UKロックに魅了された理由

──先ほどから話に出ていますが、お二人のルーツにはUKロックという共通点がありますね。さまざまな音楽がある中で、UKロックのどういうところに魅力を感じたんでしょうか。





川上 いいですねー。その話、聞きたい!

 僕は一番影響受けたのがThe Libertinesなんですね。演奏がカッコよかったり歌が超うまかったりするわけではないけど、ピート・ドハーティとカール・バラーの不安定な関係性も含めて、生き様が音楽に出ているのが魅力的だなと思って。The Libertinesの退廃的な美は、人間的な部分から来てると思うんです。そういう“人”の部分をUKロックから感じやすかった気はします。

川上 なるほどね。僕は「やっぱりロックンロールと言えばイギリスでしょ」と思うところがあって。パンクだろうがグランジだろうが、どこかイギリスっぽい。AerosmithもLed Zeppelinっぽいし。で、ロックというのはポピュラリティに対する反骨のジャンルであって、イギリス人の気質や文化が、反骨精神そのものだと思ってるんですよね。

 それ、めっちゃわかります。アメリカは自由の国だから、自分からゼロイチを生み出していこうというエネルギーの向かい方なんですよね。でもイギリスは体制や階級が昔からあって、既存のシステムにどう抗うか、というのが人の中に根付いている。だからロック=反骨という意味ではイギリスのほうがパワフルな印象で。


川上 しかも反骨をストレートに歌にしたとしても、ちょっと皮肉めいてるんだよね。その皮肉もNirvanaみたいにペシミスティックに言ってなくて、シャレが効いてるからそこまで嫌な感じでもない。抗いながらも「まあ、別にどうにかなるじゃん」という感じもあって、そういう感覚が自分に合うなと思ってからより好きになっていったんだよね。

 アメリカのロックは途中でショービジネスになっていったイメージあるんですよ。だから僕も、UKロックの国の背景や人の生活が音楽になってる感じに惹かれたんだなと、今の話を聞いて改めて思いました。




海外レコーディングで得たもの

──バニラズは昨年、初のイギリス・ロンドンでのレコーディングを行い、そこで録音した「SHAKE」を今年1月に配信リリースしました。向こうでのレコーディングはどうでしたか?

 最高でしたね。レコーディング以外の部分でも完全に浮ついてた(笑)。まったく雨が降らなくて毎日晴れていたし、気候もすごく寒いわけじゃないから過ごしやすくて。サッカーも観たし、ロイル・カーナーのライブも観に行ったし、ToDoリストをきれいに消化できた感じで。

川上 最高だね!

 街中には、芸能人じゃないんだろうけどカッコいいヤツらがいっぱいいて、自分の人生をちゃんと選択してそれを貫ければ、みんなカッコよくなれるんだなと再確認しました。


─[Alexandros]もアメリカ・ブルックリンに滞在しながら、2018年リリースのアルバム「Sleepless in Brooklyn」を制作したことがありましたね。

川上 俺らは向こうに2、3カ月住んで、向こうで曲を作るということをやりました。

 アパートみたいなところに住んでたんですか?

川上 一軒家を借りて、メンバー4人で共同生活(笑)。

 へー、ごはんとかどうしてたんですか?

川上 バラバラだったり、一緒に食べに行ったり。あとヒロ(磯部寛之)がスパゲッティを作ってくれたりして。でもほかに友達もいないから、本当に寂しかったし、本当に帰りたかったですよ(笑)。

 ええー、そうなんですね。

川上 それこそ、街のいたるところにおしゃれな人がいるし、地下鉄で演奏してるミュージシャンとかいるんだけど、みんなめちゃくちゃうまいしカッコいいの。俺、今ここでギターを渡されて「演奏しろ」と言われても、稼げないなと思って、音楽を辞めようかと思うぐらい凹んだ。だからブルックリンに行った最初の頃は、自分が嫌いになった。

 どうやって持ち直したんですか?

川上 3日スタジオに入って1日オフみたいなサイクルを2、3カ月続けて、その中でやっと納得いく曲ができて、最後の歌入れをするときに「あ、なんかイケそうだ」という気持ちになれたんですよね。もともとのデモは洋楽のような雰囲気で、英語で歌ってたんだけど、レコーディングブースに立ったときに頭の中に違うメロディが浮かんできて、それがめちゃくちゃ日本っぽい曲で。それまではどこかで「俺は外国人になりたい」と思ってたんだけど、自分が日本人だということは変わらないし、むしろそれでいいんだなと思えた。自分の中で腑に落ちたことで腐らずに済んだんですよ。


 ああ、なるほど。僕も大学生くらいまでは英語で歌ってたけど、別にネイティブでもないのに、ずっとこれをやるのは無理だと感じて。フォークも好きだから、日本語の歌のよさをミックスしていくことで僕らにしかできないものを日本で届けようと思ったんです。でも今回ロンドンに行ったときに、自分のテンションの上がり方とか、朝起きたときにめちゃくちゃ体調がよかったこととか、シンプルに体が喜んでるのを実感して。ということは、自分の中にあるロンドンのエッセンスをもう少し引き出したほうがいいのかもしれないと思ったんですよ。でも2カ月も向こうにいたらその感覚も変わるのかも。僕らがいたのは2週間くらいだったから、いい刺激として受け取れたけど(笑)。

川上 そうなのかな?

 短かったからロンドンのいいところだけを見られたけど、長くいたらわかんない。やっぱり言葉の壁や体格の差は短い期間でも感じましたし。だから今後また行くとしても2週間くらいがいいのかも。

川上 いや、長い期間行ったほうがいいよ。向こうに彼女を作って楽しめるくらいになってほしい。メンバーで共同生活しながらっていうのも、最高だよ。

 うちはメンバーで共同生活はできそうにないです!(笑)