こちらも、実際に起こったテック業界のスキャンダルを扱ったドラマ。



主演・プロデューサーを務めるのは、アマンダ・セイフリッド。アン・ハサウェイがアカデミー賞の助演女優賞を受賞した『レ・ミゼラブル』でコゼットを演じ、『マンマ・ミーア!』で一躍有名に。『Mank/マンク』でアカデミー賞候補にもなった実力派ですね。




作品の題材は、実業家エリザベス・ホームズによる詐欺事件。黒のタートルネックとジャケット姿から、“女性版スティーブ・ジョブズ”とも評され、米フォーブス誌の「女性長者番付」で首位に輝くまでに成功した彼女にいったい何が起こったのか。




エリザベスは、名門のスタンフォード大学化学工学部を中退し、 19歳という若さで「セレノス」社を創業。注射を使わず指先から採取した数滴の血液で、コレステロール値などを診断できる機械「エジソン」を開発します。ですが、「何とかなる」と思っていた機械トラブルが解決せず、なんと、血液を希釈したり他の企業の類似機械を分解し模倣したりします。「それ、絶対ばれるでしょう」と思える明らかに無茶な計画に、20代前半の女の子の野心が勝ってしまうのです。




アマンダ扮するエリザベスはいいきります。
「私は失敗したけど犯罪じゃない」。




ピュアで研究熱心だった女性がなぜ詐欺師へと転落したのか。もちろん保身もあったと思うけれど、この言葉からも、人を騙そうとしたのではなく、人の役に立つ人間として、何者かになりたかった彼女の内面がうかがえます。

“ジョブズの再来”、“史上最年少の女性ビリオネア”、“ガラスの天井をなくした女性”とはやし立てるメディア、実際に機能するのを見たことがないテクノロジーに巨額の資金を投入し一攫千金を狙う資産家。そうした期待に応えようしたピュアな気持ちが、間違った方向に転んでしまったのかも知れません。

よくよく考えると、どん底から這い上がるための教訓は数あれど、成功したときの心構えなんて、誰も教えてくれない。群がってくるのは、欲望まみれの投資家や、興味本位のメディアばかり。そのなかで、いまそこにある失敗を認めることは、全てを否定することに等しかったのかもしれません。

リンカーンの名言が思い浮かびました。
Nearly all men can stand adversity, but if you want to test a man’s character, give him power.(「たいていの人は、災難は乗り越えられる。本当にその人を試したかったら、権力を与えてみることだ」)

成功したり上手くいっているときのふるまいにこそ、その人の真価が表れるのかもしれません。自分の足元をすくうのは、ほんのささいな“おごり”かもと気付かせてくれます。

ドラマは、アマンダ演じるホームズが事情聴取に答える映像と、ホームズの若い頃から成功し転落にいたるまでのいくつかのシーンにフラッシュバックしながら進みます。

子供時代も学生時代も、チャーミングだけれど“イケてない”女の子。起業してからは、黒ずくめの“ジョブズファッション”にひっつめのシニヨン。着るものが代わり映えしないなか、エリザベスの感情の機微と心身の疲労を伝えてくれるのは、アマンダの細かい演技。

髪のほつれとそれを直すしぐさ、姿勢、目が据わった笑顔、 etc. いくつかのレビューサイトでも書かれていましたが、状況に応じてアマンダが声色を変えていて、秀逸。アマンダの細かい演技が、滑稽ともとれる詐欺事件に“人間味”を添えて、ドラマとして成立させているような気がしました。

SPUR.JP

◆STORY
「女性版スティーブ・ジョブズ」と評された実業家のエリザベス・ホームズ。2001年父が務めていた会社が倒産するも、スタンフォード大学に入学。研修で訪れた北京で出会ったサニー・バルワニと意気投合し……。

『ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女』ディズニープラスのスターで配信中