この本の第二章から私の心に響いた点を私のフィルターを通して書く.
(第1章は本の目的など。とばす)
(1)精神科診断
ある精神疾患を別の精神疾患と区別し,適切なカテゴリーに当てはめることを助けるような手続き(診断)は,効果的な治療法を見つけるために,活用されている.
精神科診断は,2つの非常に重要な出版物によってサポートされている.
(A)DSM(最新版はDSM-5).精神疾患の診断・統計マニュアルアメリカ精神医学会2013.
約400種類の精神疾患の内から一つ以上の診断を適用するための基準.
作成者は,米国で最も権威あるメンタルヘルス専門家で,ほとんどが精神科医.
(B)ICD(最新版はICD-11).国際疾病分類2019
作成者はWHO.精神科は一つの節にすぎなく,全ての医学的状態が扱われている.
ICDは診断マニュアルではなく,健康情報を記載する世界標準の形式を提供することを目的とする.死因・病気の統計作成に使われる.
しかしながら,精神科だけが診断基準を含む唯一の節となっている.(精神科診断の混乱と専門的地位の喪失の危機への対処として)
ICDの診断基準は委員会で3時間議論し,最後に投票で決定した.
DSMとICDの精神科の節は,同じ原則に基づき,診断基準は同一ではない者の類似している.DSMが世界的には主流.
(2)DSM・ICD批判
精神科診断は広く利用されながら批判も浴びてきた.:
・診断がエビデンスに基づいていない.
・苦悩の原因を理解する助けにならない.
・否定的で汚名を着せるようなアイデンティティを与える.
精神科診断を支持する人の中にもDSM-5を批判する人はいる.:
・スティーブン・ハイマン博士(国立メンタルヘルス研究所元所長)曰く,完全に間違った,純然たる科学的悪夢
(3)医学的診断とは
通常の医学的診断は,医師が,
・患者の訴え(症状)やその他の異常のパターン
を
・(他の研究者が既に特定した)身体的問題のパターン
と一致させるプロセスである.
腹水があり・足がむくんだ(症状)と,肝硬変(身体的問題)を結びつけたり,
疲れやすく・喉が渇く(症状)と糖尿病(身体的問題)を結び付けたりなどである.
症状と徴候:
症状には,患者の主観的訴え(例:疲れやすい)も含まれ,人によって同じことを意味しているか判断ができない.よって,(血液中の化学物質の濃度など)客観的に観察・測定できるもの(徴候)との間に関連性を見だそうとする.
(例:疲れやすく・喉が渇くという症状をもとに,血液検査を行い,客観的エビデンスに基づいて,糖尿病と医学的診断し,治療を開始する.)
(4)精神科診断は医学的診断ではない
しかし,DSM・ICDなど診断マニュアルは,症状のクラスターを掲載するにとどまっている.精神科診断においては,症状が主観的であり,カテゴライズも投票という主観的方法で行われた.診断は,臨床医の個人差が激しい.
ダウン症はかつて,歩行や会話の遅れ・顔つきなどによって診断されていた.いまは染色体の異常よって診断されている.
精神科医師は,精神科でもバイオマーカー(客観的に測定できる徴候)の研究開発を1970年代から待ち続けてきた.この本の著者らは,そんなものは存在しなく,未来永劫見つからないと主張する.
19世紀と20世紀初頭には,精神病として
・同性愛
・ドラペトマニア(逃亡奴隷精神病)(奴隷が所有者から逃亡したくなる精神の病)
・ニンフォマニア(女子色情症)
があった.もちろん,これらは現在のDSMにもICDにも無い.
(5)精神科研究は臨床に役立っていない
トーマス・インセル博士(NIMH元所長):13年間NIMHで精神疾患の神経科学と遺伝学を本格的に推進し,200億ドルかけて,良い研究者の良い論文をたくさん発表することには成功したが,自殺者や入院を減らし,回復を向上させるという点では,目立った変化をもたらすことができなかった.(Henriques2017)
(6)精神科診断の危険性
人が,人生経験の中で苦悩に陥ったとき,精神科診断を下すことで,
それは病気です
と単純化されてしまい,
その苦悩の原因となる人生のストーリー
から
切り離されてしまう.
どの程度不幸なことを経験したとき,どれだけの苦悩を感じるか又は感じないことが正常と判断できるのだろうか.
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