(過去記事1)の続き.
まず,先に言っておきたいが,社会科学の論文は検証するのが難しい.再現性の点で科学にはなりきれていない.だから,社会科学の論文をもって,一般記事で一般大衆を先導するような記事には警戒心を持った方が良い.
社会科学はそれ自身限界がありつつも社会的意義はあって存在しているわけだから,社会科学者ら自身を私は非難しているわけではないです.
近藤絢子氏の論文
これを見ていきたい.
肩書とかそういったことにはとらわれずフラットに見ていこう.
まず,動画の塾長の言う
東京大学の近藤絢子教授が東京都と神奈川県の公立中高私立中高のデータを分析して導き出した結論です.
というのは間違いです.公立中高と私立中高を比較してはいません.分析しているのは私立中高,しかも女子校だけ(71校)です.
近藤氏が研究したのは,簡単に言うとこうです.
入試日は学校によって例年固定されているが
1997・1998年だけサンデーショックで一部の学校の入試日が変更された.
これにより(併願パターンが変化し)例年と中学入試時の偏差値が変わった.
この影響が6年後の大学進学実績に影響したか?
ということです.サンデーショックとは,入試日が日曜日の年は,
ミッション系スクールが入試日を移動することです.
入試は例年2月1日・2日が多いが,1997年は2月2日が日曜,1998年は2月1日が日曜だった.
(例えば1998年2月1日日曜に入試を行った学校は(ミッション系がいなくなって)競合校が減り,難易度が上がった.例年2月2日に入試を行っている学校は,2月2日月曜に移動してきたミッション系スクールに学生を奪われ入試難易度が下がった).
男子校は上位校にミッション系は無いのでサンデーショックの影響を受けない.よって女子校だけ研究したわけです.
サンデーショックのために中学入試偏差値が上昇(下降)した学校は6年後の大学進学実績が上がった(下がった)だろうか?
単純に中学入試時の学力の差がそのまま残るのならYESなはずだ.
その問いに,この論文(第一節p61)では,
入試偏差値の一時的な変動はその学年の進学実績と連動しないということがいえる
としています.つまり,NOだということです.
これがこの論文のメインの分析結果です.
第一節の最後には,
似たテーマを扱った研究として3つ先行研究をあげているが,
国・時代によってまちまちであって,明確な結論にいたっていないようだ.
そこで本研究では新たにこのテーマに挑むにあたって,
私立女子中学校のサンデーショック
に目を付けた.これがこの論文の新しいところで,従来にはなかった研究です.
ちょっとこの論文で誤解させるのは,最初のアブストラクトで,
中学入学時の偏差値は大学合格実績に有意な説明力を持たないことが分かった。
この結果から、間接的にではあるが、中学入学後の学校によるインプットの貢献が相対的に大きいことが示唆される。
(強調は当ブログ筆者)
と書いてしまっているところだ.最後から2文目は良いとしても,アンダーライン付きの最後の文は行き過ぎの感がある.このアブストラクトだけ見て本文を見ないと,早合点しやすい.実際には本文ではこの解釈について複数の可能性について言及して確度は弱いことは述べている.留保をつけているのだ。
まあ,近藤氏の論文を詳しく見ていこう.
第2節で推定モデル,第3節でデータの説明,第4節で推定結果,第5節で考察と今後の課題で終わる構成の論文となっている.
続き
(過去記事1)