2月9日公開の映画『夜明けのすべて』のプレミアナイトイベントが1月11日にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、W主演を務める松村北斗、上白石萌音と、光石研、三宅唱監督が登壇。
松村と上白石はお互いの印象や撮影の裏話について、そして「もし同じ会社に勤めていたら」という“もしもトーク”を展開した。(取材・文:柚月裕実)
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●松村北斗「生きるのが少し楽になる、そんな作品になっている」
原作は、瀬尾まいこの同名小説で、監督は『ケイコ 目を澄ませて』などで知られる三宅唱監督が手がけた。
館内にはゆっくりとしたBGMが流れ、大スクリーンには満点の星空が広がり時折星が流れるなど、リラックスしたムードで観客を迎えた。会場中央から松村らが登場すると大きな拍手で迎えられた。
松村が演じる山添孝俊は、以前は恋愛も仕事も順調だったが、パニック障害を抱えたことで人生が一変する。松村は「この映画は語ったら長くなってしまいますが」と前置きし、「原作の帯にもあったように、生きるのが少し楽になる、そんな作品になっています。ここにいる皆さんはもちろんのこと、 この映画が届く限りの全ての人が少しでも楽になるように、この映画が広く届けばいいなと思っております」と挨拶した。
上白石が演じる藤沢美紗は、普段はおおらかな性格だが、PMS(月経前症候群)によって月に1度、イライラが抑えられず、怒りを爆発させてしまう。
上白石は「撮影してたときからこの映画が大好きだなとずっと思ってまして」と語り、「手前味噌なんですが、今もその気持ちがどんどん大きくなっていっているところです」と告白。「今日初めてお客様方に見ていただける日なのでとてもドキドキですが、楽しい時間になれば」とにこやかに語りかけた。
山添と藤沢が務める栗田科学の社長、栗田和夫役を演じる光石研は「寒い中おいでいただきありがとうございます」と気遣い、「この映画は自信を持って提供できる映画になっております。今日帰り、皆さんご飯行ってください。素敵な夜になると思います。いい夢見れると思います。楽しんで帰ってください」とあたたかいメッセージを送った。
●NHK連続テレビ小説で夫婦を演じた2人が再共演。お互いの現在地
監督と脚本(和田清人と共同脚本)を担当した三宅監督は、「今回、瀬尾さんが書かれた素晴らしい小説を、本当に素晴らしい俳優たちと 素晴らしいスタッフと一緒に作ることができまして。ようやく皆さんに見ていただけるというのが本当に嬉しくて仕方がない」と喜びを噛みしめた。
松村と上白石はNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役を演じており、本作では映画初共演&W主演を務め、同僚役として最高の理解者となる特別な関係性を演じる。
お互いの俳優としての魅力について聞かれると、松村は「1つぐらいに絞った方がいいですよね?」と挟むと、「(沢山あげても)全然いいです」と上白石。松村は「多分、時間足りないと思いますんで」と続け、上白石の瞬発力を挙げ「感情を爆発させる力とかもありますが、その場に馴染む力」と称賛。
「この映画は観ていただいたらわかると思うんですけど、何が主人公だって言ったら、きっと街なんじゃないかなって思うような映画」と続け、「初日のワンシーン目から、本当にもうその辺、15分ぐらいかけて家から歩いてきたのかな?と思うような佇まいと 声の使い方、喋り方とかをされるんですよ」「何を感じてるか僕はわかんないですけど、そこの感覚っていうものはものすごい鋭いというか、それは朝ドラもそうでしたけど、時代を感じ取って自分に反映するってのは、本当に他の追随を許さないんじゃないか」と魅力を語った。
上白石は「ちょっとだけいじってます?(笑)」とツッコミを入れるようにコメントすると、松村は「ほんとにこれ。ほんとに。そんな素敵な女優さんでございます」とまとめた。
松村のコメントを受けて、上白石は「ここに居さえすればいいんだなっていう現場を、監督を始めスタッフの皆さん、キャストの皆さんが既に作っていてくださったので、もうそこに行けば藤沢さんになれる」と感謝。「この方々の胸をお借りしてやれば大丈夫だっていう安心感がある現場なので、そう言っていただけてありがたいです」と受け止めた。
●上白石萌音が語る俳優・松村北斗の凄み
一方、上白石から見た松村の俳優としての魅力は、「ほんとに他の追随を許さない」と松村の言葉を用い、「松村さんは役に溶け込むのがほんとに早い方というか、その人としてワンシーン目からいらっしゃるし、その人として話すっていうのすごく自然にされる方」と称賛。
「人に溶け込んで入れる役者さんという感じがしていて。ほんとにいつも引っ張っていただいている」と語った。『カムカムエヴリバディ』の現場では、撮影期間が短かったことや岡山弁に必死だったと言い、実はあまり話してないとことも明かしていた。
映画『ケイコ 目を澄ませて』が第72回ベルリン国際映画祭ほか20以上の映画祭に出品され、第77回毎日映画コンクールで日本映画大賞・監督賞他5部門を受賞するなど国内外で絶賛を浴びる三宅監督。
光石は「三宅さんの評価っていうか評判は、他の映画人からたくさん聞いてましたので、声をかけていただけて本当に嬉しくて。さっきもみんな話してたんですけど、おっかない監督かなって最初は思ってたんですけど、そんなことなくて」とリーダーシップを持ってる監督だと語った。一方の三宅監督も光石について「最初は緊張しましたよ」とお互いの印象を語った。
また上白石は、三宅監督について「本当に現場が楽しくて。でもそれってきっと監督が誰よりも楽しんでいらしたからかな」とコメント。さらに「忘れられないのが、 もう初日のワンシーン目取り終わった瞬間に監督が撮り終わっちゃって寂しいっておっしゃったんですよ。 それで私たちがびっくりして、もう寂しいんですか?って言ったら、『だって映画、ドラマって楽しくね!?』って(笑)」と語った。
松村も「僕らにも『ちょっと今のなんか違和感あるかもしんないんだけど、どう思う?』って聞いてくれたりとか。 僕らは『ないです』って言ったら、『オッケー、じゃあ言っちゃおう』とか。(松村が)『こういう違和感があって…』って言ったら、『確かに!』とか。それは僕らだけじゃなくて、 三宅さんの下についてるであろうスタッフさんたちにも『うーん』って言われたら、『確かにそれだ!』って言って採用していたりとか。本当にフラットで一丸というか、みんなで作ったんだ、自分はなんか 端っこにいる人間じゃないんだって全員に思わせてくれるような、映画を作りながら人間関係を作ってるよう」と、本作を手がけるのに相応しい監督だと改めて思ったと話す。
三宅監督は「別に僕のことは良くてですね(笑) そういう小説なんですよ。そういう映画なんで、そういう会社なんですよ。なので、そういう風に 作りたいなっていうのは、もうプロデューサーははじめ、喋ってはいたんです」と原作小説の空気感を大切にしたと明かした。
●もしも3人が同じ会社で働いていたら
その後、トークは山添と藤沢が働く栗田化学を舞台に、もしも同じ会社にいたら、それぞれどんな社員になっていたかという“もしも”トークへ。
司会者から「誰がリーダーですかね?」問いかけられると、すかさず松村が「光石さんじゃないですか」と続け、マイクを持ちながら手をすりすり、ゴマすりの仕草をしてみせた。
光石が三宅監督が相応しいのではないかと話を振ると、三宅監督はかつて映画館でアルバイトをしていたが、長年使えないバイトだったと自虐的に語り、上白石は栗田化学はそれすらも大切にしてくれそうだとコメント。
一方、松村は「会社でどんな役割を担うのか」と聞かれると、腰に手をあてながら「すー……」と発し、しばし考えた様子。「鈴虫やっちゃいました」と笑いを誘い、「ギリギリ遅刻してくる奴じゃないですか? 苦手なんですよ、約束時間通りに行くの。だから『もういいってあいつ』って肩身狭い思いしてる…」と想像を膨らませていた。
上白石は意思決定が苦手だと明かし、栗田化学だったら受け止めてくれるのではないかと、物語の舞台となる栗田化学の社風を盛り込みながら“もしも”トークに花を咲かせていた。
●上白石萌音「常に完璧に幸せでハッピーな人ってなかなかいない」
最後に松村は「今日は足を運んでいただいてありがとうございました。そしてこの後映画を見ていただくということで、このイベントを通して 結構緊張していたんですけど、だんだん見慣れてくると、みんなが映画に対して、観る前から期待感であったりとか、尊敬みたいなものを、向けてくれてるような風に伝わってきていて、すごく安心してこの後の上映を迎えられるなという思いです」
「そんな皆さんに見ていただいて、さらに近くの、まだ今日少し生きづらい人に対して、少し手を伸ばしてみようって思うような上映後になってくれたらいいなと思いました。今日はありがとうございました」と言葉を紡いだ。
上白石は「この映画が説明される時は、 生きづらさを抱えた2人の物語っていう風に説明がされてるんですけど、この映画に出てくる人たち もそれぞれみんな何かを抱えていますし、もっと言うと今日この皆さんもきっと何かしらあの抱えているものがおありなんだろうなと思います」
「常に完璧に幸せでハッピーな人ってなかなかいないと思うので。なので、たまたまこの映画は山崎くんと藤沢さんが主人公になっていますが、 あの、そういう意味では、みんなの、全ての人のための映画だと思います。この作品に出会えてよかったなと思ってくださる方のもとに作品が届きますことを願っております」と締めくくった。
(取材・文:柚月裕実)