WurtSが新作EP『エヴォリューション』をリリース

した。



 昨年から今年にかけて、度重なるツアーやフェス出演でライブパフォーマンスの説得力を増してきたWurtS。新作は、そうしたWurtSのアーティストとしての変化と活動の充実をまざまざと感じるような一作だ。

 TikTokを介して世に存在を知らしめた2021年の初リリースから3年。数々のCMやドラマのタイアップに楽曲を書き下ろし、今年10月31日には初の日本武道館公演も決定した。今のWurtSはどんなことを考え、どこを目指しているのか。語ってもらった。(柴那典)






初フェス出演での悔しさから芽生えたハングリー精神

――まずはライブについての話を聞かせてください。ここ最近は特にステージでのパフォーマンスの迫力が増してきた印象があるんですが、これまでを振り返って、ライブアーティストとしてのWurtSはどう変わってきたと捉えていますか?

WurtS:ライブってお客さんとのコミュニケーションだと思うんです。もともと今の事務所のUK.PROJECTに入った時からライブを視野に入れた活動は考えていたんですけど、最初はコロナ禍でライブができない状態があって、2022年の4月からやっと対面でライブができるようになって。それまでずっと一人で楽曲制作をして、ほとんどの作業をすべて一人でやっていたんですけど、いざライブをやることになったらいろんな人が関わるようになった。制作のスタッフの方もたくさんいるし、来てくれるお客さんもいる。「人との繋がりによってライブができる」ということを感じるようになりました。

――フェスにもかなり出ていますよね。その実感はいかがですか?





WurtS:最初に野外フリーコンサート『FM802 MEET THE WORLD BEAT 2022』というフェスに出させていただいた時に、自分としては初めてのフェスだったし、ライブ経験もほとんどない状態での出演だったので、他のアーティストさんとの演奏力の差をすごく感じて。自分は本当にアーティスト活動をしていいのかみたいなことも考えたり、このままではダメだみたいな悔しさもあったんです。フェスや大きい会場での演奏力をもっとつけたいというハングリー精神ができた。そこからいろいろフェスに出るようになったんですけど、フェスではWurtSを知らない人たちに向けての演奏力みたいなものが大事だと思うんです。お客さんがどういう反応をしているのかを見るのも大事というか。今年の『JAPAN JAM』や『VIVA LA ROCK』では、お客さんがWurtSをどう見ているかを感じられるようになった。そんなことを実感しましたね。

――先日の『VIVA LA ROCK』でのライブも拝見したんですが、客席の後ろの方の人まで巻き込んでましたよね。会場を一つにするようなパフォーマンスだった。その手応えはあったんじゃないでしょうか。

WurtS:そうですね。去年と比べても、WurtSを知っているお客さんが少しずつ増えてきていると感じるようにはなりました。





――何が変わったと思いますか?

WurtS:「分かってないよ」という曲が、みんなと歌えるようなキーポイントの曲なんですけど、振り返ってみると最初は別にそういう曲ではなく、一人で作って一人で発信していた曲で。だけど、僕もライブをする上でお客さんとキャッチボールができる楽曲を作っていきたいと思っているんです。ライブを通して「分かってないよ」をアンセムとして育てていこうという気持ちもあったし、実際どんどんアンセム化していったので、音源とは違う、ライブでしか味わえないようなアレンジとかコミュニケーションの方法も考えるようになりました。

――ライブでのバンドメンバーが固まったことも大きかった?

WurtS:大きかったですね。最初のライブの時から今のバンマスの新井(弘毅)さんはいたんですけど、その時はWurtS自体がライブをしたことがなかったので「ライブって何だろう?」っていう感じで。そこから今はメンバーも固定になってコミュニケーションもすごく増えたし、ツアーを経て親密度が上がったと思います。右も左も分からない状態でライブをやっていた時に、新井さんは客観的に外から見た視点を持っていろいろ言っていただいたので。同じ舞台に立って演奏はしているんですけど、“お客さんからWurtSがどう見られているのか”を教えていただけた。それがライブ力がついた一つのきっかけなのかなと思います。

「エヴォリューション」にも見られるWurtSの進化



―今の話を受けて、新作の『エヴォリューション』についても聞かせてください。本作にはそうやって意識が変わってきたWurtSとしての音楽活動とリンクしているものを感じました。ご自身としてはいかがですか?

WurtS:『エヴォリューション』の楽曲のラインナップを見ていると、レコーディングでの楽曲制作のメンバー編成も少しずつ固まってきたような感じがあります。それまでは探り探りでいろんな方と一緒に楽曲制作をしていて、奏者の方々もバラバラだったんです。でも、この『エヴォリューション』で一番古いのが「メルト」で、これは去年の1月にリリースした曲なんですけど、ギターを高慶(高慶"CO-K"卓史)さんにお願いしていて。今は僕にとって高慶さんがレコーディングをする上でのキーパーソンになっているんです。それまで自分の感覚で独りよがりの楽曲制作をしていたんですが、高慶さんは他の奏者の方々とコミュニケーションを取れるように仲介役をしてくださる存在で。楽曲制作においても、WurtSの音楽を一緒に作っていくメンバーが揃ってきたような感じがある。自分としても聴いていて安定してきたなって感じます。

――高慶さんが加わったことで制作はどう変わったんですか?



WurtS:それまでレコーディングにおいては僕が作ってきたデモをそのまま忠実に作ることが多かったんです。けど、高慶さんとメンバーの方々とレコーディングの現場で一緒に作っていくような、ブラッシュアップしていくスタイルになってきた。「タイムラグ! feat. Moto (Chilli Beans.)」とかは高慶さんと共同でアレンジをしています。そこが大きく違ってきたなと思いますね。





――「エヴォリューション」はどういうきっかけで作っていった曲なんでしょう?

WurtS:もともとアイデアがあったんですけど、そこにちょうど東京・名古屋・大阪国際工科専門職大学のCMソング(テレビCM「本音」編)のお話をいただいたんです。「エヴォリューション」は「進化」という意味があるので、ヒップホップっぽいアプローチをしてみたり、後半にかけてどんどん雰囲気が変わったり、この楽曲自体も進化していくような表現をしています。WurtSとしての進化も見せられるし、歌詞としてもタイアップとリンクしているように思う。僕の制作環境が整ってきたというのもあり、ここからもより進化していきたいという気持ちもあります。

――この曲に表れているWurtSとしての進化にはいくつかポイントがあると思うんですけど、例えば分かりやすいところで言うと、ボーカルにオートチューンがかかっている。これは初めての試みだと思うんですが、どういう意図や狙いがあったんですか?

WurtS:これまでWurtSの楽曲は加工しないことが多かったですからね。録った声を編集したり、ピッチを変えたり、綺麗にする作業をあまりしなかった。それがWurtSの良さだと考えていたんですけど、今回は声を加工してみようと思って。一番分かりやすいのがオートチューンだと思ったので、新しさとして取り入れてみました。


―曲調やサウンドとしてはどうでしょうか?

WurtS:ヒップホップ的なビートがAメロ、Bメロと続いて、ロックなサビがあって、その後にハウスっぽいビートに変わる。ヒップホップ、ロック、ハウスという流れを1曲にした、そこはWurtSの進化じゃないかと思います。

――でも、単に異なるジャンルが1曲の中に同居しているというより、ビートチェンジがスムーズに進んでいるイメージがあります。

WurtS:WurtSには「分かってないよ」と、もう1つ大事な「Talking Box」という楽曲があって。この2曲は、ジャンルとしてはオルタナティブロックとクラブミュージックに分かれているような感じがしているんですけど、その2つを組み合わせるというのはWurtSのライブにおいても、楽曲制作においても課題だと思っていて。この2つのジャンルを組み合わせることができたら、WurtSのスタイルがより確立されるんじゃないか。そういう挑戦はありました。



――歌詞には〈僕ら〉という一人称を使っていますよね。これも今までの曲ではあまりなかった気がするんですけど、どうですか?

WurtS:最初の頃に作っていた楽曲は自分の中の言葉を吐き出す場所だったんですけど、ライブもするようになったし、いろんな人と楽曲を作るようになってからは、みんなとWurtSを作っているような感覚が生まれてきて。歌詞になる言葉も、一人の言葉よりみんなと一緒にっていう歌詞の考え方になってきた気がしますね。いろんな人と関わりたいと思えるようになったのは、ライブやコラボレーションをするようになってからかなと思います。





WurtSの中で大きくなる“コミュニケーション”の比重

――昨年には[Alexandros]との「VANILLA SKY (feat. WurtS)」でのコラボもありました。これはどういう経験になりましたか?

WurtS:コラボすることによって他のアーティストがどういう曲作りをしているのかという発見がありました。[Alexandros]さんの楽曲制作って、レコーディングしている中でメンバーさんそれぞれが意見を出し合ってどんどん良いものができていくみたいな感じなんです。最初にデモがあるんですけど、完成したものは良い意味で全然違うものになっている。その現場を初めて見て、自分の曲作りはデモそのままでの進行だったので、全然違うんだな、それってアリだなって思いました。




―いろんな経験を経て、WurtSというアーティストがやれること、表現の可能性が広がってきたという感じなんですね。

WurtS:コミュニケーションが増えたことで、どんどん吸収できるものが増えたという感覚はひしひしと感じていますね。アレンジにおいても、僕は音楽理論に詳しくはないので感覚的に伝えてしまう部分もあるんですが、それを仲介して訳してくれる方と一緒に作業することによって楽曲のレパートリーも広がる。頭の中にあるものを明確に出せるようになってきたかもしれません。

――それを踏まえて、改めてお伺いできたらと思います。デビューの頃に取材でお会いしていたときはご自身のことを「研究者×音楽家」と言っていましたよね(※1)。そういう自らを実験体にしたマーケティング研究としてのマインドは今もあるとは思うのですが、“研究者”としてのWurtSはこの3年間の“音楽家”としてのWurtSの変化をどう見ていますか?

WurtS:客観的に見ると、ライブにおいての表現はすごく進化できたし、楽曲制作においても、独りよがりの制作から視野が広がったと思います。聴いている人たちを意識した楽曲作りができているなと。視野が広がって社交的になった、みたいな進化がある気がします。




――これは僕なりの解釈なんですけど、「マーケティング」から「コミュニケーション」になった感じがするんですよね。音楽の役割が変わっていった。自分の部屋で作ったものがTikTokを介してどれだけ広がっていくかというのは「マーケティング」の実験で、フェスの場で後ろの方の人にどれだけ興味を持ってもらえるかというのは、お客さんとの「コミュニケーション」である。遠くに届けるっていう意味では同じだけど、その感覚の違いが大きくなっているのかなと思ったりしました。

WurtS:まさしくそうだという気がしますね。WurtSが始まった頃は、いかにデジタルを駆使してまず知ってもらえるか、音楽をいろんな人に届けるかということを、マーケティングの考え方でやっていて。そこから、楽曲とWurtSを少しは知ってもらえたような気がしています。もちろん今もマーケティングの考え方もあるんですけど、お客さんとのコミュニケーションであったり、制作においてのコミュニケーションであったり、そういうコミュニケーションの比重が大きくなってきている。それが結果として、マーケティング的な言葉で言うと「WurtSのブランディング」になってきているなと思います。





WurtSのテンプレートに続く人たちがどんどん出てきてほしい

――今の音楽シーンでのWurtSについても聞かせてください。The 1975への憧れがルーツにあったということを以前に語っていましたが(※2)、そこからどんな変化がありましたか? たとえば今はどんなアーティストに影響を受けたりしていますか?

WurtS:The 1975さんからは今でも影響を受けていますし、変わることに対しての憧れはありますね。変わることのできる強さを僕は大事にしているので、すごくリスペクトしています。加えて、今はフェスや対バンライブでご一緒したアーティストに対してのリスペクトや憧れをどんどん持つようになっていますね。特に[Alexandros]さんとのコラボは僕の中で一つの大きな分岐点だったので、バンドというものへのリスペクトというか、バンドの良さをどれだけ吸収できるんだろうみたいなことを考えています。あと、サカナクションさんはクラブミュージックとロックを融合させてすごくかっこよく見せているというところで、先をどんどん進んでいる存在として参考にしていますね。





――WurtSというアーティストを俯瞰で見ると、日本のロックシーンの先達が切り拓いたきたものを受け継ぐ意識があるけれども、その一方で自分から始まる文化みたいなものもある。そういうユニークな立ち位置になっている感じがします。

WurtS:そうですね。TikTokで無名の人がいきなり大きくなっていく流れの中で、WurtSのやり方は一つのテンプレートになったような気がしていて。音楽を作って、それをTikTokで上げて、そこから火がつく。それに憧れてアーティストを始める人たちも増えてきました。そこから、次はライブ力が問われるような場所にきて他のアーティストさんに負けないようにということを考えた時に、デジタルとフィジカルの両面で頑張っていく必要がある。そのラインを作り上げていきたいと思いますし、そこは僕の立ち位置でもあると思っています。

ーー単にTikTokから出てきたというだけでなく、たとえば映像のディレクションに携わっていたり、音楽だけではなくトータルで活動自体をデザインしているのも大きいですよね。いわゆるブランディングの価値観がある。そういうタイプのアーティストとしてWurtSが新しく切り拓いた道は確かにあるなと思いました。

WurtS:自分でセルフプロデュースをするというのは、音楽だけではなく、アートワークであったり、映像であったり、いろんな部分をトータルでプロデュースするものでもあるので。音楽ももちろん大事だし、自分がどう見られているか、それこそブランディングやマーケティングに繋がってくるんですけれど、そこがアーティストの一番大事な部分なんじゃないかという価値観を持っています。あと、最近すごく思っているのは、「最終的にWurtSはコミュニティになりたい」ということ。WurtSというカルチャーがあって、音楽も映像もあるし、考え方やイズム的なものもある。そういうトータルでのカルチャーとして受け入れられることが僕の目標なんじゃないかな、と最近思うようになりました。





―コミュニティを作りたいというのは面白いですね。具体的にはどういう感じなんですか?

WurtS:WurtSのテンプレートに続く人たちがどんどん出てきてほしいし、それこそWurtSの音楽だけではなくて、その見せ方であったり、そういう部分に対する同じ気持ちを持った人たちがどんどん集ってほしいというか。アーティストとして見られたい思いもあるんですけど、WurtSをきっかけに人々が集まってくるような、そういう存在になっていきたいという感じですね。僕がWurtSとして目指してる場所は、CDショップに置かれるというより、一つのカルチャーのジャンルとしてヴィレッジヴァンガードに置かれるようなイメージ。そうなったら面白いんじゃないかなと思います。

――この先のライブについても聞かせてください。『WurtS LIVEHOUSE TOUR Ⅲ 』が始まりましたが、どんなツアーにしたいと思っていますか?

WurtS:去年にやった『WurtS LIVEHOUSE TOUR Ⅱ 』でWurtSのライブスタイルが確立されたような気がして。それこそクラブミュージックとロックミュージックの融合だったり、そういう部分をより突き詰めていくのが今回の『WurtS LIVEHOUSE TOUR Ⅲ 』なのかなと。セットリストもより攻めたものになるんじゃないかと思っています。

――そして、10月31日には武道館公演も決まりました。どういうライブにしたいですか?

WurtS:武道館は憧れの場所ではあるんですけど、あまり記念としては考えていないですね。ここをハイライトにするわけではなく、より会場を大きくしていって、その都度そこでできる何かをしようみたいな。そういう感じで考えてます。




リリース情報
『エヴォリューション』
2024年5月22日(水)発売 
Download:https://lnk.to/Ws_Evolution

■ツアー情報
『WurtS LIVEHOUSE TOUR Ⅲ』
・5/29(水) 新潟LOTS OPEN 18:00 / START 19:00
・5/30(木) 長野CLUB JUNK BOX OPEN 18:30 / START 19:00
・6/6(木) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM OPEN 18:00 / START 19:00
・6/8(土) BLUE LIVE HIROSHIMA OPEN 17:00 / START 18:00
・6/10(月) 高知CARAVAN SARY OPEN 18:30 / START 19:00
・6/11(火) 高松festhalle OPEN 18:00 / START 19:00
・6/22(土) 鹿児島CAPARVO HALL OPEN 17:30 / START 18:00
・6/23(日) 熊本B.9 v1 OPEN 17:00 / START 18:00
・6/25(火) Zepp Fukuoka OPEN 18:00 / START 19:00
・6/26(水) Zepp Fukuoka OPEN 18:00 / START 19:00
・6/29(土) 福井県県民ホール OPEN 17:00 / START 18:00
・7/3(水) 仙台GIGS OPEN 18:00 / START 19:00
・7/5(金) Zepp Sapporo OPEN 18:00 / START 19:00
・7/10(水) Zepp Nagoya OPEN 18:00 / START 19:00
・7/11(木) Zepp Nagoya OPEN 18:00 / START 19:00
・7/16(火) Zepp Haneda(TOKYO) OPEN 18:00 / START 19:00
・7/18(木) Zepp Osaka Bayside OPEN 18:00 / START 19:00
・7/19(金) Zepp Osaka Bayside OPEN 18:00 / START 19:00
<チケット代金>
スタンディング: 5,500円(税込)、2F指定席:6,500円(税込)
※各公演別途ドリンク代必要

■公演情報
『WurtS LIVE AT BUDOKAN』
2024年10月31日(木)日本武道館
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット代金: 8,000円(税込)