「プロのミュージシャンになるって本格的に決めたのは高校の時の学園祭で、体育館のステージの上なんです。体育館ってやっぱり普通のライブハウスとか、アリーナとかとは違って、魔物みたいなものが住んでいるんです。ここに立つと、身が引き締まります。これから新しい挑戦をしなきゃいけないんだなって優しくも厳しくも背中を押されているような感じになります」──川上
ライブの終盤、この日、磯部寛之と自身の母校である青山学院大学の青山学院記念館(青山学院大学体育館)のステージで爆音を鳴らしてきた演奏を振り返って、川上洋平は、そんなふうに語ったのだった。
コロナ禍によって一度中止になってから4年を経て、ついに実現した母校凱旋ライブ<[Alexandros] Back To School!! celebrating Aoyama Gakuin's 150th Anniversary>。母校に帰ってきたことが[Champagne]というバンド名で活動を始めた当時の野心を蘇らせたのか、それとも現在の彼らがそういうモードなのか、凱旋ライブらしい演出も交えながら、これまで重ねてきたキャリアにふさわしい円熟よりもむしろ、唯一無二であることを求める反骨精神の発露とも言える[Alexandros]らしいエキセントリックな魅力を今一度印象づけるライブになったことが重要だ。
1曲目はこれしかないだろう──ということで、川上がファルセットで歌うアーバンなポップソングの「Aoyama」でライブはスタートしたものの、そういう曲に歪ませた音色を加える白井眞輝(G)のギタープレイをはじめ、次第に熱を帯びていった4人(+サポートキーボーディストとサポートギタリスト)の演奏は、イントロから観客に声を上げさせた2曲目の「todayyyyy」で一気に白熱する。
磯部が奏でるシンセベースの音色が新しい音像を彩りながら、アップテンポの演奏とメロディーに宿らせたエモーションで観客の気持ちを一瞬で攫うと、彼らのライブのクライマックスを担うことが多いニューウェーブ調のアンセミックなポップナンバー「Dracula La」を、1曲目からすでに総立ちの客席に惜しげもなく投下。
そして、「学校だからって気を遣わなくてもいいよ。我々の母校です。派手にやらかしませんか⁉」と川上が言ったその言葉通り、そこからたたみかけるようにドラマチックな展開がスリリングなロックナンバー「Droshky!」(間にブラック・キーズの「ロンリー・ボーイ」のサビを挟むアレンジが心憎かった!)、観客にシンガロングの声を上げさせたエモーショナルなロックナンバー「無心拍数」を繋げ、大音量の演奏を体育館に響かせていった。
「青山学院は学園祭のたびにいろいろなアーティストを呼ぶんですよ。俺らの時代だと、チャゲアス(CHAGE and ASKA)さんとか、aikoさんとか。そういう人達を、その辺で見てたんだよな。俺と洋平で並んで。そのステージになんとワンマンライブで立たせてもらってます。何年かかったんでしょうね(笑)?」──磯部
「学園祭の小さなステージでもいいから出させてほしいと思って、デモテープを送ったんですけど、毎年、落選してました。やっと今回、合格しました。光栄です。めっちゃうれしい」──川上
磯部と川上が大学時代の思い出を語り合ってからの後半戦は、[Alexandros]のライブに欠かせないシンガロング必至のアンセム中のアンセム「Starrrrrrr」を間に挟みながら、シンセが不穏に唸る「Boo!」から「Kill Me If You Can」「In Your Face」 「Claw」「Stimulator」「Girl A」と久しぶりにライブで演奏する曲の数々を立て続けに披露していく。
そのどれもがライブシーンで頭角を現してきた彼らがメジャーデビュー前後──言い換えれば、ある意味一番ギラギラしていた時期に新たな音像を求めながら作った、曲のストラクチャーやサウンドメイキングにひと癖もふた癖もある轟音のロックナンバーというところがポイントだ。もちろん、そこにノスタルジーはこれっぽっちもないのだろう。そういう曲の数々を、この日、彼らがヘヴィなグルーヴを際立たせながら演奏したことにこそ大きな意味がある。
中でも特に大きなインパクトがあったのが「Girl A」。ドロップチューニングを使って、ヘヴィな轟音ロックサウンドを追求した[Alexandros]流のシュゲイザーナンバーを、この日、彼らはリアド偉武(Dr)がノンストップでキックする力強いバスドラの4つ打ちを軸にしたダンスナンバーにアップデート。4つ打ちのリズムに合わせ、観客全員が跳ねる光景を目の当たりにしながら、彼らのライブに新たなクライマックスが加わったことを確信した人は少なくなかったはず。
独特のリズム感でギターをかき鳴らしながら、あるいはハンドマイクでステージを自由に動きながら、ボーカリストとして奔放なパフォーマンスを繰り広げる川上はもちろん、厳選したフレーズを太い音色で奏で、テクニックを凌駕するパッションを見せつける白井、曲によってはスラップも交えながら、怒涛のグルーヴの推進力となる磯部、テクニックとパワーを兼ね備えたプレイによって、演奏の屋台骨を支えるリアドがバンドアンサンブルのスケールアップを見せつけたこともしっかりと記しておきたい。
イスありの会場でやるには激しい曲が多かったかもしれないという自覚と、それをやってやったぜという手応えはメンバー達にもあったようだが、間に挟んだジャズともソウルとも言えるバラードの「rooftop」、「自分達の曲の中で一番洒落ている」と川上が曲を紹介したダンスポップナンバー「VANILLASKY 」、そして、2年よけいに大学に通った息子を見守ってくれた親に対する感謝を込め、やはりこの日久しぶりに演奏したメロディアスなロックナンバー「風邪をひいた時の歌」といった曲の魅力は逆に際立ったような印象も。
その「風邪をひいた時の歌」の流れから、いい感じの曲でほっこりと終わろうという考えがセットリストを作っている時によぎったものの、「せっかくだから、騒がしく、自分達らしく、荒々しくやろうと思います!」と川上が宣言。
「ラスト3曲、騒げますか⁉」となだれ込んだラストスパートは、川上と磯部がユニゾンさせるリフに白井のギターが絡みつくヘヴィロックナンバー「Mosquito Bite」から「閃光」「Waitress, Waitress」と新旧のアンセムをノンストップで繋げると、観客のシンガロングとともにクライマックスを作り上げ、熱狂の中、本編を締めくくったのだった。
人前で初めて弾いたという磯部のアコースティックギターと川上の歌だけで披露した「Adventure」という凱旋ライブでしか見られない見どころも含むアンコールは、海外のオルタナ~インディロックに共鳴する新曲「Jullius」を挟んで、「ワタリドリ」で観客のシンガロングとともに大団円──ということでもよかったと思う。しかし、「実は(この曲は)渋谷がテーマです。初めて言います」と川上が語った「city」を加えたことで、この日、[Alexandros]が我々に何を見せたかったのかがより明確になったと思う。
自分がまだ何者でもない焦燥感を歌ったこの曲に宿らせたヒリヒリとした感情は、今現在もまだ彼らの大きな魅力になっている。
冒頭に引用した「新たな挑戦をしていかなきゃいけない」という川上の言葉と最後の最後に「city」を加えた持ち前の反骨精神が楽曲の制作も含め、[Alexandros]の今後の活動にどんなふうに反映されるのか、今から興味は尽きない。
取材・文◎山口智男
撮影◎河本 悠貴
■<[Alexandros] Back To School!! celebrating Aoyama Gakuin's 150th Anniversary>2024年3月16日(土)@東京・青山学院記念館(青山学院大学体育館)セットリスト
01. Aoyama
02. todayyyyy
03. DraculaLa
04. Droshky!
05. 無心拍数
06. rooftop
07. VANILLASKY
08. Boo!
09. KillMeIfYouCan
10. Starrrrrrr
11. Inyourface
12. Claw
13. Stimulator
14. Girl A
15. 風邪をひいた時の歌
16. MosquitoBite
17. 閃光
18. Waitress,Waitress!
encore
en1. Adventure (川上&磯部)
en2. Jullius
en3. ワタリドリ
en4. city
■CDシングル「SINGLE 1」
※読み:シングル ワン
※詳細は後日発表