まえがきに書かれているが、女が語る戦争というのはつねに、彼女たち自身がどう生きたかではなく、彼女たちから見た男たちの姿だった、という。女が語る戦争といえば、(★)以前紹介したこの本などが思い出されるが、確かに多くがそうだ。‘生身の若い女性たちにとっての「あの時代」’を語ってもらうというのが主旨だそう。フムフム。
5人の女性へのインタビューをそれぞれ文章にまとめてある。多岐に渡る分野で活躍してきた女性たちばかりだが、俺が知っているのは女優の赤木春恵さんと国連難民高等弁務官の緒方貞子さん。5人5様の戦中だが恋人の戦死、米兵によるレイプなどインタビュアーが女性だったからこそのはなしも多い。
戦時下とはいえ若き乙女にはきらめく青春があったことは当然。我々が当時を思い浮かべるとき、すべてが軍国調のもとで厳しい統制下での暗い生活を余儀なくされていた、と思いがちだが、うわべだけ取り繕って中身は乙女、という部分があったのだ。抑圧下の民衆にはその‘うわべ’は重要なツールだが、それが権力者によって構築されると一転凶器になる。その‘うわべ’をなにより重視しているのが昨今の政治であり、それを結局期待しているのが我々一般国民だという矛盾。危急の事態にこそ、うわべを取り去った真の対応が必要なのに。
平成24年
角川文庫
梯久美子 著
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