阿川さんは上海あたりで暗号解読将校やっていたと思っていたけど、キスカ撤退という大舞台にも参加していたのか?、と書名にのけぞった。冒頭のいいわけによると、やっぱりもちろん当時キスカ撤退なんてのには関係ないが、作家生活をしているなかで多くの未発表の資料が集まってきたこと、そしておそらく作家としては初めてアッツ島に行ったこと、などにより書く必要を感じたとのこと。そこで私記と断りを入れたのだ。
キスカからの撤退作戦と言えば、(★)以前紹介したこの本でおなじみの木村さんが主人公だ。本書ではもう一人、気象担当の将校を主人公に据え、濃霧、悪天候ばかりのアリューシャンで好天(このばあいは濃霧)を予報することの困難、苦悩を伝える。
そして阿川さんは宿泊施設もなにもないアッツ島の激戦地を訪ね、戦跡をたどる。米軍が立てた墓標を探し当て手を合わせる。そしてていねいにも‘今後訪れる人のため’、その場所を詳しく教えてくれている。
以上までで半分ほどの分量。残りの半分はいつものユーモラスに語る海軍エッセイの数々。真珠湾攻撃の飛行経路を搭乗のチャーター機で再現した‘二十八年目の真珠湾’は大人の遊びだよ。きわめてまじめで興味深い一章だが。
昭和63年
文春文庫
阿川弘之 著
購入価格 : \108