俳優デビューを果たしてから19年。
俳優・綾野剛は、社会の落伍者から心優しい医師など、ありとあらゆる役柄を己のものとし、
圧倒的な存在感を与える役者として、
映画やドラマを中心に快進撃を続けている。
切れ長の涼しげな目元と美しい肌、
そして均整の取れたプロポーションというビジュアルに加え、どこか物憂げでクールな
雰囲気の持ち主でもある綾野。
ミステリアスなオーラを放つ一方、
歩くだけで人目を惹きつけてしまう圧倒的な華と、
どこか少年らしさを残すピュアな笑顔が生むギャップで、多くの女性を"綾野剛沼"へと叩き落とし
続けている。
そんな綾野が、ヤクザとして生きるしかなかった男の19歳から40歳までの半生を演じきったのが『ヤクザと家族 The Family』だ。
物語は1999年、とある海辺の町からはじまる。
綾野演じる19歳の山本賢治は、覚せい剤がきっかけで命を落とした元証券マンの父の葬儀に金髪&白の
とパンツという、場に相応しくない恰好で乗り込んでいく。自分を省みなかった父へのいらだちを
抱える山本を、綾野は鋭いナイフのようなオーラをまといながら熱演。その痛々しい雰囲気は、
実年齢30代後半の俳優だとは思えないほどの
リアルさをまとっている。
ある日、柴咲組組長・柴咲博(舘ひろし)をチンピラの襲撃から救ったことがきっかけで、
柴咲とまるで父子のような関係を築いて行く山本。
なかでも、柴咲組と敵対する組の面々に命を奪われそうになった山本を柴咲が温かく迎え入れるシーンでは、それまで張り詰めていたものが一気に緩むがごとく、山本は大号泣。その時に見せる小さな子どものような綾野の泣き顔を見て「抱きしめてあげたい...」という衝動に駆られるファンも少なくないはずだ。
その後、時代が2005年へと移ると、
金髪&白ずくめのファッションだった山本は、
ヤクザらしい黒髪&ダークスーツという出で立ちに。無精髭とサングラスというアクセントも手伝って、
クールでスタイリッシュな大人の魅力がたっぷりだ。また、山本の生涯の恋人となるホステス・由香を「Mother」「カーネーション」「最高の離婚」など、数多くの作品で綾野と共演してきた
が好演。綾野と共に、不器用ながらも少しずつ
距離を縮めて行く男女を息ぴったりの掛け合いで
表現し、物語にひとときの安らぎをもたらしている。
その後、兄貴分が犯した罪をかぶり、
14年間の懲役を終えて出所した山本は、
当時の綾野と同年代の40歳に。19歳、25歳の頃の
ギラギラとしたオーラはすでに消え、
一見するとヤクザには見えないほどの穏やかな
雰囲気となった山本を、綾野は肩の力の抜けた
演技で表現する。激変した社会に戸惑いながらも、
やっと手に入れた「本当の家族」を守るために必死に生きる山本。しかし、彼が生きてきた裏社会での
繋がりは、その人生に大きな影を落としていく。
ヤクザ映画ながら、暴力表現は控えめ。本作での演技が評価され、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いた磯村勇斗と綾野の共演シーンにも注目しながら、「家族」をテーマに社会のはみ出し者たちの愛と悲しみをスタイリッシュな映像と音楽で紡ぐヒューマンドラマとして、俳優・綾野剛の迫真の演技を堪能して欲しい。
文=中村実香