私は魔境に生きた 終戦も知らずニューギニアの山奥で原始生活十年 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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570ページほどと、けっこうボリュームがある。ははーん、ニューギニア戦線のはなしね。いつものように山中を逃げ惑うはなしだと想像がつく。ところが今回は長い副題で内容が分かってしまった。むー、魔境であろうとは想像がつくものの、10年とはご苦労なはなしだ。冒頭の写真ページで、いきなり数人の原始人姿。昭和30年の帰国寸前の姿らしいが、これが元帝国軍人の姿とは。まんまニカウさんじゃん!

 

はなしとしては、やっぱりいつもと同じ。ニューギニアに上陸はしたものの赴任予定地がいきなり米軍に占領され、補給も行く宛てもなくなり山中を逃げ惑う。面白いのが、米軍占領下の海岸沿いの平地にある日本軍の物資集積庫がそのまま放置されていて、数ヶ月に1回とか夜中に食料を盗み(?)に行くこと。命がけではあるが、1年かそこらは米を食って生き延びていた。最初は30人ほどだったが一度の敵襲、さらに奥地へ入ってからのマラリア、栄養失調などで最終的には5人になった。その一度の敵襲以外戦争シーンはでてこなくて、あとは山の民のものがたり。原住民に見つからないくらい深いところに農園をつくり自給自足体制(バナナ、パパイヤ、タピオカ、甘藷だけ)を確立、数丁の拳銃でときおり野ブタ、火喰い鳥を撃つ。やがて原住民に見つかるも、物資の物々交換での入手に役立ったのは鍛冶、木工の技術。けっきょく本書は戦争のはなしではなくて、サバイバルのはなしだった。その方面ではけっこう名著扱いされているようだ。また原住民とは良好な関係を築き、会話もこなしていて、彼らについての記述は貴重な民俗学、人類学上の記録だろう。

 

最後にオランダの官憲に見つかり(昭和29年)、ついに日本の敗戦を知る。それまでずっと‘やがて援軍が来る’と信じて耐えてきた彼らが涙に暮れるシーンには、こちらも涙を誘われる。帝国軍人の精神かくあるや。もちろん故郷では墓までできている。横浜に船で帰国したシーンで終わるが、その後の地元での歓迎ぶりや家族の反応なども知りたかった。著者は平成時代までご健在だったようだが、戦後、平成という時代は彼にどのように映ったのだろうか。

 

平成19年 (原著は昭和61年)

光人社NF文庫

島田覚夫 著

 

購入価格 : \110