ふた月前の妊婦健診で、お腹の子はほぼ女の子で確定。と言われていたので、さっそく名付け作業を始めていました。
手はじめに、女の子をもし授かった時には、と温めていた名前をいくつか主人へ伝えてみたものの、どうもピンとこないようで。
逆に彼からも『○○とか△△とか』と提案をされたものの、今度は私がピンとこず。

そんなやり取りが1ヶ月以上続いて、ある時、ふと出先で思い付いて『汐寧と書いてシオネちゃんってどう?』と、彼へラインで伝えてみたところ『うん、その漢字でその読み方なら、良いよ』と返事をもらえて、ようやく兆しが見えかけました。
早くお腹に向かって呼び掛けてあげたかったので、ほっとしました。

ところが、帰宅したら彼から『“苗字+汐寧”で姓名判断したら凶まみれなんだけど!こんだけ凶が揃ってたら さすがに気にするよ!』と、猛反対を受けることに。
次の日は彼が休みだったので『シオネ読みで他に画数の良い漢字がないか、アリサが仕事へ行ってる間に調べておくから〜。(パソコンを開いて)汐寧····汐音····汐祢····栞音····』と、快く送り出してくれたんですね。

で、1日を掛けて調べ倒してくれたそうですが、私が仕事から帰ってすぐさまに『もうさ、寧音でシオネで良くない?日本には当て字って文化があるから、必ずこう読まなきゃならない、みたいな決まりは無いみたいだしさ!』なんて言い出して、今朝までそんな感性、微塵もなかったはずの彼の変貌ぶりに、ギョッとしました。(適切な漢字がなくて、どうも追い詰められていたのかと)

『いや、それだと大方ネネちゃんと読まれるよ、むしろそう読んだ方が自然じゃん。“何でこれでシオネなの?”って質問が付きまとう人生になっちゃうよ』
『えぇ〜今日1日を費やして、僕なりに懸命に考えたのに〜〜(プリプリ)』
いやいや、どんな天秤にかけたとしても【あなたの1日の労力<<<<<<子どもの一生】だろ!
『私は言葉の響きだけでなく、漢字のやわらかさも含んで汐寧がよかったのもあるんだ、ふさわしい漢字がないのなら諦めよう』
そうしていったん収束しかけた名付け問題も、また振り出しに戻りました。

『姓名判断を発見したのはどこの誰なんだ?それを生業にしてる人がわが家へ来て“ぜ〜んぶ思い込み!嘘だぴょ〜ん”とか言ってくれないかな····』なんて、本気で考えたりもしました。でも迷信を信じる父親を持つことも、きっと娘の運命なのだろうから、仕方がない。

そうして再び、たがいに名前を提案し合う日々に戻ったものの、一向に進展せず。
『もうラチが明かないよ、神社で候補をあげてもらったりする?あとは義両親の意見も聞くとか』と、第三者の手助けを提案したものの『いや名前は夫婦で決めよう!うちの両親も“2人で決めなさい”って言うと思う』だと。
相手の感性を否定したいわけじゃないけど、妥協するのも絶対に違うし、少しずつ、おたがいにストレスも溜まっていたかと思われます。
職場の先輩からは『そんなん“女の方が命かけて産むんやから名付けの権限くらいよこせ”って言ってやり!』との助言も受けたものの、そんな押し切りの態度にも出れない私。

ある夜に、また意見が揃わなくって『幼なじみ2人は、旦那は名前について口を挟まなかったって言ってたなぁ····いいなぁ、わが家も旦那がそういうタイプだったらなぁ!』と、私のフラストレーションが、ピークに達したと思われる瞬間があったんですね。
その後にふっと『あ、もういいや』と、私の我みたいなものが削ぎ落ちた気がしたんです。

それからある名前が思い出されて、翌朝、彼へ『○○って響きならどうかな?予定日の2月にも関連するし』と提案したら『うん、良いんじゃない····!』と、なんだか好感触。
『漢字については任せるよ、なんなら平仮名でもいいし』と、彼へ委ねる部分も残そうと自然に思えていた辺り、私に充満していたこだわりが、程よく解き放たれたのかもしれません。

そうして彼が漢字を充てがってくれて、名前は決定。よほどのことがない限り、変更はないと思われます。
『シンプルでいい』と主張していた彼が選んだ字面は、私ならきっと選ばないものでした。
自分の感性だけから浮かび上がらせた名前であれば、満足度は高いかもしれないけど、その外にある素敵なものの良さを、知ることなく終わってしまっていたかもしれません。彼が配置させた漢字を見つめて、彼の中にある感性を、自分へも取り込めたならと思えました。

汐寧ちゃんの名は惜しまれたけど、きっと縁のない名前を家系へ持ち込めはしないのだろうし、地上で生きてきた人間には記憶があるから、制限やしがらみがあるのは当然で、真っさらな状態から決められるものなんて 実は何1つだってないんじゃないか、とも実感しました。
【自分の思い通りに運ぶことが 最良の道とは限らない】
これまでに何度も感じてきたことを、また再確認したわけですが、この落し所こそが産後に訪れる、選択の連続の日々の励みになってくれるかもしれないな、なんて今は思えたりもしています。

Arisa