松本潤さんが13年ぶりに舞台に出演する。

しかも、その作品は数多くの俳優が出演を熱望する『NODA・MAP』。このニュースは松本潤さんや演劇のファンはもちろんのこと、舞台を観たことのない人

たちの間でも瞬く間に話題となり、「絶対に観たい!」という声が数多く挙がっています。



松本潤さんは、昨年は大河ドラマの主演を務め、今年は稽古期間も含めると数ヵ月にわたる舞台の主演を務めるという振り幅の広さや、常に何かに挑み続ける姿はさすが芸能界においてトップを走り続けてきた方、という印象。そんな松本さんにインタビューを敢行! 舞台にかける意気込みや劇作家・演出家である野田秀樹さんとの関係などもお伺いしました。松本さんの意外な一面が見られるかも!?

あらすじの予習もせずに、まっさらで観て欲しい






─NODA・MAPにご出演されると発表があった日は、SNSなどがかなりバズったかと思いますが、改めて今回の脚本を読まれての感想などをお聞かせください。

「過去の野田作品の戯曲は何度も読んできていますが、出演するのは今回が初めてなので、文字で書かれたものがどういうプロセスを経て具現化していくのかを想像しながら読んでいます。でも、文字だけでは想像しがたいものがあって、まだ見えていない部分がたくさんある感じですね」

──NODA・MAPでは本稽古が始まる前からワークショップも行われると伺いました。

「ワークショップでは出演者のアンサンブルを含めた皆さんと、『ちょっと動いてみようか』といろいろと試しながら動いてみて、『ああ、こういうことか』と腑に落ちることも多々あるのですが、まだ全貌は見えてないです。稽古が始まってから見えてくるものがたくさんあると思いますし、一本の線で繋がったときに、どんな作品になるのかというのがまた掴めてくると思います」




─ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をモチーフにした、花火師の一家の話というところまでは公開されていますが、実際に台本を読まれたところで感じている物語の印象を教えてください。

「難解です(笑)。『カラマーゾフの兄弟』自体が難解な話で、それをモチーフにしている話ではありますが、すべてを引用しているというよりも、その中で描かれる心理描写と、野田さんが描く人物の心情が、どこかリンクしているように感じます。どこがオリジナルなのかというのを読み解くのが難しいんです」

──野田さんの戯曲は構造が複雑で、『カラマーゾフの兄弟』かと思いきや、別の話に変化したりするのでしょうね。

「そうですね。野田さんもおっしゃっていましたが、必ず『カラマーゾフの兄弟』を読んできてほしいというわけでもないし、それを読んだからと言って、この作品を読み解きやすくなるわけでもない。あらすじだけ齧ってくるのが一番危険と野田さんもおっしゃっていました(笑)」

──あらすじをおさらいする必要はないんですね(笑)。

「野田さんはあらすじだけを入れるくらいだったら、まっさらな状態で観たほうがいいと強く言っていたので、それだけは必ず書いておいてください!(笑)」



言葉の響きだけで妙に感動できたりするのが舞台。





─野田秀樹さんの作品を実際にナマの舞台で拝見すると、難解かなと思ったことが、いろんなカタチで響いてくるという体験が何度もあります。

「不思議ですよね。全部が分からなくても、言葉の響きだけで妙に感動できたり、身体表現で何を表しているのかがより具体的に理解できたりとか。戯曲として素晴らしいというのもありますし、人間がそれをしゃべって表現することで完成している部分は大きいような気がしますね」

──野田さんとはもう20年来のお付き合いだと伺いました。野田さんと松本さんとのご関係をご存知のお友達などから、舞台出演について何かコメントはありましたか?


特にないかな。『久々に舞台やるんだね』みたいなことは言われましたが、僕自身も野田さんとの関係性について声高に言ってきたわけではないので、ご存じない方も多いでしょうし。とはいえ、野田さんの舞台に出るのは本当に初めてだから……。『あゝ、荒野』の前に、劇団 夢の遊眠社時代の戯曲をお借りした、蜷川幸雄さん演出の作品に出たことはありますけれど」

──『白夜の女騎士(ワルキューレ)』という作品ですね。

「そうです。正直、そのときも『これ、どういうことなんだろう』って思いながら喋っている言葉もありました(笑)。でも、頭で理解するスピードよりも言葉が押し寄せてくるスピード感やテンポ感で圧倒されてしまうんですよね。リズムだけでも、ただ気持ちいいという感覚もあったので、すごく不思議だなと思いながら当時は演じていました」


NODA・MAPのカンパニーはチーム感がすごい!





─久しぶりの舞台ということで、観る側としてはとても期待が膨らんでいるのですが……。ご自身が久しぶりの舞台で表現したいモノや掴みたいモノはありますか?

「僕自身は、ないです。それを言うなら、野田秀樹さんという劇作家が作り出す世界観をどう表現できるか、というところに注力したい。僕だけではないと思いますが、“媒介者”というか……。野田さんが何を描きたいのか、何を表現したいのか、というのを理解し、自分の肉体を通してそのカンパニーの一員になることで、野田さんの描く世界観を表現する一部になれたらと思っています」

──それを実現するために、ご自身が持っている“課題”というものはありますか?

「舞台特有の感覚的なところや自分の身体的な表現方法とか、そういうのをしっかりやらないといけないと思っています。ワークショップで動いてみて、『ああ、舞台の感覚はこうだった!』と思い出している部分もたくさんあります。実際は稽古が始まらないと見えてこないので、これからですかね」

──『あゝ、荒野』に出演されたときは、舞台に立つことに対しての醍醐味のようなものをどう感じられましたか?

「寺山修司さんの作品でしたので、それもまた言葉がすごく印象的でしたし、その作品を通して演出の蜷川さんがどういうイメージを具現化したいのかを感じられるのが醍醐味だと思います。僕らの世代は、いわゆるアングラというか、そういう時代の新宿は知りませんが、当時はゴールデン街を訪れたりして、『昔って多分こうだったんだろうな』って思いを馳せたりする時間も実際にありました。舞台ならではの時間軸の感情というか、その舞台の間だけ、旅をできる感情の波というのがあったので、今回はそれがどんなふうになるのだろうと考えると楽しみです」



─野田秀樹さんの印象について、深掘りさせてください。劇作家、演出家としての野田さんの印象と、共演者としての野田さんの印象はどんなふうに異なりますか?

「ワークショップで一緒に身体を動かすところまではやっていますが、まだセリフを一緒に言い合うことはしていなくて。まだ野田さん自身がみんなの動きを観ているタイミングだと思うので、まだ共演者としての感想は難しいですね」



─では、演出家、劇作家としてのイメージやNODA・MAPに対して持っていたイメージなどをお聞かせください。

「NODA・MAPの作品は、アンサンブルのみなさんを含めたチーム感やクオリティの高さみたいなものが素晴らしいなと、ワークショップに参加していて思います。演出家である野田さんの意図を汲み取るのも早いですし、『野田さんはこういうことを求めているんじゃなかろうか』と思って作ってみると、野田さんが全然違う方向に変えたり(笑)。関係性としてもすごく素敵ですし、結果的に芝居の可能性を広げていくような気がします」

──ついて行くのが大変そうです!(笑)


「野田さんは、常に新しいアプローチ方法はどこにあるかを探るために、僕はあえて難解にしている部分があると思っていて。スタッフのみなさんも、野田さんが『こういうのが欲しいんだけど』と言った瞬間にすぐに用意してくださったりと、野田さんの要望への対応力がとにかくすごい。チーム感が、本当に素晴らしいんです」

13年ぶりの舞台に挑戦するという興奮はありながらも、とても客観的に自分自身やカンパニーを分析する松本さん。公私ともに仲が良いと言われる野田秀樹さんとの共演を楽しみにしていらっしゃるようです。後編では長期間の舞台に備えるためのティップスや、共演者の方々との過ごし方について迫ります。



【プロフィール】

松本潤(JUN MATSUMOTO)
1983年、東京都生まれ。99年に嵐のメンバーとして『A・RA・SHI』でCDデビュー。嵐のコンサート演出等も担い、プロデューサーとしての一面を持つなど多彩な才能を発揮している。23年『どうする家康』でNHK大河ドラマ初出演にして初主演を果たす。主な出演作に、ドラマ『花より男子シリーズ』『99.9-刑事専門弁護士シリーズ』『となりのチカラ』、映画『ナラタージュ』『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』など多数。97年の舞台『Stand by Me』で初舞台を踏み、06年には野田秀樹作、蜷川幸雄演出の『白夜の女騎士』で主演・空飛びサスケ役を演じた経験を持つ。本作でNODA・MAP初参加。



【作品紹介】

出演:松本潤 長澤まさみ 永山瑛太
村岡希美 池谷のぶえ 小松和重
野田秀樹 竹中直人 ほか

【東京公演】2024年7月11日(木)~8月25日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
【北九州公演】2024年9月5日(木)~9月11日(水) J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【大阪公演】《9/1(日)チケット一般発売》
2024年9月19日(木)~10月10日(木) SkyシアターMBS
★全公演にて当日券販売あり。

【ロンドン公演】2024年10月31日(木)~11月2日(土)