『最愛』(TBS系)、『アンナチュラル』(TBS系)、
そして『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)。名作と呼ばれる作品には、
いつも井浦新がいるような気がする。
登場しただけで……
いや、キャストが発表された瞬間から、
「井浦新が演じるなら“何か”あるのだろう」と
思わせる重厚感。
現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)で
演じた道隆も、最初は控えめに見せていたが、
実は虎視眈々と権力を狙っていたという深みのある
役柄だった。
そのため、『アンメット』に井浦が出演することが
明らかになったとき、「きっと裏があるはず」と
身構えた人も多いのではないだろうか。
しかし、大迫は脳外科の権威でありながら、
それを感じさせない柔軟な人柄で、人望も厚いと
紹介されていた。独裁っぷりを見せていた道隆とは、対極的なキャラクターだ。
とはいえ、こちらも数々の井浦の出演作を追いかけてきた身。『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)の朝比奈のようなこともあるかもしれない……
と思いながら初回放送に挑んだのだが、
大迫はどう転んでもまったく裏がなさそう。
明らかに良い人っぽい雰囲気を纏っていたので、
拍子抜けしてしまった。
教授室にはたくさんの観葉植物が置かれており、
大迫はそれらを愛おしそうに世話している。
シュッシュっと霧吹きで水をあげるシーンなんかは、「マイナスイオンを発しているのでは?」と
思ってしまうほどに癒された。
なるほど、今回はこの路線の井浦新なのだな。
それなら、このポワポワ感を堪能させていただこう……と
思っていたのだが、第3話から“何か”を抱えていそうな描写が目立ってきた。
大迫は、記憶障害を抱えるミヤビ(杉咲花)の主治医だ。彼女に寄り添うような優しい口ぶりで、不安を取り除いていく。ただ、三瓶(若葉竜也)が行った再検査にて、ミヤビの脳には重度な記憶障害が残るような大きな損傷が見当たらないことが明らかになってしまった。となると、「回復の見込みがない」という大迫の診断に、何か裏があるように思えてくる。ミヤビが記憶を失うきっかけとなった事故に、大迫が関わっているのだろうか。
『アンメット』の序盤、大迫の登場シーンはそこまで多くはなかった。それなのに、物語のなかで大きな存在感を放っているのは、井浦が演じているからだろう。ふとした表情も見逃してはいけないように感じさせる吸引力が、彼にはある。
では、わたしたちは、なぜ井浦の演技に惹きつけられてしまうのか。今までは、理屈では語れない本能的な感覚で惹かれているのだと思っていた。しかし、『アンメット』を通して、少しずつ分かってきたような気がする。
井浦が見せる一つひとつの表情には、その役の人生があるのだ。たとえば、『アンナチュラル』の中堂系。彼が無愛想な表情をしていたり、ぶっきらぼうなことを言っていても、なぜかまるっと愛せてしまうのは、そうなるまでの過程を感じさせるような表現を井浦がしてくれているから。
何か”ある演技をするには、“何か”が起きるまでの過程をしっかり落とし込まなければならない。裏切ったり、人を傷つけたり。そのアクションを起こしてしまうまでの人物の葛藤を、井浦は自分のなかで咀嚼して、体現しているのだろう。ゆえに、視聴者が置いてきぼりにならない。
そのため、大迫が実は“何か”を抱えていたとしても、どこか納得できてしまう自分もいる。ひとりになったときにふと見せる寂しげな表情。西島医療グループの最高権力者・西島(酒向芳)と話すとき、なんだかビジネスマンっぽい顔になる瞬間もあった。思い返せば、井浦はたくさんのヒントを、わたしたちに与えてくれていたのだ。
やっぱり、大迫はミヤビの記憶障害の原因に関わっているのだろうか。それとも、このままポワポワなキャラクターであり続けるのか。どちらに転んだとしても、受け入れる準備はもうできている。
■放送情報
『アンメット ある脳外科医の日記』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花、山谷花純 尾崎匠海(INI)、中村里帆、安井順平、野呂佳代、千葉雄大、小市慢太郎、酒向芳、吉瀬美智子、井浦新
原作:子鹿ゆずる(原作)・大槻閑人(漫画)『アンメット-ある脳外科医の日記-』(講談社『モーニング』連載)
脚本:篠﨑絵里子
音楽:fox capture plan
主題歌:あいみょん「会いに行くのに」(unBORDE/Warner Music Japan)
オープニング曲:上野大樹「縫い目」(cutting edge)
演出:Yuki Saito、本橋圭太
プロデューサー:米田孝、本郷達也
制作協力:MMJ
制作著作:カンテレ