2023年は映画で助演男優賞を数多く受賞し、冬ドラマ『不適切にもほどがある!』では「ムッチ先輩」に

ふんして多くの人を引きつけた磯村勇斗。

23年4月から24年4月の期間には、

10本もの作品に出演した。24年は主演ドラマや映画も公開になる、30代の旬な男優の筆頭株。

デビューから10周年を迎えた現在地とは。






デビュー翌年の15年に『仮面ライダーゴースト』にレギュラー出演し、17年にNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』でヒロインの相手役に起用されて、広く知られる存在となった磯村勇斗。『今日から俺は!!』(18年)での非道なヤンキーや、『きのう何食べた?』(19年)での小悪魔キャラなど、幅広い役柄を演じられる“実力派”として躍進してきた。

 24年1月期の話題作『不適切にもほどがある!』では、主人公(阿部サダヲ)の娘に思いを寄せる昭和の秋津睦実(ムッチ先輩)と令和の秋津真彦を演じ、作品人気をけん引。抜群のコメディセンスを見せたことも記憶に新しい。

 ドラマ出演の一方、23年は『月』『正欲』『渇水』『最後まで行く』『波紋』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』『同 -決戦-』と、7本もの出演映画が公開に。そして、これらの作品で、キネマ旬報ベスト・テンやヨコハマ映画祭などの助演男優賞を席巻。今、磯村の俳優としての底力に改めて関心が集まっている。特に評価されたのが『月』だ。障害者施設で大量殺人をする介護士「さとくん」を演じ、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を獲得した。


 『月』は、特に思い入れのある作品になりました。辺見庸さんの小説を映像化した作品ですが、実際の事件をほうふつさせるので、誰かの怒りを買って、場合によっては危害を加えられてもおかしくない。ものすごく挑戦的な題材ですし、覚悟が必要でした。役作りでは、実際に介護施設でお手伝いをさせてもらいながら、障害を持った方々と触れ合って、さとくんがどうして人を殺めるという考えになったのかというバックボーンを、必死で探りました。

 『月』で芽生えた、社会に対する不満や生きづらさの感情を引き継ぎながら、5日後にクランクインしたのが『正欲』でした。演じたのは、特殊な性的指向を持つ佳道役。テーマは違えど、『月』のように社会的テーマに斬り込む作品で、難しくもやりがいがありましたね。僕自身、様々な社会問題に関心があるので、今後もこういった映画には挑戦したいです。

 マンガ原作の娯楽作で活躍したのが『東京リベンジャーズ2』。北村匠海、吉沢亮ら若手が結集し、2作で興行収入50億円を超えた。

 同世代があれだけ集まって、エンタテインメント映画を盛り上げられる機会はなかなかない。「僕らの世代の映画」に出演できて、良かったなと思っています。北村匠海の親友役ができたこともうれしくて。僕は彼の芝居が好きだし、考え方も、クリエーティブなところも好き。自分より年下ですけど、人生を1周してきたんじゃないかというくらい悟ってる感じも魅力なんですよね(笑)。匠海は「一緒に進んでいこう」というタイプの主演だから、みんな楽しく芝居ができる。相手を立たせながら、自分も真ん中に揺るぎなく立てるところが、彼のすごさだと思います。



 21年にWOWOWの『アクターズ・ショート・フィルム』で監督・脚本に挑むなど、自身もクリエーティブな面を持つ磯村。表現者としての原点は、14歳のとき。監督・主演した映画を校内で上映し、拍手喝采を浴びたことだという。そこから俳優を志し、朝ドラ『ひよっこ』以降引く手あまたになったが、一時スランプに陥った。

 日々、違う台本を読んで、覚えて、現場で吐き出して、帰ってきて、またその繰り返し。余裕がなくて、ストレスだらけで、何も面白く感じられなくなって…。1度休みを取って旅行に行ったりしました。自分は本来、映画をやりたかった人間。その頃から意識的に、映画の仕事を増やしました。

 それが現在の「助演賞総なめ」につながった。そして今年は、宮藤官九郎脚本ドラマ『不適切にもほどがある!』に登場。放送ごとにファンを増やした。

 宮藤さんとは『渇水』で共演したんですが、脚本作への出演は初めて。憧れの“宮藤作品”に入れるということでうれしかったです。阿部サダヲさんとは、ドラマ『恋する母たち』(20年)以来。そのときはあまり接点がなかったのですが、今回はよく2人でおしゃべりをして、今でも飲みに連れていっていただいたりしています。

 阿部さんは、ハプニングやミスがあっても、すぐに芝居の延長線上に持ってこられる。表現の引き出しが多くて、近くで見ていてとても面白かったです。あと、キヨシ役の坂元愛登君も、変わった子だったので、いい感じに成長しそうだなと期待してます(笑)。

 『不適切~』は本当に多くの方に見ていただけて、街でもよく「ムッチ先輩!」と声を掛けられました。ドラマはドラマで、視聴者さんの反応を感じながら進む楽しさがあるなと改めて感じました。

 近年はCMも増加し、4月からは日本コカ・コーラ「CHILL OUT」のアンバサダーに。5月24日からは、主演ドラマ『演じ屋 Re:act』(WOWOW)が放送・配信。秋には主演映画『若き見知らぬ者たち』が公開される。

 『演じ屋 Re:act』は、21年に奈緒さんと主演したドラマのシーズン2です。大事にしているのは“生感”。相手のリアクションや監督の演出で、お芝居は生き物のように変わるので、現場で生まれるものを大切にしています。

 『若き見知らぬ者たち』は、僕が好きだった『佐々木、イン、マイマイン』(20年)の内山拓也監督の作品です。内山監督は同い年なんですよ。若いチームと一緒にやる楽しさがありました。普段は主演や助演の区別はしないのですが、しっかり作品を背負って、みんなが1つになれるように導いていこうと取り組みました。



「これだ」って絞りたくない

 現在31歳の磯村。同じ92年生まれに染谷将太や鈴木伸之、1年下に菅田将暉や神木隆之介らがおり、黄金世代の一角を成す。よく比較されるのが、82、83年生まれの綾野剛、小栗旬、山田孝之らの世代だ。綾野は演技を追求、山田はプロデューサーや監督としても活躍し、小栗はハリウッド進出と、それぞれの道にまい進している。磯村は、どこを目指したいのか。

 そこはいつも、聞かれても答えがないんですよね。いろいろな可能性があって、海外に行くのも、映画を撮るのも、マルチにやるのもいいと思います。もちろん役者だけ選んでやってもいいけれど、若いうちに色々とやっておくほうがいいはずなので、僕はあんまり「これだ」って絞りたくないなと。

 長いですからね、この先の人生。50歳、60歳まで役者をやるって考えると、苦しいなと思うとき、ありますもん。この10年をまだ何回もやるのかと(笑)。でも面白さもあって、いろんな役を体験できるし、華やかで、変態な部分もあって…本当、変な仕事だと思いますよ(笑)。その変なところが、自分にとっては魅力。だからやめられないんでしょうね、きっと。