ロックバンドとしての戦い方

──[Alexandros]は2018年にアメリカツアーを行いましたよね。そこではどんなことを感じましたか?



川上 アメリカの都市を2カ所回って、僕らの音楽を聴いてくれている人がいるんだというのはわかったけど、手応えとしては正直まだまだでしたね。今、ヨーロッパやアメリカで本当に人気な日本人バンドはおとぼけビ~バ~やLampだけど、そういうバンドを見てると、俺らみたいなバンドはどういう戦い方をすればいいのか?と考えさせられましたね。

 CHAIとかも人気ですよね。音楽性はもちろんだけど、自分たちのキャラクターをとことん突き詰めている人たちは海外では強いなと。

川上 戦い方を考える中で一番やっちゃいけないのは、何かに合わせることだと思っていて。今からおとぼけビ~バ~みたいにはなれないし、ビルボードのランキングの上位に入ってくるようなアーティストの音楽性に変えていくのも違う。じゃあ何が正解なのかと考えると、やっぱり自分たちが好きなものをとことんやるしかなくて。自分たちの音楽が刺さるか刺さらないかは、聴く人が決めることなんですよね。聴いたうえで好きになってもらえなかったら、それはそれでしょうがないかなと。

 今の世の中でどういう音楽が刺さるのか、予想してヒットを狙いにいくやり方もあるんだろうけど、ロックバンドがそれをやるのはちょっと違うなって。

川上 うん。自分の好きなものをもっと突き詰めて、オリジナリティを強化しないと勝負できない。その代わり、生半可な気持ちじゃダメだなとも思う。おとぼけビ~バ~は本当に自分たちがカッコいいと思ったものを突き詰めた結果、海を飛び越えて人気が出たわけで。そこは勉強になるなと。

 確かに。ロンドンやアメリカでライブがやりたいということではなくて、いろんなところでライブをやりたいんですよね。それならどこかの国の音楽シーンに合わせるんじゃなくて、自分の好きなことをやり続けて、それがたまたま海を越えて届いたほうがうれしさを感じられる気がします。





海外レコーディングで得たもの

──バニラズは昨年、初のイギリス・ロンドンでのレコーディングを行い、そこで録音した「SHAKE」を今年1月に配信リリースしました。向こうでのレコーディングはどうでしたか?

 最高でしたね。レコーディング以外の部分でも完全に浮ついてた(笑)。まったく雨が降らなくて毎日晴れていたし、気候もすごく寒いわけじゃないから過ごしやすくて。サッカーも観たし、ロイル・カーナーのライブも観に行ったし、ToDoリストをきれいに消化できた感じで。

川上 最高だね!

 街中には、芸能人じゃないんだろうけどカッコいいヤツらがいっぱいいて、自分の人生をちゃんと選択してそれを貫ければ、みんなカッコよくなれるんだなと再確認しました。


─[Alexandros]もアメリカ・ブルックリンに滞在しながら、2018年リリースのアルバム「Sleepless in Brooklyn」を制作したことがありましたね。

川上 俺らは向こうに2、3カ月住んで、向こうで曲を作るということをやりました。

 アパートみたいなところに住んでたんですか?

川上 一軒家を借りて、メンバー4人で共同生活(笑)。

 へー、ごはんとかどうしてたんですか?

川上 バラバラだったり、一緒に食べに行ったり。あとヒロ(磯部寛之)がスパゲッティを作ってくれたりして。でもほかに友達もいないから、本当に寂しかったし、本当に帰りたかったですよ(笑)。

 ええー、そうなんですね。

川上 それこそ、街のいたるところにおしゃれな人がいるし、地下鉄で演奏してるミュージシャンとかいるんだけど、みんなめちゃくちゃうまいしカッコいいの。俺、今ここでギターを渡されて「演奏しろ」と言われても、稼げないなと思って、音楽を辞めようかと思うぐらい凹んだ。だからブルックリンに行った最初の頃は、自分が嫌いになった。

 どうやって持ち直したんですか?

川上 3日スタジオに入って1日オフみたいなサイクルを2、3カ月続けて、その中でやっと納得いく曲ができて、最後の歌入れをするときに「あ、なんかイケそうだ」という気持ちになれたんですよね。もともとのデモは洋楽のような雰囲気で、英語で歌ってたんだけど、レコーディングブースに立ったときに頭の中に違うメロディが浮かんできて、それがめちゃくちゃ日本っぽい曲で。それまではどこかで「俺は外国人になりたい」と思ってたんだけど、自分が日本人だということは変わらないし、むしろそれでいいんだなと思えた。自分の中で腑に落ちたことで腐らずに済んだんですよ。


 ああ、なるほど。僕も大学生くらいまでは英語で歌ってたけど、別にネイティブでもないのに、ずっとこれをやるのは無理だと感じて。フォークも好きだから、日本語の歌のよさをミックスしていくことで僕らにしかできないものを日本で届けようと思ったんです。でも今回ロンドンに行ったときに、自分のテンションの上がり方とか、朝起きたときにめちゃくちゃ体調がよかったこととか、シンプルに体が喜んでるのを実感して。ということは、自分の中にあるロンドンのエッセンスをもう少し引き出したほうがいいのかもしれないと思ったんですよ。でも2カ月も向こうにいたらその感覚も変わるのかも。僕らがいたのは2週間くらいだったから、いい刺激として受け取れたけど(笑)。

川上 そうなのかな?

 短かったからロンドンのいいところだけを見られたけど、長くいたらわかんない。やっぱり言葉の壁や体格の差は短い期間でも感じましたし。だから今後また行くとしても2週間くらいがいいのかも。

川上 いや、長い期間行ったほうがいいよ。向こうに彼女を作って楽しめるくらいになってほしい。メンバーで共同生活しながらっていうのも、最高だよ。

 うちはメンバーで共同生活はできそうにないです!(笑)。昔のライブは、お客さんを楽しませてなんぼ、みたいな向き合い方だった。だからショーっぽかったんですけど、ロックは自分たちが楽しんでなんぼだなと。俺らはアイドルじゃないし、ポップバンドでもない。ロックバンドとして自分たちが一番カッコいいと思えるライブをするのが正しいという考え方にシフトしていった時期があって。それから今みたいなライブのスタンスになったんですよね。

 へえ、そうだったんですね!

川上 ちょっと話が逸れるけど、ファンの人から声かけられたときに、「応援してます」と言われることがあるでしょ?

 よく言われますね。

川上 もちろん「ありがとう」とは思うよ。でも同時に悔しいんだよね。だって俺らは好きでバンドをやってて、それを観に来たいから来てるんでしょ?っていう。スタンスとしては「お前がお金を稼いでチケット代を払えるようにがんばれ!」とむしろ俺らが応援する立場だと思うんですよ、ロックバンドは。だから「応援してます」って言われてるうちはまだまだだなって。

 ああ、確かに。

川上 ロックバンドは自分たちが一番楽しむことを最優先にするべきだと思う。だから常に全力でやるんですよ。そこはロックバンドの責務みたいなものとしてぬかりなく。

 カッコいいなー。応援される存在じゃなくて、応援する存在にならないとな!

川上 お客さんを意識しすぎちゃうと自分を見失ってしまう気がするんですよね。そこは気を付けてます。今回は呼んでいただいたうれしさもあるから、全力で楽しませてもらいますよ。

 楽しむ=全力で潰しにかかりますということですよね、今の話だと(笑)。いやあ、本当に気が抜けない。ワンマンの日は、自分たちの持ち味を思い切り出して、観てる人を巻き込んでいくスタイルで臨むのでいつもと変わらないんですけど、対バンの日に関しては、あまり自分たちがホストと思ってなくて。単純にライブを観たい人を誘っているので、自分たちの“好き”が詰まってる2日間を僕らもワクワクして過ごすと思うし、そこでマジックが起きてほかのフェスにないものが生まれればいいなと思いますね。




[Alexandros](アレキサンドロス)

2007年に本格始動し、2010年インディーズレーベルRX-RECORDSから1stアルバム「Where's My Potato?」をリリース。2015年3月にシングル「ワタリドリ / Dracula La」でメジャーデビューし、6月にはアルバム「ALXD」を発表した。2016年には6枚目のフルアルバム「EXIST!」をリリースし、オリコンウィークリーチャートで初登場1位を獲得。2018年8月に千葉・ZOZOマリンスタジアムでワンマンライブ「VIP PARTY 2018」を開催し、3万5000人を動員した。2023年12月に配信シングル「todayyyyy」をリリース。2024年3月16、17日に東京・青山学院記念館にてライブイベント「Back To School!! celebrating Aoyama Gakuin's 150th Anniversary」を開催。2024年10月に神奈川・相模原で主催フェス「[Alexandros] presents THIS FES '24 in Sagamihara」を行う。