ニートの自伝・6 | シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

リレー小説したり、らりぴーの自己満足だったり、シラケムードの生活に喝を入れるか泥沼に陥るかは、あなた次第。

ふわっと、石鹸の香りが階下から漂ってきた。そんな気がした。
昔、近所にいたおばあさんの家のトイレを借りた時、嗅いだ香りに似ていた。
少し古臭く、うっとうしいけど懐かしいあたたかさ。


そんな香りを身にまとって、金八先生さながらの熱血指導で有名な
良子先生は、母親と対峙していた。

「笑助君と、話をさせてください。」
「それが・・、今、あの子は、誰とも話したくないようで・・。」


俺は、ドアに耳を押し当て、2人の声を聞いていた。
母親は、多感な俺に気を使っているのか、先生を拒んでいる。
おっとりとして地味で素朴な母親にとって、
キビキビと生徒を指導し、しっかり化粧して香水をふりかけたような
同年代の女性は苦手だったのかもしれない。


しばらくして、根負けして諦めた良子先生が、帰る気配を見せた。
ホッとしてドアから耳をはずした瞬間、けたたましく大きな声が
俺の体の芯を震わせた。


「笑助くーん、先生、また来るから!!
今度は笑助君の大好きな、ダパンプのCD、持ってくるわね!!」



・・・聞かれていた。・・・聞かれていたんだ。
気づいたら、ベッドの毛布にくるまって、自慰行為に及んでいた。
俺が夜な夜な、街全体が寝静まった頃に大音量で歌を歌っていることを
良子先生は知っていた。
両親は、俺が当時流行の曲を聴いているなんて思ってもいないだろうし、
歌っていることだって、絶対に知らないはずだ。
まさか、ドアは閉めていたけど、窓は開けていたのかもしれない。
夜中に俺の様子を見に来ていたって言うのか。



良子先生!!良子先生!!!良子先生!!!!



入学後、1週間しか顔を合わせていない良子先生のおぼろげな
熟れたボディラインを無理矢理にフラッシュバックさせながら、
羞恥心と怒りの織り交ざった複雑な感情を
ダパンプの軽快なリズムに乗せ、激しく揺さぶった。


そういえば、俺が学校に行かなくなってから家に訪問してくれたのは
良子先生が初めてだった。
まー君からは最初のうち、何回か電話があったが、
ずっと居留守を使っているうちに音沙汰がなくなった。


「俺じゃなくたって、友達、いるんだろ。」


そう言ってやろうかと、電話を取りかけたが、できなかった。
まー君は、大人なんだ。俺よりずっと。
負け犬の遠吠えを聞かせられる程、まだ心の傷は癒えていない。


俺も、早く大人になりたい。
そんな焦燥と良子先生への想いが、俺を新たな道へいざなった。



それが、アリの世界だった。