光人社は‘丸’の潮書房といわば同体。その‘丸’の連載などをベースにまとめた書。保阪さんの取材、研究を通じて考える‘陸軍にいた理性的な人’を紹介する本書のキモである第二部は、すべて書き下ろしだという。保阪さんだし光人社だし迷うことなく購入。
その第二部で10人の陸軍軍人を取り上げる。7人が司令官レベルの将軍、3人が佐官の参謀。いきなり最初が石原莞爾、さらにふたり目が武藤章でムムムッ、となった。どう考えても日本を誤った悪者では?、と訝りながら読みすすめた。やっぱりコチコチで単細胞な陸軍軍人だよ。続く下村定、渡辺錠太郎、今村均などは納得の好人物。部下につくなら、とうぜんこういう人につきたい。
なぜ相対するような人選を保阪さんはしたのか。真意は汲みあぐねたが、‘武藤は軍官僚としての良識派であるのに対し、今村は人間としての良識派’という一文にであった。軍の中で軍としての良識を発揮したから、人間としての良識派と並べる、という方式には賛同しかねる。読者としてはこんがらがった。そして書名には‘研究’とあるが、実際には副題のとおり単に‘人物伝’であった。今村、下村、宮崎繁三郎らのエピソードには感動的なものが多く読書の醍醐味ではあったのだが、佐官3人については保阪さんお得意のはなしばかりで他の書で読めるものでもあり、全体としてはガッカリな一冊であったと言わざるをえない。
やっぱり陸軍には悪の道を究めてもらいたい。保阪さんには次作‘陸軍悪辣派の研究’を期待。主役は牟田口、富永、菅原あたりで。
平成17年
光人社NF文庫
保阪正康 著
購入価格 : \110