艦と人 海軍造船官八百名の死闘 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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‘造船官と用兵者の絶え間ない相克のドラマ’を、のちの海軍技術中将福田烈を軸に描く。著者は俺は知らなかった方だが、陸軍航空士官学校で学んだ経験もあるという戦中派とのこと。前線での戦闘のはなしこそが戦記の真骨頂だが、こういう取材を重ねて戦争の労苦をあぶりだす文学もドキドキさせられて大好きだ。

 

東京帝大船舶工学科を出た福田が海軍に奉職する大正7年からはなしは始まる。船体をリベットで打つか、溶接するか、どちらも当時の技術では一長一短であり、造船現場と実地部隊との火の出るようなケンカがリアル。福田は完全に溶接推進派で、やがてその技術がリベットを圧倒し、全艦艇で溶接が採用されてゆくさまから旧弊組織での革新とはかくあるや、ということがうかがい知れる。著者は‘用兵者即技術者であったアメリカと、技術者の上に用兵者が君臨していた日本との相違’をことさら強調し、日本の不明を嘆く。

 

甲標的とか回天とか、個別の艦艇の開発についての話も興味深いが、前線での圧倒的な負け戦とは関係なく、着々と成果を積み重ねてゆくさまだけが語られるのはなかなか小気味よい。ただし副題に‘死闘’とあるとおり、無理な仕事で命を落とした造船官についてもページを割いていて胸が張り裂ける思いだ。(★)以前紹介したこの人の名著‘海軍めしたき物語’にも触れている野坂昭如による解説が白眉。

 

昭和61年

集英社文庫

飯尾憲士 著

 

購入価格 : \350