマナーが、あるように、


休日マナーも、あるというものだ。






加えて、もう1つ。


社用携帯の電源も、忘れず 、OFF にする。


まぁ、休みは、休みらしく、


仕事のことなど、考えない方が良いだろう。






そもそも、


休みの誰かが対応しないと、回らない、


なんて仕事、ある方がおかしいだろう。





((うん…完璧だ))


目覚ましも、止めたし。


社用携帯も、切ったし。


明日は、目一杯、ダラダラしよう






そして、


今日は、その、前夜祭。


仕方ないなぁ…


前夜祭は、前夜祭らしく、


夜更かししてから、寝るとしようかキラキラ



雨蛙


 

 

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((はぁ〜…何やってんだか…))


宙を眺め、

焼酎を、グイと、一気に飲む。


また、彼と会えて、

一緒に、飲む事にはなったが。


((普通に考えて、彼に迷惑だろ…))


そんな事が、過ぎる。






「大丈夫、ですか?」


「えっ? …あ、あぁ、すみません。

 少し、ボーッとしてました。」


「ふふっ(笑)」


「あれ、何か変な事言いました?」


「あ、いえいえ、ごめんなさい。

 この前と、随分、雰囲気が違ったので。」


「あっ…ははは。」


彼の言葉に、ドキリとする。


顔に血が巡っていくのを、感じるが、

それを誤魔化すように、

グラスを空け、マスターに声を掛ける。


「同じの、おかわり下さい。」


彼は、その様子を、ジッと見ている。






「お酒、強いんですね。」


「ん〜、人並みくらい…ですかねぇ。」


「あっ、タメ口で良いですよ。

 僕の方が、歳下ですし。」


「そう…か。

 そうだね。 うん、ありがとう。

 この店には、よく来るの?」


「いえ…あ、でも。

 最近は、ちょくちょく来てますね。

 お兄さんは?」


「ん〜…俺も、割と来る、かなぁ。」


本当は、彼と初めて会って以来、

2度目来店、だけれど。


何だか、よく分からない見栄(?)を、

張ってしまった。






「そう、なんですね?」


彼は、少し訝しげに、首を傾げる。


「あ、俺にも、

 全然、タメ口で良いからね。

 歳とか関係なく。」


話題を逸らすように、俺は言う。


「ありがとうございます。

 タメ口…頑張ります。」


「ははは(笑)

 無理しなくても、良いよ。

 どっちでも、俺は気にしないから。」


笑って言うと、

彼も、グラスを一気に空けて、

マスターに、おかわりを頼む。


ぎこちない2人、だけれど、

少しずつ、お互いの事を話していった。





「お兄さんって、お仕事、

 何されてるんですか?」


「仕事は、システム会社で働いてるよ。

 もう、毎日、嫌んなるくらい、

 パソコンと睨めっこ。」


「あははっ(笑) 何か、想像できます。

 でも、凄いなぁ。

 僕、機械とかパソコンとか、

 全然、分かんないから。」


「えっ? へー、そうなんだ。

 意外だなぁ。

 今の若い子達って、そういうの、

 強そうなイメージ、だけど。」


「あっ…それ、偏見ですよ。」


穏やかな口調で言うが、

彼は、音を立ててグラスを置き、

こちらを向いて、目を細める。


その機敏な動きに、少しドキリとする。

 

「それに、"今の若い子達"って、

 一括りは、やめて下さい。」


相変わらず、こちらを見ながら、

語気を強めて、彼は言う。






「あぁ、いや、ごめんごめん…」


俺も、彼の目を、

ジッと見返しながら、謝る。


少し、たじろいでしまったが、

柔和な雰囲気の彼が、

ムキになっているのは、何だか、

可愛らしくも見える。


「そんなつもり……ふっ、ははは(笑)」


「…何、ですか?」


笑ってはいけない、と思いつつも、

酔いが回っているのか、笑ってしまった。


彼は、バツが悪そうに、

目を逸らし、唇を尖らせる。






「ごめんごめん。

 一括りにするつもりは、なかったけど、

 言い方が、悪かったね。」


「いえ…ごめんなさい。

 僕も、つい強く言っちゃって…」


「良いよ良いよ。

 …ふっ、ははは(笑)」


「あ、ちょっと!

 まだ、笑ってるじゃないですかっ。」


「ごめんごめん。

 ムキになったり、謝ったり、

 何か、面白くて。」


「面白くないです!」


「ははは(笑)」


「もー!」






多分…きっと、

酔っているせい、だろう。


膨れる彼が、

可愛らしく、見えるのは。


気付けば、

彼の事を、もっと知りたい、

と、思い始めているのは。



雨蛙


 

 

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((あぁっ! ミスッたぁ……))


お盆休みを、終えて。


サザエさん症候群に、浸りながらも。


なんとか自宅に戻った、僕に。


さらに、追い討ちをかけるような、

そんな光景が、眼前に広がる。






シンク下の収納の、扉を開いた僕は、

膝から、崩れ落ちる。


((…次、タイミングいつだ?

 年末年始、とか、か?))


いや、まぁ…

困るわけじゃあ、ないんだけどさぁ。






普段は、

たまにしか、自炊はしないし。


冷蔵庫も、割とガラガラだし。


シンク周りの、収納スペースも、

全然、使ってないから。


((気にしなきゃ、別に、

 良いっちゃ、良いんだけど…))






それでも、やっぱり…さぁ。


シンク上下の、収納スペースが。


タッパーで、埋め尽くされてるのは、

いかがなもの、だろうか。





僕の母も、ばあちゃんも。


やたらめったら、


有難いことに、仕送りで、

食べ物を送ってくれる事が、多い。


酢物、だったり。

煮物、だったり。

炊き込みご飯、だったり。


あとは、よく分からんけど。


煮た魚を、

出汁みたいな? タレみたいな? やつに、

浸した感じのやつ、だったり。

(↑割と美味しい)


それらを、大きめのタッパーに詰めて、

全部、何やかんや包装して、

段ボールで、送ってくれる。






((確かに、まぁ、

 助かるっちゃ、助かるけど。))


自分では、作らないもの、ばかりだし。


わざわざ、送ってくれてるんだし。


普通に、美味いし。


ただ、なぁ…






うん、

年末年始に、帰る時は。


スーツケースに、

タッパーを、目一杯、詰め込んで。


そんで、

収納スペースを、スッキリさせよう。






……


…………


去年のお盆にも。


同じような事を、思った、

気がするけど。






今年の年末年始、こそはグー


タッパーを、

全部、持って帰ってやろう。


この部屋を、タッパーに、

侵略させるわけには、いかない。


強い決意を、胸に秘め、

収納スペースの扉を、そっと閉じる。



雨蛙


 

 

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