楽曲制作・ボーカル・ラップはもちろん、
映像制作、イラスト制作なども手がける新世代型の
マルチクリエイター、
idom。昨年9月にEP『GLOW』が各チャートで
好アクションを記録するなど、
次世代音楽シーンの旗手としての存在感を
高めている。 


2nd EP『EDEN』はidomのルーツであるR&B、
ヒップホップ、チルなどをアップデートさせた
サウンド、彼自身の感情や経験が映し出された
リリックを堪能できる作品。
ライブを経験したことで、“ダイレクトにリスナーと
繋がりたい”という思いが芽生えたことも、
本作の躍動感に繋がっている。
 『THE FIRST TIMES』初登場となる
今回のインタビューでは、これまでのidomの
キャリア、2nd EP『EDEN』の制作について
語ってもらった。


 ■「楽器できなくても、パソコンで打ち込んで曲を作れるソフトだよ」「じゃあ、今からソフト買ってやってみます」って 
──idomさんは2020年に音楽活動をスタート。
イタリアのデザイン事務所に就職する予定が、
パンデミックにより頓挫。
その後、楽曲を作り始めたそうですね。
 はい。やりたいことができなくなって、
自分の中でフラストレーションがたまっていたというか、ちょっと落ち込みやすくなっていて。
それを解消するためにも、違う方向に気持ちを持っていかないとダメだなと思ってたんですよね。
もともとデザインをやっていたのもあって、
クリエイティブなことは好きで。
音楽は楽曲だけじゃなくて、映像、イラスト、アニメーション、デザインを複合的に扱えるし、
面白いなと。


 ──クリエイティブなパワーを音楽に転換させた、と。 そうですね。直接のきっかけは、
音楽をやってる先輩に「やってみたら」と
言われたことなんです。イタリアに行けなくなって
落ち込んでるときに、食事に誘ってもらって。
そのときに「音楽やってみたら?」ってDTMを勧めてくれたんですよね。
「DTMって何ですか?」
「楽器できなくても、パソコンで打ち込んで曲を作れるソフトだよ」
「じゃあ、今からソフト買ってやってみます」って、その日の朝までに1曲作って。
本当にその場のノリだったんですけど、
その曲をYouTubeにアップしたら、先輩が「すごいな。お前、才能あるんじゃね?」って言ってくれて。そこからですね、探り探りはじめたのは。最初は周りに自慢したいというか(笑)、友達に「こんなこと始めてみたぜ」っていう感じだったんですけど、YouTubeやTwitterでいろんな人がコメントをくれるようになって。“友達だけじゃなくて、知らない人も聴いてもらえる曲を作ってみよう”と思うようになって。それまでバンドとかもまったくやってなかったし、むしろ“人前に立って音楽やるとか無理”という感じだったので、まさか自分がプレイヤーになるとは思ってもみなかったです。 


──音楽自体は好きだったんですか? 
聴くのは大好きでした。学生の頃は洋楽がメインで、
R&Bが中心。がっつりR&Bの曲だったり、
R&Bを取り入れたポップス、ソウル、ファンクみたいなものを結構聴いてましたね。
邦楽はほとんど触れてなかったんですけど、
自分で曲を作るようになってからちょっと
ずつ聴き始めました。 


──なるほど。音楽活動を始めたばかりの頃は、友達や仲間と一緒にMVを作ってましたよね。 最初の最初は自分ひとりでMVも作ってたんです。それをTwitterとかにアップしてたら、「idom、何やってんの?」みたいな感じで友達から反応があって。映像やってる後輩から「俺も手伝わせてください」と連絡があったりして、一緒に作り始めた感じですね。と言ってもお金もぜんぜんなかったし(笑)、やれることの範囲も狭くて。もともと音楽でやっていこうという気持ちもなかったので趣味の延長というか。 



──音楽で勝負してみようと思ったタイミングは? はっきりしたタイミングというより、ちょっとずつですね。いろんな人に「idomくんの曲、いいよね」って言ってもらえるようになって、徐々に“ちゃんとやってみようかな”と思うようになって。あと、CMタイアップにエントリーしてみませんか?というお話をいただいたのも大きかったです。それまでも真剣に曲作りはやってたんだけど、そのときにさらに熱量が上がったというか。 


──そして昨年9月にEP『GLOW』でデビュー。反響はどうでした? タイトル曲の「GLOW」をドラマ(ドラマ『競争の番人』)の主題歌にしていだいて。お仕事系のドラマということもあって、30代、40代のリスナーがすごく増えたんですよ。それまでとはまったく違う年齢層の方々に聴いてもらえたり、「idomくんのことをチェックするためだけにSNSをはじめました」という方もいて、うれしかったですね。楽曲としては、それまで自分がやったことがない要素をかなり詰め込んでいて。もともと持っていたR&B、チル系のヒップホップのテイストもありつつ、J-POP的なサウンドを目指したんです。メジャーでやっていくタイミングで、新しい一面を見せられたんじゃないかなと思ってます。
 ■“この人は本当に楽しみながらやってるんだな”というところに魅力を感じる ──デビュー後、音楽に対するスタンスにも変化がありましたか? 最初は好奇心で始めたことだったし、遊びの感覚でやっていたところもあって。もともと持っていた“音楽を楽しむ”とか“探求心”は忘れないようにしたいと思ってますね。リスナーとしてもいろんなアーティストの曲を聴きますけど、“この人は本当に楽しみながらやってるんだな”というところに魅力を感じることも多くて。自分もそういう部分は大切にしていきたいと思ってます。
 ──2nd EP『EDEN』からも、idomさんが奔放に音楽を楽しんでることが伝わってきました。本作の制作にあって、何かテーマはあったんでしょうか? 『GLOW』は“元気が出る曲”というテーマがあったんですけど、今回は僕自身の内面だったり、idomの世界観を表現したくて。自分のルーツに戻す、原点回帰したEPにしたいと思って作り始めました。タイトル曲の「EDEN」はまさに“楽園”というか、自分がいちばん美しいと感じている世界に浸っているような感覚があって。リスナーの皆さんを自分の世界に引き込める楽曲にしたかったんです。 ──idomさんにとっての理想郷って、具体的にはどんなイメージなんですか? この楽曲で描いていることでいうと、自分の愛する人だったり、大きな愛で包まれるような感じというか。“あなたの腕でただ眠らせてほしい”という思いですね。あとは僕自身がいちばん自然でいられる場所のイメージもありました。住んでいる岡山の街だったり、自分がナチュラルに、気取らずにいられる環境が理想郷なのかなと。 
──なるほど。「EDEN」のトラックはR&B、ハウスなどが混ざり合っていて。すごく独創的なバランスだなと。 自分の原点であるチルっぽいR&Bやヒップホップ的なビートを刻むところからはじめたんですけど、やっているうちに、ライブのことを思い出して。去年初めてライブをやらせてもらったんです。今まではただ自分が好きな曲、“カッコいいな”と思う曲を作ってたんですけど、お客さんと向き合って音楽をやる機会が少しずつ増えてきて、みんなで盛り上がれるような曲がもっと欲しいと思うようになって。「EDEN」に関しては、R&Bの感じを残しつつ、ハウスやディスコのグルーヴを加えたら、うまくマッチしたという感じですね。この曲が出来たことで、EP全体を通して、ライブで聴きごたえがある作品に仕上げたいという気持ちになりました。 ──「Memories」は“愛しい思い出”を描いた楽曲。これは実体験がもとになっているんですか? そうですね。大切な人との別れを寂しく思ったり、その人との思い出を思い浮かべて。自分には“いい思い出すぎて、思い出したくない”と感じるくらいの経験があるんですが、同じようなことは誰にでもあるんじゃないかなって。恋人でも家族でもいいんですが、聴いてくれる人の大切な思い出に少しでも寄り添えたらなと思って作ったのが、「Memories」ですね。
 ■自分で録音しているのもあって、本当にいろいろと試しながら歌ってる ──エモーショナルなボーカルも印象的でした。歌に関しても、作品やライブを重ねるなかでイメージ通りの表現に近づいているのでは? 楽曲制作を始めた当初から、いろいろと実験してきた感じがあって。自分で録音しているのもあって、本当にいろいろと試しながら歌ってるんですよ。歌詞やメロディにマッチする歌い方もそうだし、喉の奥で鳴らすのか、鼻の先で鳴らすのか、どれくらい上ずるのかとか。いろんなパターンを試しているうちに、歌い方のレパートリーも増えてきましたね。ライブでの歌い方はまだ探り探りというか。しっかりピッチが取れていて、ダーンと声が通るだけが正解じゃないと思うし、日々考えながら実験を繰り返してます。 
──「Control」はキック、ベースの音色とアレンジが尖っていて。カッコいいトラックですね。 カッコいいですよね!この曲はToru IshikawaさんとSILLY TEMBAに先にトラックを作っていただいたんです。それに対して自分がどういうアンサーをするか?という感じの制作だったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったですね。今回のEPの他の3曲(「EDEN」「Memories」「Loop」)もそうだし、普段は自分が0から作っていて。トラックメイカーやプロデューサーとご一緒することで、今まで自分になかったトップラインを引き出してもらった感覚があって。歌詞においても挑戦的なことができたし、いい化学反応が生まれたんじゃないかなと。こういう作り方は今後もどんどんやっていきたいです。
 ──「Loop」はシティポップのテイストが感じられる楽曲。ギターも効いてるし、また違った手触りの曲ですね。 そうですね。実はこの曲、もともとは楽曲制作をはじめて半年くらいの時期に作った曲で。EPの制作を進めていくなかで、「Loop」の世界観が合うんじゃないかと思ったんです。どういうアレンジにしようかな?と考えたときに、MONJOEさんにお願いするのがいいんじゃないかなと。「帰り路」という曲をリミックスしてもらったり、ライブでご一緒したり、以前から交流がある方なんです。「Loop」はもともとファンクやトラップの要素がある曲だったんだけど、MONJOEさんにアレンジしてもらって、アーバンな雰囲気やオルタナっぽい要素が加わって。それを踏まえてトップラインを変えたり、歌詞も一部書き直したし、全体的にブラッシュアップできたと思います。 ──“君と何度だって確かめ合おう”というラインも印象的でした。 ループしてる日々をもう一度みつ見つめ直すというか。当たり前に思っていたり、同じようなことの繰り返しだなと感じることもあるだろうけど、“この日常って、やっぱり大切だよね”って思い返えせるような歌詞にしたかったんです。

 ■やっていくうちに僕自身のことを歌いたくなってきた 
──idomさん自身の考え方、価値観がしっかり反映されている、と。シンガーソングライター的な楽曲と言えるのかも。 うん、歌詞はそういうものが多いと思います。初期の頃は自分とぜんぜん関係ないことも書いてたんですけど、やっていくうちに僕自身のことを歌いたくなってきたんです。特に今回のEPでは、リスナーの皆さんとリンクすることを目指していて。そのためには自分の心情を描いたほうが、身近に感じたり、重ね合わせやすくなるんじゃないかなと。そういう意味では、シンガーソングライター的な歌詞の書き方かもしれないですね。 
──たしかにリスナーがリンクしやすいEPに仕上がっていると思います。引き続き新曲も書いているんですか? 今は「EDEN」まわりの制作をやってますね。楽曲以外の部分、たとえばリリックビデオや映像だったり。自分の世界観を出すという意味でも、そこもしっかりやっていきたいんですよね。MVだったら映像監督、アートワークだったらグラフィックデザイナーの方と一緒にやらせていただくんですけど、「こうしてほしい」と投げるだけではなくて、セッションの感覚を大事にしたくて。 
──idomさんが音楽を選んだ理由とも繋がってますね、それは。 そうなんです。デザイナーとして勉強してきたことだったり、自分が持っているものを発信する場所として音楽という土壌があったので。音楽以外の部分もしっかりやっていきたいと思ってます。楽曲の制作に関しては、いろいろとインプットしつつ、構想を練っているところですね。
 ■“なんでもない日”が僕の中では大事で 
──インプットというのは、どんなことをやるんですか? 音楽を聴いたり、映画を観たり、本を読んだりはもちろんなんですけど、自然の中でいろいろ考える時間も作るようにしてます。目的もなく車で走ってみたり、“なんでもない日”が僕の中では大事で。それも音楽を制作するうえで、大切なインプットのひとつなんですよね。 INTERVIEW & TEXT BY 森朋之 PHOTO BY 大橋祐希 リリース情報 2023.4.12 ON SALE EP『EDEN』 
  
プロフィール idom イドム/大学時代にデザインを専攻し、2020年4月からイタリアのデザイナー事務所に就職する予定であったが、コロナウィルスパンデミックの影響で渡伊を断念。そんな挫折をきっかけに、以前から興味があった音楽制作に初めて挑戦。楽曲制作・ボーカル・ラップのみならず、映像制作、イラスト制作等もこなす。非常に高い完成度とクリエイティブセンス、しなやかなで甘美な歌声に大きな注目が集まり、音楽制作から約1年という早さでソニーのXperiaTMスマートフォンやTikTokのCMソング等を担当。2022年7月フジテレビ月9ドラマ「競争の番人」の主題歌に「GLOW」が大抜擢され2022年9月にデビュー。