新ルポ 精神病棟 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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こんな、俺がめったに読まないような本をなぜ今回取り上げるのか。それは、以前取り上げたこの本の巻末の広告を見て以来気になっていた本だから。時を置かずして見つけてしまったので、これこそ神の啓示。レコードと同じく、こういうのは勢いとタイミングだ。

 

その広告には‘アル中患者をよそおい精神病院に潜入した記者が、その戦慄すべき実態を暴露’とあった。買ってから気づいたが、それは‘ルポ 精神病棟’の広告で、本書はその続編だった。この続編では潜入取材ではなくて、宇都宮病院事件を取り上げる。俺が幼少の頃、ニュースで話題になっていたことをなんとなく覚えている。院長が東大と組んで、患者を集めて何年も囲い込んでろくな医療を施さずカネだけを国からむしりとり、自分ら家族で年収2億円以上あげていたというはなし。暴力が支配する恐怖の世界をつくりあげ、結局患者から死者を出す事態となって問題が表面化したのだ。いいかげんとかひどいとかの言葉では語りつくせない、凄惨でありえない描写ばかり。現在ではその手の医療施設は存在しないと言い切れるだろうか。

 

俺の小学校の近所にあった精神病院は窓枠すべてに格子があり、その異様な光景はおバカな小学生だった俺にとっても恐ろしいものだった。実態を知らずにただ恐れていたわけだが、本書の後半で取り上げられる理想的な精神病院の数々とは遠い、旧いタイプの病院だったのかしら、と読みながら考える。深刻な問題にもかかわらず、意外と著者は軽々しい口調ですべての登場人物、施設に興味津々な様子。どうやってアル中患者をよそおったのか、前編‘ルポ 精神病棟’もぜひ読んでみたい。

 

昭和63年 (原著は昭和60年)

朝日文庫

大熊一夫 著

 

購入価格 : \84