天狗争乱 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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先日バイクで走っていたら、‘天狗党の墓→’という標識にであった。福島県と茨城県と栃木県の境の八溝山に近いところだ。そういえば、自宅に積んであるまだ読んでいない吉村さんの本に、天狗党についての本があった。今回みたいに、なにかに導かれるように読書を始めるのっていいよね( ゚_ゝ゚)ノ 。

 

幕末に独自の尊皇攘夷思想が発達した水戸で、開国に舵を切る幕府に異を唱える一派がついに武力に訴える。図らずも幕府に追われる立場になり、規律正しく見目美しい千人あまりの徒党が京都の徳川慶喜の下に赴かんとおもに中山道を通って西へ向かう。最終盤、警備の厳しい琵琶湖南岸を避けてまわった北から敦賀に到って幕府側に投降する。戦争には強い彼らは、幕府の命で通行を食い止めようとする道中の諸藩を各所で撃破。噂をきく多くの藩、町は‘お金をあげますからどうぞ我が町を迂回してください’と乞い、彼らが通り過ぎるとズドーンと大砲を撃つ。追い払ったぜ、というウソの証拠づくりのための一発。メンツとカラ実績づくりにきゅうきゅうとするのは、今も昔も役人の得意技。

 

1860年代のはなしというので、幕府の権威も地に落ちて日本中が反旗を翻しているような常態かと思ったら、本書に出てくる日本中の藩はどこも幕府の命に抗する勇気を持たない。幕府のいうことは絶対。天狗党に理解は示しつつも、結局は積極的な協力には到らない。吉村さんはいつものごとく事実のみを淡々と書き連ねるが、その悲劇的な最期を詳細に書いたからか、その筆致は彼らには同情的だ。俺がであった‘天狗党の墓’の標識は、メインの部隊が上京する直前に破門された暴力的な一派面々の墓であった。

 

平成11年

朝日文庫

吉村昭 著

 

購入価格 : \86