一人の女性の生涯を見事に演じきったNHK連続テレビ小説『エール』、日本中を爆笑の渦に巻き込んだ映画『翔んで埼玉』、社会現象となったドラマ『VIVANT』……。作品ごとにまったく違う表情を見せ、観る者を魅了する二階堂ふみさん。日本を代表する俳優の一人である彼女の新たな挑戦となったのが、ハリウッド超大作の『SHOGUN 将軍』だ。
『SHOGUN 将軍』のベースとなったのは、1975年に発表されたジェームズ・クラベルの小説『将軍』。日本の戦国時代を舞台に、徳川家康、石田三成、三浦按針といった歴史上の人物にインスパイアされた面々による一大スペクタクルを描き、世界中で大ベストセラーとなった作品である。1980年にはドラマ化もされ、アメリカで最高視聴率36.9%を記録している。そして2024年、ハリウッドが同小説をもとに、戦国ドラマ『SHOGUN 将軍』としてシリーズ化。主演とプロデューサーを務めるのは、『ラスト サムライ』で世界に真のサムライ像を見せつけた真田広之さんだ。
本作で二階堂さんが演じるのは、豊臣秀吉の側室・淀殿(茶々)にインスパイアされた「落葉の方」。2014年にNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で淀殿を演じた二階堂さんにとっては、ゆかりの深い人物になる。
取材当日、役柄に合わせて美しい着物姿で現れた二階堂さんに、10年ぶりに向き合った淀殿への思い、そして『SHOGUN 将軍』の現場で得たものについて話を聞いた。
10年ぶりに「淀殿」と向き合って
「大河で演じてからもう10年ですか。本当にあっという間ですね。実は今回の作品で、最初は違うキャラクターのオーディションに参加していたんです。ところが製作の途中で様々な変更があり、再始動した際に落葉の方でお話をいただいて。結果、オーディションを経て、落葉の方を演じることになりました。
父が歴史好きで、まだ『軍師官兵衛』への出演が決まる前に、『誰か歴史上の人物で演じてほしいキャラクターっている? 』と尋ねてみたら、『ぜひ淀殿をやってほしい』と言ってたんです。それで私も『いつかやれたらいいなあ』と思っていたところ、『軍師官兵衛』で演じる機会を得ることができて。なので私にとって、すごく思い入れのある人物なんです。
淀殿はとてもパワフルな女性ですが、彼女が生きていた時代には、女性が政治の中で道具として使われていたという背景があります。今とはかけ離れた倫理観のなかで生きていた人だと思います。現代を生きる我々から見るとものすごく異質に感じられる部分もあれば、日本人として肌感でなんとなくわかる部分もある。
今回、落葉の方として再び淀殿と向き合うにあたって、10年という時間を経たぶん、さらに深く人物を掘り下げることを心掛けながら演じました」
二階堂さんはこれまでに、『平清盛』『軍師官兵衛』『西郷どん』と3つの大河ドラマを経験している。大河と『SHOGUN 将軍』では、現場においてどのような違いがあったのだろう?
「制作の過程すべてが違いました。もちろん日本の時代劇の現場にはそれぞれの作り方や良さがありますし。現場や座組みによってなのですが、今回は、制作陣と台本についてミーティングをする機会が非常に多かった印象です。まず撮影に入る前に『このシーンはこういうふうに撮りたいと思っています』と説明があり、そのうえで『何か引っかかるポイントや消化できない部分はありますか? 』と細部に渡って確認がありました。
実際に撮影に入ってからも、我々日本人の解釈、切り口、人物に対する理解とは全然違う部分があったりして、『ああ、日本の外からはこう見えるのか』という新鮮な気付きがありました。それによって新たなキャラクター像が見えてきたり、作品の見え方が変わったりするのはとても面白い体験でした」
アメリカ、イギリス、日本などから、さまざまなバックボーンを持つスタッフが集結した本作。英語が得意な二階堂さんだけに、現場では問題なくコミュニケーションがとれていたのでは?
「英語は少し話せるくらいで、そこまで得意ではないんです。そもそも今回この作品に出演して、日本人が持っている感覚を英訳するのってすごく難しいんだなと思いました。古いしきたりや決まり事を含め、英語ではうまく説明できない事象、感覚がたくさんある。あらためて、日本はすごく特殊な国なんだなと感じました。
台本は、一度英語で書かれたものが日本語に訳されていたのですが、英語と日本語では主語の数が全然違っていて、そういうところも面白かったです。自分たちが普段使っている言語の特殊性を目の当たりにしましたし、日本文化の背景を学び直すいい機会にもなりました。と同時に、自分は一体何者なんだろうと考えさせられるなど、本当に勉強になることが多い現場だったと思います」
真田さんの姿を見て『すべては自分次第なのだ』と感じましたし、俳優部としての視野を広げるという意味でも本当に得難い経験だったと思っています」
思わず身を乗り出してしまうような興味深いお話を聞かせていただいた前編に続き、後編では海外での仕事と日本の俳優のグローバルな活動について思うこと、また二階堂さん自身はこれまでに人生を左右するような大きな決断をしたことはあるのかなどについても語っていただきました。
『SHOGUN 将軍』
『トップガン マーヴェリック』の原案者が製作総指揮、真田広之 プロデュース/主演。ハリウッドが描く、SHOGUNの座を懸けた陰謀と戦略渦巻く戦国スペクタクル・ドラマシリーズ。
ディズニープラスの「スター」で独占配信中。
ストーリー:
徳川家康ら、歴史上の人物にインスパイアされた「関ヶ原の戦い」前夜、窮地に立たされた戦国一の武将<虎永>と、その家臣となった英国人航海士<按針>、二人の運命の鍵を握る謎多きキリシタン<鞠子>。歴史の裏側の、壮大な“謀り事”。そして、待ち受ける大どんでん返し。SHOGUNの座を懸けた、陰謀と策略が渦巻く戦国スペクタクル・ドラマシリーズ。
二階堂ふみ
1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。役所広司の初監督作である『ガマの油』ヒロイン役で映画デビュー。『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』で初主演。以降、映画『ヒミズ』『悪の経典』『地獄でなぜ悪い』『オオカミ少女と黒王子』『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』『西郷どん』、連続テレビ小説『エール』、ドラマ『VIVANT』『Eye Love You』などに出演。2024年2月、映画『月』で『2023年 第97回キネマ旬報ベスト・テン』助演女優賞を受賞。
ヘア:Eita(Iris)、メイク:渡嘉敷愛子、スタイリング:石田節子、衣装クレジット:灯屋2