1)中国とロシア

さて、国際情勢が流動化する中で、日本はどのように動くべきなのか、動くべきではないのか?一つ明らかなことがある。米中ロといった国際秩序に大きな影響を与える国の中で、中国やロシアは、日本と同盟関係を結ぶ国にはなり得ないことだ。これら2国は、日本の生き方と全く異なる権威主義、絶対主義を根底にしている上に、そもそも日本と同盟関係を結ぶことを期待していない。一方、中国とロシアは日本の平和と安定に大きな影響を及ぼす隣国である。また、中国との間では、日本は長年にわたって密接な経済・貿易関係を築き上げ、その相互依存は今後ともに増大していくと予想される。したがって日本としては、日頃からこれら2国との間に友好的な関係を維持していくとともに、将来両国が日本にとって現実の「敵対国」に転じていかないよう、2国間、多数国間の様々なチャネルを通じて、軍事的、政治的、経済的、社会的な交流を維持することが重要である。また、防衛努力と日米同盟の二本柱によって、日本は有効な抑止力を保持し続けることが必要不可欠である。

 

2) アメリカ

国際情勢に最も大きな影響を与えるアメリカは、日本にとって最も重要な同盟国であるが、トランプ政権の下で国際的な安定を攪乱する要因になっていることが、頭痛の種である。第2次世界大戦後、日本はアメリカとの「特別な関係」を結んだ。日米安全保障条約を締結し、軽武装・経済発展による国家再建の路を選んだ。東西冷戦が激化する中で、国際紛争の危険に直接的にさらされなかった日本は、やがてGNP世界第2位の経済大国へと発展していった。そのころからアメリカは、声高に日本が自ら防衛努力に励むとともに、対米輸出の抑制と対米直接投資の増大を求めるようになった。東西冷戦が終了した後もアメリカはますます対日要求を深めていった。歴代内閣は、日本にとって死活的に重要な日米同盟を維持していくため、様々なアメリカからの要求に着実に応えていった。その結果、今では日本政府は、GDPの2%相当の予算割り当てを目標として防衛費を拡充し、また、民間企業とともに規模拡大の中で対米貿易・投資関係の調整を進めるなど、実績を示してきた。

 

ところが、アメリカの衰退傾向が顕著になり、トランプ大統領が自由民主主義、多国間貿易、法と秩序の尊重といったグローバルな価値観を覆すような対外政策を取るに至って、日本の立場は微妙になってきた。幸いトランプ政権第1期は安倍晋三総理大臣がトランプ大統領ときわめて親密な個人的関係を結んだこと、また、トランプ2.0においては、高市早苗総理大臣がトランプ大統領と良い関係を結び始めたことから、これまでは日米関係は「無難に」運営されてきていると言えよう。しかし、日米中の相互関係の歴史を振り返るならば、米中関係が良いときには、中国は歴史認識、尖閣諸島などの問題を巡って、対日強硬策を取る傾向にあり、また、米中関係が緊張している際には、対日友好の施策を講じてくることが多い。この5月中旬に行われる予定のトランプ大統領の中国訪問の結果を見る必要があるが、米中ともに相互関係の安定維持を重視しており、中長期的な緊張・対立関係が予想されているとしても、短期的には相互抑制政策を取り続ける可能性が高い。日本は米中のはざまで難しい立場にある。

 

(閑話休題)日米関係が小康状態を保っている間を狙ったという訳ではないであろうが、元来愛国主義的、保守主義的信条を強く持っている高市総理大臣は、安保防衛装備移転三原則を改定し、続いて安保関連三文書の改定に向けて有識者会合を開催するなど、自民・日本維新の会連立の発足に際して2党で交わした重要事項の実現に向けて着々と取り組んできている。本来これらの措置は、日本国憲法の改正とともに実施していくべきものと筆者は考えるが、憲法改正のハードルが高いため、歴代総理大臣と同様に「憲法解釈論」によって法律以下のレベルで改正を進めているのはやむを得ないことである。

 

一方、第2次世界大戦が終了して80年以上が経過しているにも関わらず、国内外情勢の変化に応じた憲法改正ができないとは、恥ずかしいことである。これは、日本の有権者が政治家を信頼していない結果であると言って過言ではあるまい。高市内閣は歴代内閣が取り残してきた重要課題を動かすとともに、目の前の経済対策などの懸案を処理していく難しい立場に立たされている。

 

3) 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」

 

戦後の日本の発展の歴史に鑑みれば、どのように国際情勢が流動化しようとも、日本は、自由民主主義、法と秩序の尊重、人権擁護といった価値観を堅持することが重要であることが分かる。日本にとって日米同盟の維持・発展は非常に重要であるが、同時に欧州、アジア、南北アメリカなど地域において、「法の支配」による国際秩序の維持という価値観を有する国々に対して連携を深めていくことが重要である。

 

2016年に安倍晋三内閣が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、その後も歴代内閣が踏襲し、徐々に肉付けがされてきている。今般の越・豪訪問において、高市総理大臣は、何らかの具体的な措置の発表を検討しているようだ。イラン戦争によるホルムズ海峡閉鎖問題によって、インド太平洋地域の航行の自由確保は、日本はじめ多くの国々の安定と発展にとって非常に重要であることが再確認された。中国政府は、FOIPが中国封じ込めを企図する構想であるかのような対外発言をしているが、そのような「被害者意識」は横に置いて、2020年に署名したRCEP自由貿易協定の際と同様に、アジア太平洋諸国と連携して、FOIPに積極的に協力していくべきではないだろうか?(続く)(20260501)