年始にリリースされた新曲たちを何気なく聴き流していたら、The Stone Rosesを彷彿とさせる(というかほぼそのまま)なサイケデリックロックが流れてきて、「おぉ!」と思っていたらリアム・ギャラガーの歌声が聴こえてきたので、ひっくり返りそうになってしまった。The Stone Rosesの名前が出てきたのも当たり前の話で、1月5日にリリースされた「Just Another Rainbow」はリアム・ギャラガーとジョン・スクワイアのコラボレーションによって生まれた楽曲である。
ブルージーな空気を纏いながら縦横無尽にうねるジョン・スクワイアのサイケデリックなグルーヴの中で、リアム・ギャラガーが唯一無二の堂々たる歌声でそのサウンドスケープをどこまでも拡大していく「Just Another Rainbow」は、まさに「リアムとジョン・スクワイアのコラボ」と聞いてファンが夢想するようなサウンドが実際に繰り広げられる快作だ。後半に待ち構えるジョン・スクワイアのソロも格別で、5分36分という楽曲の長さもまったく気にならない、むしろライブではもっと長くてもいいぞ! と言いたくなるくらいである。
ソロ活動以降は両者の音楽的な交流もより活発になり、幾度となくライブで共演したり、楽曲を共作するようになった。2017年にリリースされたNoel Gallagher's High Flying Birdsの「Holy Mountain」(ポールはオルガンで参加)も名曲だが、2016年に両者が共作して書き下ろしたThe Monkeesの「Birth Of An Accidental Hipster」は(曲名からも感じられるであろう)皮肉めいたユーモアから60年代へのリスペクトまで、隅々まで両者の魅力が詰まった快作である。
ところでポール・ウェラーとノエルといえば、2013年にUKロック好きを騒がせたのが、両名がデーモン・アルバーン&グレアム・コクソンのライブ(『Teenage Cancer Trust』)にゲスト出演して披露されたBlur「Tender」のパフォーマンスである(ノエルはギター、ポールはドラムを担当した)。90年代のUKロックシーンにおける象徴的なライバルだったOasisとBlurが約20年の時を経て、(部分的にではあるが)共演するにまで至ったのだ。
さらに2017年にはGorillazの「We Got The Power」にノエルがバックボーカルとして参加。デーモン・アルバーンとノエルの関係性が、決してあの日限りのサプライズではないということを音源を通して証明したのである(しかも揃ってテレビ出演までしている)。かつての最強のライバルは、今では同じ時代を生き抜いた同志になった。
そんなノエルの現時点での最新作となる『Council Skies』(2022年)では、ポール・ウェラーと同様に自身がリスペクトしてやまない先輩ミュージシャンの一人であるジョニー・マーがなんと3曲(「Pretty Boy」「Open the Door, See What You Find」「Council Skies」)に参加していることも大きな話題となった。過去の作品でもアルバムに1曲というペースで共演していたジョニーだが、同作における大々的なフィーチャーぶりは、彼が奏でるギターサウンドもまた自身の音楽性の一部であるという、今のノエルの考え方を示しているのかもしれない。
また、同作といえば注目したいのがボーナスディスクに収録されたリミックス楽曲である。Pet Shop Boysが大胆に再構築した「Think Of A Number (Pet Shop Boys Magic Eye 12" Remix)」も相当に衝撃的だったが、やはり多くのファンを驚かせたのはロバート・スミス(The Cure)が担当した「Pretty Boy (Robert Smith Remix)」だろう(ドラムもジェイソン・クーパーが演奏している)。だが、誰より驚いたのは、初めて「Boys Don't Cry」を聴いた時からThe Cureの大ファンだったと語り、依頼するにあたってメールの本文を「やあ、ロバート。ノエル・ギャラガーです。(“Hi Robert, it’s Noel Gallagher.”)」から書き始めたノエル自身かもしれない(リミックスを手掛ける以前まで両氏は直接会ったことはなかったようだ)。結果として、同リミックスは部分的ではありつつも、OasisとThe SmithsとThe Cureが一つの楽曲に集結しているという、90年代のUKロックファンが知ったら卒倒するような代物となっている。そんな大事件がカジュアルに実現できてしまうのも、今のノエルの充実したムードを象徴しているといえるだろう。
ジャンルや世代、過去の悪口さえも超えて繋がるリアム・ギャラガー
一方で、リアム・ギャラガーに関してもジョン・スクワイアとの「Just Another Rainbow」以前から、さまざまなアーティストと積極的にコラボレーションを行なってきた。ソロキャリアの初期(厳密にはBeady Eye解散後、ソロ活動前の期間)におけるもっとも象徴的な出来事の一つは、2015年に『TFI Friday』(イギリスで1996年から2000年にかけて放送された娯楽番組)が復活特番を放送した際に披露した、ロジャー・ダルトリー(The Who)との「My Generation」だろう(しかもドラムはザック・スターキーである)。リアムがThe Whoに大きな影響を受けているのは有名な話だが、このパフォーマンスにおける見事な仕上がりぶりや、その後も交友を深める両者の相性の良さ(2019年にはリアムがThe Whoのツアーのサポートアクトとして出演。ロジャーもインタビューでたびたびリアムについて好意的に語っている)は、今思えば、以降のソロ活動での目覚ましい活躍を予兆するものだったのかもしれない。
この出来事がきっかけとなったのかは不明だが、ソロアーティストとして初のアルバムを発表した2017年は、これまでにないほどリアムがオープンで自由なムードを纏っていた1年となった。アメリカ・カリフォルニアで開催されたFoo Fighters主催のフェスティバル『CAL JAM』では、同バンドのステージにジョー・ペリー(Aerosmith)とともにサプライズで登場してThe Beatlesの「Come Together」を披露。さらにイギリス・マンチェスターで開催されたチャリティコンサート『One Love Manchester』にもサプライズ出演したリアムは、それまで幾度となく喧嘩を売り続けてきたColdplayのクリス・マーティン&ジョニー・バックランドと一緒に「Live Forever」を披露するという驚きの光景を見せたのである(このパフォーマンス以降は同バンドをすっかり褒めるようになったのもリアムらしい)。
Foo Fightersとの共演に触発されたのか、リアムの現時点での最新作である『C’MON YOU KNOW』(2022年)の先行楽曲として発表された「Everything’s Electric」は、デイヴ・グロールとの共作(ドラムもデイヴ自身が担当している)による、劇的にサイケデリックでありながらも突き抜けた爽快感に満ちた痛快なロックナンバーに仕上がっている。
あるいは、いや、だからこそ今のリアムは、「Just Another Rainbow」のようにOasis時代を想起させるようなコラボレーションについても、堂々と行なえるようになったのかもしれない。個人的に、これまでのリアムのコラボワークスで最も好きなのが、まさに90年代を共に生きた盟友である元The Verveのリチャード・アシュクロフトが2021年に発表した「C'mon People (We're Making It Now) (feat. Liam Gallagher)」だ。リチャードが2000年に発表した楽曲をアコースティックギターを中心に再構築して二人でデュエットした同曲は、原曲以上にポジティブで楽観的なムードに満ちた、聴いていて思わず笑顔になってしまうような信じられないくらいの傑作である。元々は20年以上前の楽曲とは思えないくらいの瑞々しさは、まさに両者の「今」のありのままの魅力が詰まっているからこそ感じられるものだろう。