慶州ナザレ園 忘れられた日本人妻たち | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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書名からではさっぱり何についてだかわからない本。以前紹介したこの本やその他の上坂さんの随筆でこの本については触れられていたから、俺は興味を持たされていた。意外と見かけない本なので、店頭で見つけてすぐに購入を決断。

 

副題を見れば、なんとなく取材対象がわかるだろう。つまりは朝鮮が日本の一部だった時代に朝鮮人と結婚して朝鮮に渡り、そのまま行き場がなくなった老日本人女性への聞き取りルポだ。行き場が無いなら日本に帰ってくればいいじゃん、などとすぐ言ってしまいそうだが、事情はそう簡単じゃない。本書によると、典型的パターンは以下のようだ。朝鮮人だと明かさずに近寄ってきた男性に強姦され、しかたなく求婚を受け入れ朝鮮へ渡る(このあたりは現代の感覚とは大違い)。しかし現地にはすでに妻子がいて、家族からは疎まれ挙句に捨てられる。苦難の歴史はそれだけではない。

 

だいたい朝鮮人男性との結婚なんて当時の日本で祝福されるはずもなく、戸籍関係もいいかげんに放置され、終戦のゴタゴタがあり、現地での日本人差別にさらされ、さらに朝鮮戦争で離散、死別、逃避行などなど、まさに労苦をすべて背負い込むかたちになった。挙句、無戸籍状態になり、日本の外務省も受け入れに動かない。おまけに日本の親戚からも‘親類縁者の反対を押し切って勝手に朝鮮人と結婚した迷惑者’と受け入れてもらえず、帰国などとてもかなわない。そんなおばあさんたちが日韓のキリスト教関係の団体の支援で、とりあえずの安息の地を得て生活している様子を、上坂さんはひたすら聞く。どれも読むだけで胸が張り裂けるような苦しい話ばかりなので、たまたま帰国がかなったおばあさんの項では、本当に安堵の息が漏れた。

 

本書が出てからもう30年以上が経ち、登場した多くのおばあさんは皆亡くなっているだろう。その後に安らかな余生を送れたことを祈らずにいられない。

 

昭和59年 (原著は昭和57年)

中公文庫

上坂冬子 著

 

購入価格 : \86